レベル1の冒険者、ダンジョンで成り上がる

丸出音狐

第一章 

1.二度目の絶望

 あの日のことを今でも思い出す。

 恐怖を前にして何もすることができなかった自分。

 弱かった、力がなかったからと言い訳に過ごす日々。

 僕はもうあの時と同じような過ちを犯さないためにも絶対に強くなる。

 たとえレベル1からだとしても。


***


 僕は今ダンジョン都市という場所に住んでいる。

 本当の名はリトルリアというのだがここには多くのダンジョンが存在しておりいつの間にかダンジョン都市という名前が定着していたそうだ。

 そんな僕は今日も強くなるためにダンジョンへと向かっている。

 リトルリアに来てから既に七日ほどが経過したがやはりダンジョンというのは慣れないことも多く大変な毎日を送っているがくじけるわけにはいかない。

 だって僕は強くならないといけないんだから。


 とはいっても最強と名のれるまではほど遠い。

 今の僕の状況はこんな感じだからだ。



================

名前:エト・アルハドール


レベル:1

筋力:45

体力:43

耐性:32

敏捷:33


スキル

能力明晰ステータス・クラリティ

================



 最初の頃はこれよりも酷い数値だったので少しは成長していると実感する今日この頃。ちなみにどれほどかというとほぼ全てが一桁というレベルだ。


 まだ数値を上げ始めてから日にちが経っていないからわからないこともあるがその分わかったこともいくつかある。

 レベルという概念。これについてはまだよくわからないことが多い。

 どうすればレベルが上がるのかもわからないし……。

 ただステータスの数値を上げる方法は知ることができた。

 ステータスの数値は主にダンジョンの魔物を狩ることで微小ながらも上昇する。また魔物の強さが上であるほどさらに上昇する幅は大きくなる。


 そしてスキル。

 僕の持っているのは能力明晰ステータス・クラリティという他人のステータスを勝手に覗きみる事ができるがスキルまでは見ることが出来ない戦闘に不向きなスキルだ。ちなみに魔物のスキルはなぜか見ることが出来る。

 なんで見れるのと見れないのがあるのか。そこら辺の仕様は未だに分かっていない


 しかし文句を言っていても仕方がない。

 僕がやることはただひたすらこの剣を使って魔物を狩ってステータスの数値を上げて強くなる。それだけだ。


 ひらけた場所にあるダンジョンの入口につくことができた。周りには既に多くの人達がダンジョンに出入りしている。

 その中を僕は歩き石で覆われた真っ暗な空間に足を踏み入れる。入るとダンジョンの壁に付けられた明かりが僕を照らす。

 入口付近の魔物は既にいる人達によって一掃されていたので奥へと進むことにした。


「おめぇ、はよ石いれんかい」

「一回戻りましょって。流石にこれは多すぎて持てませんから」

「この根性なしが」


 周りからはそんな会話が聞こえてくる。

 男が言っていた石というのは所謂魔石のことで魔物を殺すと落とすのだがこれをギルドというところに持っていくと硬貨と交換して貰う事ができる。

 ちなみに今僕が着ているちょっとした装備も頑張って貯めた硬貨で買ったものだ。

 

 そうこうしているうちに結構奥へ来た僕だが目の前にゴブリンがいることに気付き鞘から剣を抜いて構える。

 こちらの存在に気づいたゴブリンは持っている棍棒を頭の上でぐるぐると振り回し見つめてくる。どうやら威嚇をしているようだ。

 僕は剣を持ってゴブリンへと走り出す。ゴブリンもまたこちらに向かって走ってくる。

 だが今の僕はゴブリンくらいなら簡単に――。


 シュパッ!!!


 すれ違ったあとゴブリンは体から血を流し地面に倒れ込んだ。

 一秒ほどしてゴブリンの死体はモヤとなって消えそこには小さな魔石が一つ落ちていた。

 僕はその魔石を拾って背負っていたリュックに閉まった。

 今のでステータスの数値はどれくらい上がったかと言うと……



================

名前:エト・アルハドール


レベル:1

筋力:52

体力:43

耐性:32

敏捷:33


スキル

能力明晰ステータス・クラリティ

================



 ゴブリン一体の価値はこれほどまでしかない。しかもステータスの数値は上げたいものを選ぶことはできず完全ランダム性ときた。中々に苦労することになりそうだ。

 でも続けていればいつかはきっと強くなれるはず。

 だから今日もこれまでと同じ様に魔物を狩るだけだ。


***


 あれからしばらく魔物を狩り続けていた僕は気づけば相当奥まで来ていた。

 見たこともない場所で人もいない。なんだか気味が悪い。

 しかし興味があったので引き返さず歩いていると前に出した右足が地面につくことがなく下に落ちる感じがした。急いで下を見てみるとなんと真下に不自然な穴が空いていた。


 明かりが少なく暗かったせいで穴の存在に気づくことができなかったのか……。


 体の八割が穴の下に落ちているがとっさに両手で崩れている部分を掴んだ僕はなんとかぶらさがった状態で耐えることができた。

 しかしここからが問題だ。どうやって体を上に戻せばいいのか。手に力を入れても背中に背負っているリュックの重みで中々上がらない。

 考えている間にも掴んでいる部分が徐々に崩れていくような感覚が手に伝わってくる。


 このままだと本当に……。誰か助けて……。


 だがこの周辺には全く人などいなかった。故に助けてくれる者など誰一人いない。

 僕にはもう落ちるという選択肢しかなかった。

 そしてついに体が下へと一瞬だけ動いた。

 まずい、そう思った時には掴んでいた部分が崩れ僕はそのまま一直線に下へと落ちていった。

 少し目を瞑っていたが目を開くと先に湖のような場所があることに気づく。

 あそこに落ちればなんとか生きられるかもしれない。

 僕は着水する前に息を止め湖の中へと落ちた。


 段々と苦しくなってくる。僕は急いで水面まで上昇し息を大きく吸った。

 ふと周りを見てみるとそこは太く大きな木が一本佇んでいた。周りは苔の生えた石壁で覆われており空間の様な場所だった。


 とにかく陸へ上がろう。


 僕は泳いですぐそこの陸へ上がった。

 服もリュックも随分濡れてしまった。出来るだけ服の水を絞ったがリュックは相当な水を吸い込んでいるようでこれを背負ったまま探索するのは大変だ。

 なのでひとまずリュックだけはその場に置いて周りを少し探索してみることにした。


「ここって何階層なんだろう」


 大きな木に触れながら呟いた。

 するとどこからかミシッと何かがきしむ音が聞こえてくる。

 音の出どころを探すため周りをキョロキョロしていると後ろから音がしていることに気づく。

 後ろを振り向くがそこには大きな木が立っているだけで何もない。

 一体……。


 無風の空間であるはずなのにも関わらず木の枝が動く。それも不自然に。

 まさかだとは思ったがそんなはずがあるわけがない。

 しかしそんな考え方をしたことをすぐに後悔した。ここはダンジョン、何があるかも起こるかもわからない。もし木が動く何かだったとしても。


 何本もの枝が伸び波の様にうねうねと動いている。

 これがもし魔物なら……と思った僕は急いで鞘に入った剣を握るが遅かった。

 それまで波の様に動いていたうちの一本の枝が僕の腹部めがけてムチのように攻撃をしてきた。


 その攻撃は猛烈な痛みと共に僕の体を勢いよく吹き飛ばした。

 一度地面にぶつかると多少減速しその後も何度か地面にぶつかっては減速を繰り返しようやく止まった。

 すぐに立ち上がろうとした僕は地面に手をついた瞬間にふらっと意識が途絶えかける。


 だがなんとか耐え立ち上がろうとした時、地面にポタっと赤い液体が一滴落ちる。  

 どうやら額から血が流れてしまっているようだ。

 その他にも擦り傷が何箇所か。回復薬を飲めばどうにかなるかもしれないがそれらはあの遠くに置かれたリュックの中。


 向かっている間にまたあの木に攻撃をされるに違いない。そうなればさらなるダメージを受け動くことすら出来なくなるだろう。

 なら今動けるこの状況を維持している方が良いはず。


 ひとまず冷静になって能力明晰ステータス・クラリティを発動する。

 すると魔物の横に数値が表示される。



================

名前:5階層ボス 木の魔物 アーブル


レベル:2

筋力:271

体力:102

耐性:95

敏捷:0


スキル

樹液の癒やしセーヴ・ゲリール

================



 俊敏はまだしもそれ以外の数値が僕とかけ離れすぎている……。それにレベル差もある。

 レベルの差が1だからといって馬鹿にすることは出来ない。その差を埋めるには相当な時間がかかることになる。

 そんな相手に僕はどうやって対抗すればいいんだ。

 このたった一つの剣で……。


 僕は立ち上がりただアーブルを見つめていることしかできなかった。






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