第17話
「おはよー」
「おーっす!」
朝の挨拶が飛び交いざわざわとした教室に、今日も登校して席に着く。すると少し遅れて花見も登校してきた。
その姿はいつものきっちりと三つ編みにされたおさげ髪でもなく、マスクもしていなくて。重めの前髪と黒縁フレームの伊達メガネで目元は隠れているものの、地味で目立たない真面目な女子高生という印象があるいつもの姿よりも、格段に可愛く見える。
何より、それは昨日俺と一緒に帰った時の姿であり、俺がLINNEで可愛いと言った姿。
けれど普段よりも雰囲気はおどおどとしていて、身体を小さくするように背中を丸めて俯き加減で恥ずかしそうにしていた。
「え、あれ? 花見さん!?」
「今日髪下ろしてるんだ、マスクもしてないし。そっちの方が絶対可愛いよー」
花見の仕草よりも、その姿にクラスのみんなは驚いて話しかけた。
「え、あ、あ、あ!! あ、ありがとう」
「あ、う、うん」
花見はいつも通り、というよりむしろいつもよりも緊張した雰囲気で返事をし、その緊張した様子に話しかけたクラスメイトも戸惑っている様子。
なんとなくその様子にいたたまれなくなって、俺は花見に話しかけに行った。
「花見、おはよっ!」
すると花見はパッと口元に笑顔を覗かせて。
「あ! 佐野君! おはようっ」
明らかに他のクラスメイトよりもスムーズで弾んだ口調の返事。
「え?」
周りにいたクラスメイト達も驚いた様子だった。
けれどそんな事よりも何よりも。俺が昨日送ったLINNEのせいで花見が無理したのではないかと気になってしまって。
「花見、ちょっと……」
俺はつい花見の手首を掴んで教室の外へと連れ出した。
◇
あまり人気のいないところまで連れ出して、花見に話しかけた。
「あ、花見。その……俺、無理させてしまった?」
「え?」
たどたどしく聞いてみる。
「その……髪と、マスク、今日はいつもと違うから」
「えっ、あ、うううん。その……えっと。……こないだ、佐野君が私に誕生日プレゼントくれた時、佐野君のお友達が『花見って地味』って言ってるのが聞えたから……メガネとかしてるせいかなと気になって、授業中に少しだけメガネを外してみたことがあったんだけどね……」
「うん」
ああ、あの時だと思いながら花見の話を聞いていく。
「メガネを外すのは、なんか、すごく恥ずかしかったから……外すの無理だなって、思ったんだけどね、昨日……佐野君が、髪下ろしてマスク外した方が好きって……言って、くれたから。こっちならメガネより大丈夫だなって、思って」
「え……」
「…………“勘違い” し過ぎ、かな!?」
そう言った花見の上目遣いをした目元が、前髪とメガネの間からちらりと覗いてドキッとした。
「あ、いや。可愛い。……こっちの方が、……好き」
俺の言葉にたぶん勇気を出してきたのだろう花見に、俺が勇気を出さないでどうするんだと思って、素直な気持ちを伝える。
けれど、“花見の事が好き” そう伝えるには、こんなホームルームが始まる前のただの廊下という場面はふさわしくないと思ってやめておいた。
「へへ。嬉しい。じゃあ……今日はもう少し、このままでいる」
けれど俺の言葉に照れ笑いを浮かべる花見のその何気ない表情がやっぱり可愛くて。マスクがない方がよりその表情が見えて、俺はやっぱりグッと来てしまう。
その胸の中に込み上がる気持ちを確かに感じて、いつかちゃんと伝えよう、そう思いつつ。
「あ、教室……戻ろっか」
そう声を掛けて教室の方を向き直ってみれば。
「あ、……佐野君っ!」
ツンッと俺のブレザーの裾を花見がつまんで引き留めた。
「ん? どした?」
振り返って聞いてみれば。
「…………私、佐野君の学校の制服姿も…………好き」
小さな声でそう言われて、また、ドキッとした。
◇
1限目が終わった後、俺が日直の仕事のため黒板を消していると、花見は前の席のギャル、吉崎に話しかけられていた。
「ねーねー花見っち。さっき佐野に連れられて教室出て行ってたけど、佐野と付き合ってるの?」
「え!? な、ち、ちちちち、ち!」
花見はびっくりしながら首をブンブンと振っている。
「あ、違うんだ。じゃあさじゃあさ、佐野のこと、好き?」
「え……?」
花見は吉崎の唐突な質問攻撃に慌てふためいている様子で。
「あ、好きなんだー。反応分かりやす過ぎ。じゃあ、急に髪下ろしたりマスク外して来たのもそのせい?」
吉崎はいいやつだけど、素直過ぎると言うかオープン過ぎるというか、そういう部分が心配になって、止めに入ろうと思ったのだが。
「え、あ……うん」
花見は赤面しつつも素直に肯定した。
(え、おい、花見……そこで頷くのかよ)
花見の素直過ぎる返事に俺の方が照れてしまう
「えー花見っち、素直―。やっぱ恋すると女の子は可愛くなるよねー。花見っち、断然いつもより今日の方が可愛い! いいよ、今日の方が、断然!」
「え、そ、そうかな」
花見の表情を見る限り、嫌がってはいないようなので安心する。止めに入るほどではないかもしれない。そう思った時。
「うんうん。せっかくだからさ、前髪もあげて、メガネも外してみたら?」
吉崎はそう言いながら、花見の前髪を上げてメガネをそっと外してしまった。
「…………え?」
「え――――!! 花見っち、めっちゃ可愛くなーい!? ねぇ、みんな見てよ、花見っち、メガネ外したらめっちゃ可愛い!!」
「え、え、え」
戸惑う花見とは裏腹に。クラスのみんなは花見のメガネを外した顔を見て驚いている。
そして、男子の中の誰かが言った。
「あれ? ……花見って……花みんに、似てない!?」
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