第202話 和気藹々

 その後、夢中になって採掘作業に当たるジーマと合流し、それを何とか止める事に成功した美味達は、転移門のあった岩窟の外へと向かった。その道のりは迷路の如く難解で、人を惑わす作りになっていたが、この辺りの土地勘のあるドルモの案内があったので、迷うような事は特になく、無事に外へと辿り着けた。


「ふー、ストレートに正解のルートを辿っても、結構な時間が掛かりましたね……」

「転移門ってのは、国宝に匹敵するくらいの価値があるからね。ここのように見つかり難い場所に隠されていたり、街中であれば厳重に管理されているものなんだよ。君達が来る時に使った転移門だって、そうだったろ?」

「ああ、確かに」


 グラノラ王国が所有する転移門も、城の地下深くにて管理されている。道中の警備も厚く、騎士団長クラスの人間が必ず一人は近くに居るなど、言われてみれば「なるほど」と納得する要素ばかりであった。


「ねえねえ、それよりも外! 外が凄いよ! 辺り一面真っ赤っ赤!」


 岩窟を抜け出した先、そこは辺り一面が赤で染められた岩山で――― まあ、言ってしまえば屋外屋内の違いだけで、大して景色の変わらない場所であった。但し、空には赤色の空と黒色の雲が広がっており、数少なくはあるが変化も一応はある。


「予想はしていましたが、外も色合いがバグっていますね……」

「そうかい? 僕らからしてみれば、北大陸以外の場所がおかしいと思うんだけどね。大地に空、そして雲の色も、日や場所によって何色にも染まるものだろう?」

「いえ、基本は決まっていると思いますが」

「北大陸独自の特色ですからねー」


 ―――北大陸、かつては奈落の地アビスランド、或いは地獄と呼ばれ、人々に恐れられた異色の地。今でこそ他大陸との交流も多くなったが、数十年ほど前までは殆ど鎖国状態にあったのだと言う。出現するモンスターが凶悪である事、そこに住まう者達が悪魔という特殊な種族であった事などから、その存在がタブーとされていた――― 等々、学者が様々な理由を考察しているが、何が真実なのかは未だ解明されていない。ともあれ、現在の北大陸は普通に大陸外との貿易が行われており、場所によっては一般人の旅行も可能となっている。大昔と比べ、世間からのイメージが改善されているのは確かだろう。


「もしかして、食材とかも色が変わっているのかな? スイカの中身が青いとか!」

「青いご飯みたいに、食欲が撃退されてしまいそうな話ですね…… それはさて置き、どちらに向かえば良いのでしょうか? まずはこの国の王族との挨拶、でしたよね?」

「ああ、道案内は僕に任せてくれ。じゃあ、早速出発――― する前に、ちょっと確認しておきたい事があるんだけど」


 ドルモがある方向を指差す。


「……(ギュインギュイン)」

「ほう、ジーマ殿は幼き頃から鉱石に焦がれていたのか。分かる、分かるぞ、その気持ち。鉱石とは大地の恵みであり、我々の生活になくてはならないもの。あらゆる武具や道具の元となり、あらゆる可能性を秘めた偉大なる存在だ。常に隣に居るパートナーと言っても良い。一目惚れしたその気持ち、痛いほどよく分かる」

「……(ギュインギュイン)」

「何、そう恥ずかしがるな。かくいう私も、北大陸には新たな大自然との出会いを期待しているところがあるのだ。軟派と言われたらそうなのかもしれないが、私はより多くの大自然と交流を持ちたい、仲良くなりたいと、本心から願っている。これは決して下心から来る感情ではなくてだな」

「……(ギュインギュイン)」

「いや、本当だぞ? 私の心はいつも淑女、紳士である事を目指しているジーマ殿と同じ志を持っているつもりだ。フフッ、そう茶化すんじゃない。まあ、何だ。この合同依頼の機会に、お互いベストを尽くそう。え、握手? ああ、よろしく頼む!」


 ―――ガシッ!


 示された先では、イータとジーマが固い握手を交わしていた。どうやら、二人の間で何かが通じ合ったようである。


「……いやさ、僕の思い違いかもしれないんだけど、君らんとこのイータ、うちのジーマと会話してないかい? しかも、僕よりも意思疎通が図れている気がするんだけど?」

「気が合いますね。そうなんじゃないかと、私も怪しんでいたところです」

「自然好き同士で気が合うのかもしれませんね。良い事です」

「言葉ではなく、相手てめぇハートで語り合う…… 素敵ですわね!」

「ですねー。言葉だけが取り柄のドルモさんに、是非とも見習ってほしいものですー」

「おい阿呆のヴィヴィアン、頭にブーメランが突き刺さっているぞ?」

「あー、喧嘩しないでくださいよー! それよりも美味しいものを食べましょう! それが一番!」

「……!(アタフタ)」


 色々と先行きが不安な混合パーティであるが、ともあれ一同は出発を果たす。見渡す限りの赤い岩肌、紅の大地に夕焼け色の空――― 道中、喧嘩が激化して同色の血が吹き出ない事を祈るばかりだ。


「えっ、この辺りって食材がないんですか!? むむむっ、ならば新しい食材を開拓しましょう! ほら、大きな石をどければ、芋虫くらいは見つかると思いますし!」

「合点承知ですわ! いっちょでけぇ岩をどけてやりますの!」

「まあ、調理できない事はないですね。貴重なタンパク源、美味しくしてみせましょう」

「……ッ!?(愕然)」

「あのー、流石のヴィヴィアンさんもそういった方向の料理はちょっとー……」

「いやー、悪魔の中には好む奴らも居るけどさ、僕らも虫はちょっと……」


 ヴィヴィアン、ドルモ、意外なところでの見解の一致。美味達は至極残念がっていたが、血を見る展開は防ぐ事ができたようだ。



    ◇    ◇    ◇    



 紅の大地を歩きに歩き、美味達はある屋敷へと辿り着いた。超大国の王族が住む屋敷にしては整備が行き届いておらず、と言うかかなりボロく、もっと言ってしまえば朽ち果てる寸前、お世辞にも綺麗とは言えない、そんな幽霊屋敷のような場所であった。屋敷の周囲は相も変わらず赤い岩場ばかりで、辺境の村とさえ言えない状態だ。しかも、この屋敷には警備の者がおらず、正門から素通りで中に入れてしまう有様だった。何に邪魔される事なく、強いて言えば埃臭いのを我慢しながら、美味達は幽霊屋敷の大広間にまで歩を進める。


「あの、本当にこの場所で合ってます? とても王族の方がいらっしゃるようには思えないのですが……」

「カンロさん、気を付けてくださーい。ドルモさんの事ですからー、私達を変なところに連れ出して、とても言葉にはできない事をするつもりですよー? お喋りな癖にして、その辺は秘密にするマジもんの鬼畜ですー」

「下衆の極みが勝手な事を言ってくれるじゃないか。カンロ、間違えてはいけない。あの巨女こそが真に警戒すべき相手だ。エスタさんからもそう言われていただろう?」

「いえ、今知りたいのはそんな事ではなくてですね……」


 血を見る事はなかったが、ここへ至るまでの間、この二人はこのような非難合戦を何度も何度も続けていた。その為、甘露もうんざり気味になっているようである。これは逆に仲が良いんじゃないか? なんて考えが浮かぶほどだった。


「……(クイクイッ)」

「おっと? どうしたんです、ヴァンさん? お腹が減ったんですか? 奇遇ですね、お姉ちゃんもです!」

「……(フルフル)」


 袖を引っ張るヴァンに対し、美味が少し屈んだ状態で応対する。何やらヴァンは、大広間の奥を指差しているようだが……


「あら、活きの良い侵入者が一杯来たようねー!」

「だねー! それじゃ、キッチリ排除しなくちゃ!」

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