第9話

「ふわぁああ。ねむ……」


 朝、登校して席に着く。昨日遅くまで花見と通話して、その後から宿題やったり風呂に入ったりしていたのですっかり寝るのが遅くなってしまった。


 止まらないあくびを嚙み殺していると、クラスメイトのしのぶが話しかけて来た。


「亮太お前昨日何してたのー? クラスLINNEがお前の好きな花みんの話題で盛り上がってたのに、お前ぜんっぜん浮上しなかったな」


「え?」


 忍の言葉に思わず目が覚める。まさかクラスLINNEで花みんの話題になるなんて、一体どんな内容だったのだろうか。


「あーやっぱり。お前、LINNE開いてもないの?」


「いや、だって、朝起きた時には通知100件超えてたから、さすがにそんなに追えないし。またどうせ一部のメンバーがふざけ合ってたのかと思ったんだよ。で? どんな話題で盛り上がってたんだよ」


「聞いておどろけ。なんと、お前の好きなあの花みんが、この学校の生徒だって噂が流れている!!」


 忍はドヤ顔をして言った。


「はぁ?」


 あまりの言葉に声が詰まる。一体どういうことだ。花見が花みんだと誰かにバレたとでもいうのだろうか。バレたとしたら一体いつ、どこで、どのようにして。


 ……まさか。俺が昨日教室で花見のメガネをずらしたのを、誰かが見ていたのだろうか。だとしたら、バレたの俺のせいじゃないか!!


 一気に血の気が引いて背中に冷や汗が流れていくような感覚がする。


 けれど。いや、まて、取り乱すのはまだ早い。もしもそうだとしたら、“あの花みんが、この学校の生徒だって噂が流れている” なんていう表現になるはずがない。もっと直接的に、“花見が花みんだったらしいぞ” そんな言い回しになるはずだ。


 それなのに、“この学校の生徒だって噂” その程度でとどまっているということは、まだ誰もことの核心まではたどり着いていないということ。――だと思いたい。


 とにかくここは冷静に話を聞いて、絶対に俺からバレないようにしなくては。


「驚いたか。そうだろうそうだろう。まさか自分が推してるライバーが自分と同じ学校かもしれないなんて、呼吸困難になってもおかしくないくらいのことだからな!!」


 忍は腕を組んで目を閉じ、うんうんと頷いている。一体誰目線なんだろうと思ったりもするが、ここでは黙っていようと思う。


「で? その、“この学校の生徒かもしれない” って噂の根拠はどこにあるんだよ。どっから流れて来たんだよ、そんな噂」


 花見が花みんだと知ってしまった今、俺はその噂の火種を消したいと思う側になってしまった。けれど消したい側だと悟られては逆に怪しまれかねない。


 しかしその噂の火種の詳細を聞かないことには消しようもない。ここは慎重に聞き出さなくては。


「ああ、それがな。昨日の放課後、特定厨らしき男がうちの学校の校門前で花みんが出て来ないか張ってたらしいんだよ。それで、その間に下校していく生徒たちに片っ端から『この学校に花みんがいると思うんだけど、知っているか?』って聞いて回ってたらしい」


「特定厨?」


 不穏な単語だなと思う。まさかこの学校だということまで特定されるなんて。けれどその感じだと、花見が花みんだというところまではまだ特定されていないようだ。


 一体その特定厨は、花みんがこの学校の生徒だなんてどうやって割り出したっていうんだろうか。


「うん。なんか花みんって、最初の頃は自宅から配信してたらしいんだよ。特定されかねないからやめた方がいいよってコメント来て場所を変えたみたいなんだけど、その理由ってのが、配信の時に踏み切りの音が入ってたかららしくて」


「踏切の音? そんなんでなんで特定されるの」


「だろー? 俺も素人だからよく分からないんだけど、路線によって踏切の音が違ったり、音が鳴る間隔が違ったり、なんかそんなのがあるらしいんだよ。それで、花見が配信してたのっていつも生配信だったから、踏切が鳴る時間までしっかりリアルタイムなわけじゃん?」


「……まぁ、そうなるな」


 少し気持ち悪さを感じつつ、忍の話をそのまま聞いていく。


「それで特定厨はあらかたこの辺りっていう目星をつけてたらしいんだ。それを元にその後も花みんの配信を聞いていたら、花みんは現役高校生で、10月の末に体育祭があって、その中で借り物競争があった、というところまで分かったらしい」


「うん……」


「そして、目星をつけていた地域から通える範囲にあって、10月末頃に体育祭があって、借り物競争をした高校ってのが、うちの高校だったってことらしい」


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