第10話
忍の話を聞いてなるほどと思う。けれど、“この学校だろう” という域を超えてはいないわけだ。つまりは花見が花みんだというところまで特定されたわけではない。
だったらなおのこと、下手なことは言わない方がいい。けれど、花見に危害を加える可能性があるかどうかは知っておきたいところ。
「へぇ。すごいな、特定厨。そこまで分かったとして、学校まで来ちゃうなんて」
「そう、そこなんだよ」
「なに、どこ」
「特定厨が言うにはさ、学校名まで絞り込めたら、大抵その学校に通ってるやつらのSNSを探していけば、どこかに本人が映り込んでたり本人にたどり着いたりするらしいんだよ。なのに花みんに関しては一切出て来なかったらしくて」
……まぁ、花みんと花見じゃ印象全然違うから、たとえどこかに映り込んでいたとしても分からないだろうな……と、心の中で思ったけれども黙っておく。
「それで?」
「だから学校まで来てみたらしい。大抵そういう子って、学校の中では有名人だからすぐわかるんだって。けど、今回は誰に聞いても知らないって言うし、ずっと張り込んでてもそれらしい子もいないしで、諦めて帰って行ったらしい」
「なんだそれ。じゃあなんで昨日のクラスLINNE盛り上がってたんだよ」
心の中でほっとしつつ、花みん探しが生徒たちの中で起こっていないかが気になるところ。
「いやー、それがさ? 花みんみたいに可愛い子がこの学校にいたらやばいよなーって話になって、もし同じクラスに花みんがいたらどうする? とか、もしも花みんと付き合ったらどうする? とか、花みん可愛いよな―とか、そういう話で盛り上がってた」
「お前たちらしいな。女子たち引いてただろ」
「うん、ドン引きだった」
「だろうな」
そこまで話してすっかり胸を撫で下ろしたところで予鈴がなった。
「あ、やべ。席戻るわ。じゃあな」
「おう」
そうして忍は自分の席に帰って行った。すると、今度はポケットに入れていた俺のスマホが震えた。
通知1件。
かすみ:『今、花みんの話してた!?』
送り主は花見だった。どうやら俺と席が近いとも遠いとも言えない微妙な距離なので、微かに聞こえて気になってしまったらしい。
Ryou:『あぁ、してた。でも心配するような内容じゃないよ』
かすみ:『えー気になるよー』
Ryou:『じゃあ、今日も夜通話する?』
かすみ:『するっ!』
画面の中で速攻来た花見の返事が嬉しそうで、思わずリアルの花見の顔を見てみれば、メガネとマスクでその表情は分からなかった。
くそ、俺もマスクしてきたらよかった。
――口元のにやけが止まらない。
昨日、遅くまで散々花見と通話してたのに。今日もまた通話することを嬉しいと思うなんて。
そう思いつつ『OK』とだけスタンプを送ってみれば、リアル花見は机の下でこっそり小さくガッツポーズをしていて。その仕草が無性に可愛く見えた。
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