第206話 裏事情
数分後、テーブルの上に料理は欠片も残っていなかった。完食である。
「御馳走様でした~」
「美味かったですわ~!」
「間食にはちょうど良い量でしたね」
「うむ!」
……間食であった。
「満足して頂けたようで何よりです」
「ではー、そろそろ小休憩も終わりにしてー、本来の目的であった、ご挨拶をするとしましょうかー」
「「「……本来の、目的?」」」
「こらそこー、ただ飯を食いに来たんじゃないですからねー?」
ヴィヴィアンの指摘を受け、ああ、そう言えば王族との挨拶が目的だったと、漸く思い出す美味達。甘露だけは忘れていなかったが、度重なる思考停止により、今はツッコミを入れる気力もない様子だ。そう、間食する元気しかないのである。
「ビクトール、挨拶ってー?」
「何々ー?」
「御二人とも、それについても一度説明した筈ですよ?」
「「……?」」
「ハァ、まったく…… 皆さんはこの土地の廃鉱山へ行きたいそうなのです。いつも出入りしているヴァンさんのパーティのみであれば、改めて挨拶をする必要ありません。が、今回は普段出入りしていない方々も入る事になります。その為に挨拶と共に許可を貰いに来たと、そういう訳ですよ」
「あー、挨拶ってそういう…… でも、許可って俺とジルが出しても良いのか?」
「良いのー?」
「ええ、書面での手続き等は、グレルバレルカ支部の冒険者ギルドを介して既に終わっていますし、あくまでこの挨拶は礼式的なものですので」
「そうなんだー? うん、良いんじゃない? 鋼のおねーさん強かったし、他の人達も同じくらい強いのなら、問題ないと思うー」
「ジルもそう思う? うん、なら許可するよー。この辺危ないから、気を付けてなー?」
何とも軽い感じで許可が下りた。
「ああ、そうそう。ヴィヴィアンさん、依頼主より言伝を預かっていますよ」
「えー、今更何の言伝ですかー? やだなー、依頼内容の変更とかじゃないですよねー?」
面倒臭そうに顔をしかめるヴィヴィアン。が、その一方で思考停止していた甘露が再起動する。
「あの、ちょっと待ってください。今回の探索の依頼主って、ヴィヴィアンさんじゃありませんでした? ギルド総長からはそう伺っていますよ?」
「……えー、そうでしたっけー? 聞き間違いか何かではー?」
「ないです、あり得ません」
「ヴィヴィアーン、正直に言ってしまえよ、ちみぃ? このままだと一緒に仕事してやれないってものだよー?」
「……ハァ、分かりました分かりました、裏事情もしっかりお伝えしますってー」
甘露とドルモより疑いの目を向けられ、ヴィヴィアンは諦めたように溜息をついた。
「カンロさんの仰る通り、今回の依頼主は表向き私と言う事になっていますがー、実際のところ、私は仲介役でしかありませーん。ある理由で冒険者ギルドに直接依頼する事ができない、訳ありのお二人から今回の件をお受けしたんですよー」
「と、言いますと?」
「急かさずとも、ちゃんと全部お話ししますってー。まず一人目ですがー、この北大陸にお住まいの土竜王さんでして―――」
「―――どどどど、土竜王だってぇ!?」
ドルモ、叫ぶ。
「いやドルモさーん、大事な話の途中なんでー、いちいち茶々を入れないでほしいんですけどー?」
「いやいやいや、だって君、土竜王だろ!? あの土竜王なんだろ!? これが叫ばずにいられるかって感じだよ!」
「……土竜王って、何でしたっけ? あ、美味しいんですか!? 私、モグラは食べた事がないので、興味関心がマックスです!」
「ッ!!!???」
美味の疑問を受け、ドルモは盛大に彼女の方へと振り返った。マジか君ぃ!? なんて言葉を、仮面越しにでも分かるくらいに言いたそうにしている。
「美味ねえ、モグラじゃないですから。あと、一応一般常識レベルの知識なので、これくらいはちゃんと覚えておいてください…… 簡単に言いますと、竜王とは種族の頂点に立つ、ドラゴンの王様のようなものです。竜王は属性別に存在するので、この世界には火・水・風・氷・雷・土・光・闇の竜王がそれぞれ居る事になります」
「ええっと、ひぃ、ふぅ、みぃ――― えっと、全部で八体?」
「ですです。どの竜王も途轍もなく強く、人間で言うところのS級冒険者並みの強さ、或いはそれ以上の力を持つともされているんです」
「なるほど、属性別に…… つまるところ大自然の権化、と言う事だな?」
「え? う、ううーん、それはどうなんでしょうね。兎も角、それだけ凄い存在だと思って頂ければ」
「うん、了解だよ! で、美味しいのかな!?」
「味については私も興味が尽きませんが、竜王は人の姿に変身する事ができるので、黒鵜の五戒的にアウトです」
「そ、そうなんだぁ、残念……」
「「「「「………」」」」」
味に対する興味は尽きないのか…… と、美味ら四人以外の一同が、心の中でそう呟く。
「それなら仕方ないけど、お姉ちゃん、とっても断腸の思い……! 二重の意味で……!」
「……ヴィヴィアン、それでその土竜王様が、君にどんな依頼を出したって言うんだい?」
一周回って、ドルモは冷静になったようだ。
「ヴァンさんが発見した、廃鉱山の新しいエリアがありますよねー? 今回私が出した依頼は、正にそこの探索だった訳ですがー…… 実はそこ、土竜王さんが管轄する場所でもあったりするんですよー。その名も、『竜王の墓場』らしいですー」
「墓場、ですの? ほほう、それは僧侶である私様が活躍できそうな場所ですわね! 皆さん、大船に乗ったつもりでいてくださいな!」
「「「「「………」」」」」
この人、僧侶だったんだ…… と、美味ら四人以外の一同が、心の中でそう呟く。
「はいはい、期待してますから話を戻しますねー? で、土竜王さんの依頼と言うのが、その墓場でとあるモンスターを倒してほしいと言うものなんですー」
「討伐依頼という訳ですか。ですが、土竜王ほどの実力者であれば、わざわざ冒険者に依頼するまでもなく、ご自分で討伐できるのでは?」
「尤もな意見ですねー。まあ私も同じ事を思って、これまた同じ質問を返してみたんですけどね? 何とも面妖な事で、その墓場に竜王は入られないそうなんですよー。更には竜王とゆかりがある人も駄目なんだそうで、それで何の関係もゆかりもない私にお鉢が回って来たもんでー」
「……またえらくピンポイントな立ち入り制限ですね?」
「昔からある大事な仕来りなんだそうですよー? まっ、それ以上の事まで根掘り葉掘り聞く訳にはいかなかったので、取り合えずはその対象モンスターを倒せばオールオッケー、と言う事にしておいてくださーい。あ、ヴァンさんとこの廃鉱山と繋がったのは、本当にたまたま、偶然の産物だったみたいですよー? ただ、そこから侵入した方が色々とショートカットできて便利だったんで、今回はそこからの侵入ルートな訳でーす」
土竜王から預かったものなのか、墓場の地図を取り出し、如何に近道できるかを熱弁するヴィヴィアン。その口調は相変わらず胡散臭いが、嘘を言っている風ではなかった。
「なるほどねぇ。色々と聞きたい事はまだあるけど、一先ずは了解した。で、依頼者のもう一人の方は? 同じ依頼って意味じゃないのかい?」
「少しややこしいんですが、二人目の方は全く別のところからのアプローチがありましてー。依頼者はサラダさんという女性の方で、先ほどの討伐の件や、竜王云々の話とは全くの無関係ですー」
「はえー…… ん? サラダさんですか? ええっと、どこかで聞いた事があるような、ないような?」
「フッ、ミミ、忘れてしまったのか? この私は覚えているぞ? ほら、今朝の朝食にも頂いた、フレッシュでドレッシングな生野菜で―――」
「―――イータさん、そろそろボケるのもいい加減にしてくださいねー?」
「ボケてないがッ!?」
イータは遺憾であった。
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