第207話 依頼の真相

 サラダさん、サラダさん…… 聞き覚えがあるけど、誰だったっけ? そんな風に美味、イータ、デリシャの三名が首を傾げまくっていると、甘露が助け舟を出してくれた。


「サラダさんと言えば、世界的に有名な舞台職人の方ですね。昇格式の模擬戦でトレビアさんと戦ったあの舞台も、サラダさんの作品の一つです」

「昇格式の舞台? ……ああー! 妙に頑丈だった、あの舞台か! 私も覚えているぞ、凄い舞台だった!」

「お姉ちゃん達もトレビアさんも相当無茶をしたのに、結局最後まで壊れませんでしたもんね! 空も舞ったのに!」

「ぶっちゃけ、今の私様のパワーを以ってしても、破壊できるかどうかは微妙なところですわね。空腹状態なら、まあいけると思いやがりますが」

「へぇ、舞台が空を舞ったんだ? 俺もその戦いを見たかったなー」

「私も私もー」

「クフフ、西大陸まではなかなか足を延ばせませんからねぇ」


 サラダの作った舞台を、異様な頑丈さと共に思い出す事に成功する一同。ちなみにではあるが、後にも先にも、S級冒険者同士の戦いで舞台が破壊されなかった例は、あの時を除いてなかったりする。そういった意味で、あの舞台は快挙を達成した歴史あるものと化していた。現在は舞台職人の里に安置され、観光名所となっているとかいないとか。


「で、その『舞台職人界の究極サラブレット』であるサラダさんが、ヴィヴィアンさんに何を依頼したんですか? 人里に来た時点で騒ぎになりそうな竜王さんと違って、サラダさんは普通に冒険者ギルドに依頼しても、特に問題ないと思うのですが」

「おっとー、カンロさんとは本当に気が合いますねー。私も同じ事を思って、これまた同じ質問を返してみたんですー。するとですねー、新たな舞台作りをする為の特殊な鉱石が欲しいと、そう言うではありませんかー。それもですねー、完成まで外部に情報を漏らしたくないとかで、ギルドへの依頼も秘密にしておきたいらしいんですよー。で、信頼に足る最高峰の冒険者であるー、この私を仲介役にしたとー、そういう訳でーす」

「な、何て事だ、人選のセンスが絶望的過ぎる! サラダ氏の舞台作りに対する実力と情熱は誰もが認めるところだけど…… 流石にその人選はないッ! 天は二物を与えずとは、正にこの事なのかな!?」


 本当に信じられない! といった様子で、天を仰ぐドルモ。


「けど、なるほどねぇ。立場上、表立ってギルドに依頼する事のできない土竜王に、舞台に使用する新材料を秘密にしておきたいサラダ氏、それぞれに事情があって、ヴィヴィアンに取引を持ち掛けたって訳だ。 ……いや、それにしたって何でヴィヴィアン? もっとこう、うちのヴァンや口の堅そうなパウル氏とか、相談に適任な人材は他にも居たんじゃ?」

「まだ言いますかこの野郎ー? それはドルモさんが思っていた以上に、私に対する評価が高かったって事ですよー。私ってこの見た目通り、仕事ができる女ですからー」

「そんな減らず口を叩けるメンタルの強さと性格のクソさだけは認めるところだけど、絶対他に事情があるよねー? まだ何か隠している事があるんじゃないかなー?」

「はて、一体何の事でしょうかー? 私には皆目見当もつきませーん」


 ヴィヴィアンとドルモによる口論が勃発。これは長くなりそうだ。


「ジル、アレが世に言う醜い争いってやつだよー」

「アレがそうなのね、ロベルト。本当に醜いわー」

「皆さん、お茶が入りましたよ。茶菓子と一緒に如何でしょうか?」

「「「「わーい!」」」」


 その事を察したのか、ビクトールが食後の茶と菓子を配膳してくれた。それらはグレルバレルカの特産品であるらしく、皆は唐突なティータイムをここぞとばかりに堪能。それを終える頃には、二人の醜い言い争いも、ちょうど終わりを迎えていた。


「「ふう」」


 そして、遅ればせながら一服を始める二人。冒険者らしく自由である。


「あ、終わりました? ところで、サラダさんから依頼された特殊な鉱石と言うのは、竜王の墓場にあるものなんですか? 以前ヴィヴィアンさんから提示された依頼内容の中には、それに類するものがありましたが」

「ああ、“ダンジョンが鉱石に富んだ場所であれば、そこを探索し、レアな鉱石を見つけ出す事”のところですかー? ええ、まあ、半分はそんな感じですねー。これら二つの依頼を同時に達成する為には、目的地が一緒である事が大前提ですからー」

「む、もう鉱石の在処の見当はついているのか? ヴィヴィアン殿、なかなかの大自然察知力だな! 尊敬に値する!」


 どうやって察知したんだ!? と、イータが目を輝かせる。また、心なしか彼女の隣に居るジーマも、仮面の下で目を輝かせている気がした。


「あ、いえー、竜王の墓場の何処に鉱石があるとか、そういった当たりを付けた訳ではないんですよー」

「……? どういう事です?」

「鉱石の採掘場所を探すんじゃなくてー、土竜王さんが指定する討伐対象を倒せば、その鉱石も手に入るって意味ですー。流れを簡単に説明するとー、竜王の墓場に居る対象モンスターを捜し出してー、ぶっ倒してー、亡骸から素材の剥ぎ取ればー、ミッションコンプリートー。以上、おめでとうございまーす」


 パチパチと手を叩き、ね、簡単でしょ? と、皆にアピールするヴィヴィアン。


「鉱石が採取できるモンスター? 土竜王様の言う敵とやらは、ゴーレムか何かなのかい?」

「いえー、そんな大層なものではー。何でも、十数年前に亡くなった先代さんの遺体が、埋葬先の墓場でアンデッド化して暴れているとかでー」

「……ええっと、先代って?」

「いやいやー、ドルモさんったら、話の流れで理解してくださいよー? 先代と言ったら、先代の土竜王さんに決まってるじゃないですかー?」

「……は?」


 その瞬間、ドルモの頭部から露出されていた舌が、ピタリと凍り付いた。


「いや大層じゃん!? 大層にも過ぎるくらいの相手じゃん!? 先代の土竜王と言えば、全竜王の中でも最古の存在として有名! 年齢=レベルの高さに直結するこの世界において、それはすんごいアドバンテージになるんだよ!? 戦ったら不味い事になる竜王の筆頭格じゃないか!」

「いやいや大丈夫ですってー。各属性の竜王の座は世界に一体だけ、その座に就いた瞬間に進化するとされていますがー、先代はその名の通り、既に竜王を引退した身ですー。竜王の名が消失した事で弱体化しているでしょうし、そもそも今回の相手は所詮アンデッドなんですよー? 理性をなくした邪竜が相手であれば、私達にも勝機は十分にありますってー。ほら、念には念を入れて、こんなに沢山のS級冒険者を連れて来た訳ですしー」

「いやいやいや楽観主義にもほどがあるだろぉぉぉ!?」


 その後、やんややんやと二人の口論が再開されるのであった。


「甘露ちゃん、竜王ってせ、せしゅ、せん…… あっ、選手宣誓なの?」

「は? ……もしかして、世襲制の事を言っていたりします?」

「そう! それそれ、世襲制!」

「ええっと、血縁者に継がせる事も可能なようですが、基本的には弱肉強食の世界です。その座を狙う挑戦者が現竜王と決闘をし、そこで勝利する事で、新たな竜王が誕生するそうですよ? 不思議な事に、その直後に種族としての進化もするんだとか」

「と言いますと、今の土竜王さんは噂の先代とのタイマンに勝利して、頂の座を勝ち取ったと言う訳ですわね? おお、あちぃ展開ですわ! やりますわね!」

「……(ガクブル)」

「ヴァン殿、先ほどから物凄い勢いで震えっ放しのようだが、風邪か? 冒険者足るもの、体調管理も仕事のうちだぞ?」

「……アンデッド化した竜王さんなら、食べても大丈夫かな? お肉は腐りかけが一番美味しいって、そんな話を聞いたような―――」

「―――美味ねえ、止めてくださいね?」

「「やんややんや!」」


 竜王の墓場を探索し、アンデッド化した先代土竜王を発見&討伐、そこから特殊鉱石を採取――― 依頼内容は具体的になったが、同時に不安も噴出する結果となってしまったようだ。次回、パーティの結束は如何に?


「おねーさん達、大丈夫かなー?」

「全然纏まりがないねー?」

「クフフ、冒険者とはそういうものなのですよ」

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