第11話 黒鵜姉妹

 巨大地竜から剥ぎ取った素材鑑定が終了し、ミミとカンロは無事依頼達成を認められた。晴れてA級冒険者と正式になった二人は、その足で酒場フロンティアへと突入。既に注文を頼み終わっていたエッジら三人と合流を果たす。出会い方が出会い方であった為、周囲の冒険者達からはかなり警戒されていたが、最終的には和気あいあいと飯を食い合える仲へ。昼時だというのに、ギルドの酒場は深夜の宴さながらの賑わいを見せるのであった。


 その後、村の中をブラブラと巡ったり、珍しい食材を探したりと、しっかりと観光もしておいた二人は、良い時間帯にエッジ達に紹介された宿へと向かって部屋を取り、夕食を食べて今に至る。


「ふんふ~ん♪ 良い村だね、ここ。宿のご飯も美味しかったし、お姉ちゃん、気に入ったかも~。ブルジョンさんも、一日くらい滞在すれば良かったのに~」

「あくまで今日は様子を見に来てくれただけですよ。秒で仕事を終わらせたからと言って、王都のギルド長はそんなに暇ではないんです」


 地竜素材の鑑定を終えたブルジョンは、昼食に参加する事なく、そのまま王都へと帰って行った。笑顔で王都までの道のりをダッシュして行くブルジョンの姿が、今も強烈に二人の脳裏に焼き付いている。


 ―――シュッ、シュッ、シュッ。


 部屋で雑談をする最中にも、二人は思い思いの過ごし方をしていた。ミミは愛剣であるデカ包丁を専用の砥石にかけ、カンロは錬金術で新たな調理器具を作成中である。一見、年頃の乙女の過ごし方ではないのだが、本人達は実に楽し気だ。


「そういえば、酒場での食事も盛り上がったよね~。ジャックさんが地竜を食べたって自慢したら、別の冒険者の人が笑いながら、地竜の肉なんて硬くて食えたもんじゃないって、そんなツッコミを入れたりしてさ~」

「ああ、そんな事もありましたね。地竜を食べた事のある方が他にもいて、少しだけ驚かされました。まあ通常の地竜なら、やり方次第でD級やC級の方でも倒せるのですが。その後は冒険者さんの間で、暫く美味い美味くない論争が続いていましたっけ」

「私達は美味しい派だったけど、実際のところは微妙な立ち位置だったよね~」

「まあ、そうですね。焼くだけでも美味しく食べられるようになったのは、美味ねえの剣のお蔭でもありますし」


 カンロの視線が、ミミの研いでいた愛剣へと移る。


「イワカム、斬りつけた相手を傷付ける事なく、ダメージだけを与える事ができる魔剣。だからこそ、この剣なら食材を無傷のまま手に入れる事ができる。しかも任意能力だから、やろうと思えば実際に斬る事もできて凄く便利♪」

「しかしイワカムの真骨頂は、食材を倒した後に発揮される。倒した食材のレベルが高いほど、食材としてのランクがアップされる――― つまるところ、美味しく栄養も豊富になる、でしたか。今回の依頼で討伐した地竜は、そのまま口にするには肉質が岩のように硬く、とても人が食べられる食材ではありませんでした。そういった意味では、酒場にいた冒険者さんの話は間違っていません。むしろ、一般的にはそちらの意見が正解とも言えるでしょう」

「そうなんだよね~。でも、まさかあそこまで美味しくなるとは、お姉ちゃんも予想外でした。それだけあのドラ肉さんが強かったって事なのかな? よく分からなかったけど~」

「美味ねえは相変わらずですね」


 ふと、砥石を使う音が途切れる。どうやら剣の手入れが終わったようだ。


「よっし、ピカピカのズバズバ! これで明日も美味しいものが食べられる~」

「美味ねえ、楽しむのは良いですけど、黒鵜くろうの五戒を忘れないでくださいね? 私達がこの世界を謳歌する為に、絶対に必要な事なんですから」

「わ、分かってるよー。お姉ちゃんだって、しっかりその事は意識してます!」

「じゃあ、改めて声に出して言ってみてください。忘れていないか、チェックしてあげますから」

「そ、それは良いけど…… 普通、これって立場が逆じゃないかな?」

「きっと気のせいです。ほら、早く」

「もう、分かったよ~。ええっと―――」


黒鵜の五戒

①人型は食べない、求めない、人として。

②お残しは駄目、絶対。

③節度をもって、食欲に従う。

④空腹は敵だ、大敵だ。

⑤末永く食材提供してくれる自然に感謝、環境保全も何気に大事。


「―――だったよね?」

「グッドです。しっかり覚えていたようですね。ですが、美味ねえは①が危なそうなので、今一度しっかり意識しておくように」

「いやいや、お姉ちゃんもそんな事はしないよ~。人型って、要はゴブリンとかオーガの事でしょ? あはは、流石に食べたいとは思わないって」

「ミノタウロスやオークはどうです? 顔だけは牛と豚ですよ?」

「……た、食べたいだなんて思わないよ~」

「そこで言い淀まないでくださいよ……」


 食欲に忠実な二人であったが、その欲望は決められた指針の中にあるものだった。魔剣イワカムは強力かつ素晴らしいものだが、その本質は名の通り、魔の剣――― 道を誤れば、人の道からも外れてしまうのは間違いない。だからこそ、これら五戒は何よりも大事にしなくてはならないものだった。


「……ところで美味ねえ、今回の依頼の食事で、どのくらい成長しました?」

「あっ、気になる? やっぱり気になるよね? なら、一斉に見せ合いっこしよう?」

「また子供っぽい事を…… まあ、良いですけど」

「よーし、なら決まり! いっせーのでステータス画面を出すよ? いっせーの、だよ? 自分だけ出さないとか、そういうズルはなしだよ?」

「分かりましたって。いつもの感じで、ですよね。美味ねえこそ、ドジして遅れないでくださいよ?」


 二人はベッドに腰掛け、宙に向かって人差し指を向け始める。


「「いっせー…… のっ!」」


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黒鵜美味 16歳 女 人間 剣士(食)

レベル:83

称号 :ドラゴンイーター

HP :1824/1824

MP :272/272

筋力 :870

耐久 :839

敏捷 :677

魔力 :248

幸運 :636

スキル:剣術(食)(固有スキル)

    解体(食)(固有スキル)

    察知(食)(固有スキル)

補助効果:世界の呪い

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黒鵜甘露 12歳 女 上級吸血鬼アークヴァンパイア 錬金術師(食)

レベル:83

称号 :ドラゴンイーター

HP :549/549

MP :1734/1734

筋力 :253

耐久 :278

敏捷 :380

魔力 :1398

幸運 :1047

スキル:錬金術(食)(固有スキル)

    鑑定眼(食)(固有スキル)

    吸血(食)(固有スキル)

補助効果:世界の呪い

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 二人が何かを念じると、目の前の空間にステータス画面が現れる。しかし、それら画面は所々がボロボロになっていた。それでも二人は一切気にする様子もなく、眼前の数字に見入る。


「……同じものを食べてますから、やはりレベルに差は出ませんね」

「でもでも、今回の成長はかなり大きいよ? 一気に3レベルもアップしてるし! 流石はA級相当のモンスター、味も経験値も一級品って事だね! 称号も美味しそうなのに変化しているよ!」


 ミミとカンロ、もとい黒鵜美味くろうみみ黒鵜甘露くろうかんろは、とある理由でこの世界に生まれ変わった、所謂転生者であった。前世で叶える事ができなかった欲望――― 食欲を満たす為、二人は全身全霊でこの世界に向かい合い、調理器具と箸を向ける。

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