第8話

Ryou:『ご、ごめん!! LINNE気付かなかったー』


かすみ:『あ、佐野君、おかえりなさい、かな?』


Ryou:『うん。さっき帰ってきたとこ』



 帰宅すると花見から『今日はありがとう』とLINNEがきていたことに気付いて慌てて返信すると、そこからなんとなく会話が続き始めた。


 やっぱりLINNEの中での花見は全く片言なんかではなく、普通に話すんだなぁと不思議な気持ちになる。


Ryou:『花見って、LINNEの中だと普通に話せるんだな』


かすみ:『うん。話すより文字の方が楽かも』


Ryou:『でも配信の時はあんなに普通に話してるじゃん?』


かすみ:『配信だと相手の顔見えないから』


Ryou:『あぁ、確かに!』


 そうしてLINNEの中で聞いた話によると、花見が配信を始めた理由は人見知りを直すため。配信なら相手の顔が見えないので、話せるんじゃないかと思ったらしい。


 そして、金髪と青い目は、少し変装した方が違う自分になった気持ちで入り込めるから。あえて金髪ボブと青い目にすることで、ポジティブで明るいセルフイメージを作っているらしい。


 逆に普段の前髪とメガネとマスクは、人に見られてると思うと緊張してしまうかららしく、特にメガネは、つけているとフレームで視野が少し狭く感じるので落ち着くということだった。


 あぁ、だから視力が悪いわけでもないのに度が入っていない伊達メガネをしてたのか……と思いつつ、メガネをずらしてしまった事はやっぱり謝っておきたくて。


Ryou:『今日……メガネずらしてごめん』


 そうメッセージを送ってみたら。


かすみ:『ふふふ。もう。恥ずかしすぎて死ぬかと思ったんだからねw』


Ryou:『罪悪感、半端ねぇ』


かすみ:『じゃあ……お願い一個、言ってもいいかな』


 そんな返事が返ってきて。


Ryou:『お願い? 俺にできる事ならなんでも』


 何を言われるのかとドキドキしたら。


かすみ:『あ……嫌だったら嫌って言って欲しいのだけど……』


Ryou:『ん? 何?』


かすみ:『通話したい、です』


Ryou:『へ?』


 思いもよらないことで。



かすみ:『あ、だよね、面倒だよね。ごめん、今のなし!』


Ryou:『いや、そんな事でいいのって思って。じゃあ、今からかけていいか?』


かすみ:『あ、待って、そんなすぐいいよって言ってもらえると思ってなかった』

かすみ:『心の準備するからちょっと待って』

かすみ:『よし、大丈夫、お願いします』



 そんなやりとりの後、俺は花見への通話ボタンを押した。


 少しの間コール音が流れた後。


『は、はい』


 花見の声が聞えた。その声は少し緊張しているように聞こえたのだけれど……


『花見? 聞こえてる?』


 俺が問いかけると。


『わ、わ、佐野君の声が耳元で!! やっばい、嬉しい、かっこいい、しにそう』


『え?』


『あ、ごめん、嬉しくて、つい』


 予想外の花見の反応に驚いた。


『花見って、通話だとしゃべれるんだな』


『え、あ、自分でも知らなかった。家族くらいとしか通話ってしたことなかったから』


『花みんの時とも、学校の時とも違う』


『……う。だって、花みんの時は知らない人たち大勢の前だし……。正直ちょっとだけキャラ作ってるんだ。でも、佐野君は知ってる人だし……普通に話しちゃってる。……花みんの時みたいな話し方の方がいいかな?』


『いや、全然。今のままで話してて楽しいよ』


 花見は少しだけ緊張してる感じはするけれど、学校で話す時よりも通話の方がスムーズに話せてるし、文字でのやり取りよりも通話の方がレスポンスに時間がかからない。それに何より花見の生の感情が言葉に載ってる気がして楽しく感じる。


 それにやっぱり、花見の声は耳心地が良くて。


 配信の時のみんなへの言葉と違って、俺の言った言葉に返事が返って来るのも嬉しくて。なんだかんだと会話は弾んで、気付けば日付が変わりそうなくらいの時間まで花見との通話に夢中になってしまった。



 ――だから、俺はまた気付かなかった。その裏でクラスのグループLINNEが盛り上がっていたことに。



『なあ、花みんってライバー知ってる? 最近人気急上昇中の配信者なんだけど、うちの学校の生徒らしいよ』


『え、うそだろまじで?』


『え? 花みん?? あんな可愛い子、うちの学校にいたっけ??』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る