7.抜き打ち面接

「それでは面接を始めます」


 変人と僕はテーブルを間に挟み椅子に座った状態で面接を始めた。


「ではまずお名前を教えてください」

「私はディア・ルイセント! よろしくね」

「僕はエト・アルハドールです。こちらこそよろしくお願いします」

「面接官がそんなに腰低くて大丈夫なの?」


 次の質問はそうだな……ステータスとか聞いてみるか。

 いや見ればいいのか。それでスキルは聞くとしよう。



================

名前:ディア・ルイセント


レベル:2

筋力:221

体力:189

耐性:189

敏捷:89

================



 た、高い。僕よりも遥かに色々と数値が高い。 

 なんかちょっと嫌だな。


「ステータスは結構高いんですね」

「え? なんでわかるの? こわこわ」

「それでスキルは何を持ってるんですか?」

「それは実際に戦闘した時の方がわかりやすいからその時ね」


 採用しないとスキルを知れないだと。

 この変人、中々の策士やもしれない。

 でもまぁ、ちゃんと条件通りだし採用してもいいか。早く人数を集めてダンジョンの攻略効率も上げたいし。


「それでは以上で終わりです」

「もう終わり? 案外早いね」

「結果は折ってご連絡しますのでおかえりください」

「いや、今ここで教えてよ!!!」

「知りたいんですか?」

「いいから!!!」

「合格ですよ。これからよろおねがいします」

「まぁ、当たり前の結果だよね!」


 やっぱり合格にすべきじゃなかったか?


「それじゃあディアさんは空いてる部屋をてきとうに使ってもらっていいですよ。活動は明日からやります!」

「わかったけど、さん付けとか敬語とかそういうのいらないから! もう仲間なんだし」

「仲間……そうかもしれない。よろしく、ディア」

「なんで微笑んでるの? まあ、よろしくね、エト」


 ディアは荷物を持って二階へと上がっていった。

 一階に残った僕は椅子に座ったままボーっとしていた。

 すると唐突に眠気が僕を襲ってくる。どうやらダンジョン内に長い時間いたことで相当体が疲れてしまっていたようだ。

 

 ここは素直に本能に従う方が良いのだろう。

 そして僕はテーブルに突っ伏した状態で意識を失ったかのような速度で眠りについた。


***


「お父さん、今日はどんなこと教えてくれるの?」

「そうだなぁ。んじゃ昨日に続き剣術を叩き込んでやろう」

「どんなのどんなの!!」

「いいか、剣はこう力強く握るんだ。想いも何もかも乗せるように。そして剣と一体となって振るんだ。そうすればお前も剣士として最強になれるぞ」

「別に剣士の最強は目指してないよ?」

「剣士はいいぞ〜」


 これは昔の記憶?

 ついに夢にまで出てくるようになったのか。


「エト、いいか。これだけは忘れるな。剣士ってのは一番死に近い存在だ。前線で果敢に責めなきゃ仲間が死ぬ。でもそんな剣士だって死ぬ時は死ぬんだ」

「それは怖いね!」

「そう思うだろ? エトが感じたその恐怖を押し殺すんじゃなくて共存させるんだ。恐怖すらも自分の力にしてしまえばいいんだ。恐怖を押し殺してちゃいつか限界が来る。だからわかったかエト。恐怖をものにしろ。そうすれば恐れ知らずの最強剣士の誕生だ。」


 ここからだっけな。父さんはよくその言葉を言うようになった。

 でも今の僕にはまだその言葉通りにすることは難しい。

 恐怖をものにするなんて僕にはまだ出来ない。ただひたすら湧き上がる恐怖の感情を押し殺して奮い立つことしか出来ない。


 いつしかは父さんの言っているようにしなきゃならないことはわかってる。

 分かってるからこそ、意識をするからこそ分からなくなってしまう。

 

「じゃないと父さんみたいに片腕をなくすからな。忘れんじゃねーぞ。いいな!」

「わかった! 約束する!」

「おう! それでこそ俺の息子だ! んじゃそろそろ母さんとこに戻るか」

「また怒られちゃう!」

「前回は父さんだけ飯抜きになったからな。今日は早く戻るぞ!」

「お〜!!!!」


 あの頃が懐かしい。

 昔はあの日まで恐怖とは無縁だったのに、あの日までは。

 それからはいつも僕の隣には恐怖がついている。その恐怖がいざという時に僕の行動を止めそしてまた後悔させてくるんだ。


 どうすればいいんだろ、父さん。


「そうだな。だったら――」


 !?


***


 ハッとなり僕は目を覚ました。

 外は明るく鳥がチュン、チュンと鳴いている。


 こんなとこで一夜を過ごしちゃったのか。

 やらかしたな。


 体を伸ばそうとした時、背中から何かが落ちる音がした。

 なんだろうと思い床を見てみると薄い毛布が落ちていた。

 もしかしてここで寝落ちしてしまった僕にディアが毛布をかけてくれたのだろうか。

 変人みたいな感じだけどやっぱりいい人なんだな。

 僕がそんなことを思っていると階段から目をこすりながら降りてくるディアと目があった。


「おはようぉ〜」

「あ、おはよう」


 大きなあくびをしながら挨拶をしてきたディアはそのまま椅子に座ってボーっとし始める。

 なんというか昨日と違和感がありすぎるんだがこれは一体なぜなのだろうか。

 僕は原因解明のためディアの姿をくまなく直視する。

 

 少し寝癖のついている金髪。

 ズレて服からはみ出る肩。

 整った容姿にスラッとしたスタイル。


 それと……。

 

 そうだ、あの変人トレンドマークみたいなリボンのカチューシャがない!

 まさかたったひとつのアクセサリーだけでこうも印象ががらりと変わるなんて。


「そう言えば今日はダンジョンに行くんでしょ?」

「先にギルドに寄ってから行く予定ではいるけど」

「全部が終わったら家に用があるから、荷物を整理とかね……。だから一日この家にいないことになるんだけどいい?」


 活動開始初日で一日間活動休止のお知らせ…………。

 いや、まぁ、僕が一人でダンジョンをぐるぐるとしてればそれはパーティーの活動だし、だからなんともないし。

 一人で寂しいというわけでもない。


「そうか。まぁ、出来るだけ早く帰ってきてくれると助かる」

「そうする〜。それよりなんか食べるものとかってない? お腹空いて死んじゃう」

「いつも死んじゃうな」

「まだ二回目だと思うけど?」

「あそこの棚に入ってると思うから勝手に食べていいよ」

「完全スルー!?」


 ディアが棚に食べ物を取りに行っている間に僕は二階に上がり別の服に着替えることにした。

 部屋に入り棚を開けまだ比較的綺麗な服と取り替えて着替える。

 さて今日は何階層まで行くか。もしかしたら五階層まで行けるかもしれない。

 そうなればさらにステータスを上げられる……完璧な作戦だ。


 着替え終えた僕は一階に降りていく。

 すると階段下には既に昨日と同じ格好になって待っているディアがいた。


「早くギルドに行こうよ」

「今いくから」


 僕は階段を駆け下り扉の近くにおいていたリュックと剣を身につける。

 そしてディアと共に生まれて初めてのパーティー活動をするために扉を開け外に出た。







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