2.救世主
今はただ避けるそれしか出来ない。
反撃をする暇など与えてもらえなかったのだ。
一度避けても次から次へと休みなく接近してくる枝は僕の体に何度もかすれる。直撃しないだけマシだが当たった場所がヒリヒリして痛い。
でもこの程度我慢出来なくては強くなることなんて……。
僕は痛みを必死に堪え避け続ける。
しかしアーブルに近づくことは出来なかった。
こんなことを繰り返していてはいずれ僕は限界を向かえここで死ぬことになる。
どうにかあのアーブルのもとへ行ければ、一度でも攻撃を与えられたのなら希望は見えてくるはずだ。
僕は持っている限りのちからを振り絞ってアーブルへと駆け出す。
不規則に波打ちながら迫ってくる枝を何本も避けどんどんと距離を詰めていく。
ようやくアーブルの根本まで来た時地面が浮き上がるような感覚に陥る。
下を見ると亀裂が入り崩れた部分から根と思われる枝よりも太いものが姿を現した。
その根は床から出てくるやいなや僕の靴底に当たり高く押し上げてきた。そして体が宙に浮く。
気持ち悪いほどの浮遊感に襲われながらも本来の目的を思い出し僕は宙でどうにか体勢を整えようと試みる。
剣に体重を乗せるようにしてアーブルに向かって剣を振った。体の落下に合わせて振ったことでアーブルの体には一直線に亀裂が入った。
これなら勝てるかもしれない!
どうにか地面に着地した僕はそう思った。しかしそれは甘すぎる考えだった。
亀裂の入った部分から黄色いドロドロとした液体が分泌され始めて亀裂を覆っていく。
少しして液体は完全に亀裂を覆い終わると徐々に亀裂が塞がっていくように見える。
そこで僕は
そう、きっとあれは負傷部分を治癒する力なんだ。
斬っても斬っても治癒されて元に戻ってしまう。再生までに時間がかかるとはいえ治癒されてしまうという状況は非常にまずい。
こうなったら本格的にどうすればいいんだ?
逃げる……か? でもどうやって逃げればいいんだろうか。
周りは石壁で覆われていて出られるような場所もない。強いて言うなら落ちてきた穴くらいだろうか。
何も見てはいない。でも体が自然とビクッと何かに反応した。
よそ見をしているその隙に僕の前から枝が向かってきていた。
まずい……!
とっさに剣で防いだが枝に弾かれてしまい剣が宙を舞う。
無防備になった僕に攻撃をさらにしてくる。腹部に枝が当たりまたしても僕は弾き飛ばされてしまった。
「はぁ…はぁ……」
そろそろ限界が来そうな気がする。
その前にどうにかアーブルにダメージを与えないと。早く剣を取りに行かないと……。
僕は立ち上がり剣が落ちている場所に向かおうとするがふらついて中々進めない。
おまけに目の前からはまた枝が迫ってきている。
もう無理だ……。やっぱり僕には……。
僕は攻撃を受け入れて目を閉じた。
バゴォーン!!!!
目を閉じたその一瞬で物凄い物音が鳴り響いた。僕は思わず諦めて閉じた目をすぐに開く。
するとアーブルの枝は何本も切り落とされていた。そして目の前にはスラッとしたスタイルの剣を持った女性が立っていた。
「立てる?」
女性は僕のもとに近づいてくると手を差し伸べてそう言った。
「は、はい」
自力で立てるが僕は一応女性が差し伸べてくれた手を使って立ち上がった。
「君、一人?」
「はい」
「とりあえずあれを倒してみよう」
「で、でも僕はレベルが1だし……才能もないので……」
「特別な力がなくともいずれ強くなれる。だから自分を永遠に信じて」
「自分を信じる……わかりました。どうにかやってみます」
「私があれを引き付けておくから剣を拾ってきて。そしたら君があれを倒す」
「はい!!」
僕は女性から離れて剣が落ちているところまで走る。
やはりアーブルは僕のことを狙っているのか枝をこちらに向かって放ってきた。
しかしそれら全てを女性は華麗に斬り落とした。
僕はこのチャンスを無駄にするわけにはいかないと奮起しアーブルめがけて駆けてゆく。
「この魔物の弱点は下の方。弱点に当てれば再生はしない」
「わかりました!!」
剣をこれまで以上に強く握り声を出しながら走っていく。
その間に向かってくる枝は女性が処理していてくれたおかげで僕はスムーズにアーブルに近づくことができた。
チャンスを無駄にするわけにはいかない。
この一撃でどうにか終わらせる。
「いけェェェェ!!!!!!!!」
僕は全力で弱点めがけて剣を振る。
これまで経験したことのないほどの力が一気に体から抜けていくのを感じる。
徐々に剣はアーブルに刺さっていく。
そして気づけばスパッとアーブルの体を斬り裂いていた。
「はぁ……はぁ……」
アーブルは斬られると光となって姿を消した。
そして足元に大きな魔石が落ちる。
やっと終わったんだ……。
死ななかった……。
僕はそこで意識を失い地面に倒れた。
きっと戦闘での疲れが一気に来たのだろう。
***
僕が目を覚ますとそこは見知らぬ部屋のベッドの上だった。
上体を起こし状況を確認する。まだ体が痛むが致命的でないだけましだ。
ベッドの横にあるタンスを支えにして僕のリュックと剣が置かれていた。
ひとまずこの部屋を出ようと思い床に足をつけた時、部屋の扉が開いた。
「もう起きたんだ。おはよ」
「もしかして僕をここまで運んでくれたんですか?」
「することがなかったから運んだ」
「ありがとうございます! それでここって……」
「ここは私のパーティーの屋敷。だから安心して」
「は、はい!!」
あの時の女性が扉を開けた状態でいると扉の外から覗き込んでくる男性がいた。
「おっ! やっと起きたか。一日も寝込むとかどんだけ体力使ったんだ?」
「い、一日も!?」
「リーシアがお前を運んできた時はびっくりしたぜ。まぁ、元気になってよかった」
「なんかすいません……色々迷惑かけちゃって」
「謝ることなんてねぇよ。元はと言えばリーシアが勝手に連れてきたんだしな」
男性は扉から覗くのを止め部屋の中に入ってきて僕がいるベッドの近くまでやってきた。
「そういや、お前、なんて名前なんだ?」
「ぼ、僕はエト・アルハドールです」
「エトか、よろしくな。俺はドッグ・ウォンスターだ。んで……」
「私はリーシア・ファインズ。他にもいるけどそれはあとで。それよりあの魔物を倒したけど何か変化はあった?」
リーシアさんにそう言われて僕は思い出す。
あんな魔物を倒したんだ。もしかしたらステータスが大幅に上がっているかもしれない。
僕はすぐに確認をする。
================
名前:エト・アルハドール
レベル:1
筋力:102
体力:98
耐性:87
敏捷:66
スキル
*
*未習得の為、表示不可
================
お、結構上がってる。やっぱり強敵と戦うとステータスの増加幅は凄いんだな。
それに ”未習得の為、表示不可” って何なんだろう? 前まではなかったと思うんだけど。
僕が上がり具合に感動しているとリーシアさんがパネルを覗き込んでくる。
「あれ、レベルが上がってない」
リーシアさんはポツリとそう呟いた。
思わず僕はえっ? と反応する。
「上がるのが普通なんですか?」
「エトくんの場合なら上がってるはずなんだけど上がってない」
上がっているはずなのに上がっていない……、それは一体どういうことなんだろう?
表記の不具合とかそういうものなのか。いやこのパネルは僕と同期しているようなもの、そんなことが起こるわけがない。
ということは本当に上がっていない……のか?
そんなことがあっていいだろうか。
僕はステータスパネルに表示されたレベル1という文字をただひたすら見つめていた。
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