第4話
俺が知っている花見は、すごく大人しくて、いつも一人で本を読んでいるイメージ。
困っていても、困っていると人には言えない雰囲気で、人嫌いというよりは人見知り。
入学当時から同じクラスだけど、適当に男女5人くらいのグループになってくださいと先生が言った校内見学の時だって、どこのグループにも入れずにおどおどしていたのが花見だった。
女の子一人あぶれてるのも可哀そうな気がして、『ここ、入る?』と、なんとなく俺から誘った。
その時の花見は今よりもっと大人しいイメージで、『うん』と声もなく頷いて、小走りで俺のいたグループの輪の中に入った。
そうしてあまり知らないメンバー同士で校内を回って行ったのだけど、途中から花見の足取りが重くなってる気がしたから、『どした?』と声を掛けてみれば、『おなか……』と、たった一言、か細い声でそう言った。
『腹痛いの?』またそう聞くと、花見は『うん』と声もなく頷いて。
その時はあまり花見の事を知らなかったから、話さないのも元気がないのも体調が悪いせいかなと思って、そのまま何も言わずに保健室に連れて行った。
――あぁ、そんな事もあったよなぁと懐かしくなりながら花みんのアーカイブの続きを見ていると。
『花みん顔赤ーい』
『顔赤らめてる花みんも可愛い』
『まるで好きな人にばったり会っちゃった時みたい!』
そんなコメントで溢れかえっていて。
『花みんって、どういう時にときめいたりする?』
いつしかコメント欄はそのまま、花みんへの恋愛観の話へと変わっていっていた。
『えー? 私がときめいたりする瞬間? そうだなぁ。例えば……困ってたらさりげなく声を掛けてくれる人とかにキュンとする、かな』
花みんがそう答えると。
『あーわかる。いいよね、そんな瞬間』
『俺だって花みんが困ってたら絶対声掛けるぜー』
『そんな体験があったのですか?』
コメント欄はそんな言葉で溢れかえっていて。
『うん。今の学校に入学したばかりの時、緊張してお腹痛くなっちゃった時も、声かけて保健室連れて行ってくれた人がいて。かっこいいなって、思っちゃった』
そう言いながらへへっと照れ笑いする花みんは、やっぱりまた顔を赤らめていて。
『え、なになに、花みん、その人に恋しちゃった?』
『まさか花みん、恋人持ちか!?』
また流れ始めるコメント欄に。
『まさかまさか、私なんて。たとえ好きになったとしても見てるだけだよー。恋人なんていないから、安心して』
花みんはコメントの言葉を否定するように両手を振りながらそう答えていて。
『マジ安心したわー』
『花みん、俺と結婚しよ』
『俺は花みんが好きだ―!』
流れるコメント欄に花みんはくすっと笑って。
『ふふ、私もここのみんながだーいすき、だよっ』
リップサービスなのか本心なのか分からない言葉と小悪魔的笑顔を放つと。
『うぉおおおおお、花みん、好きだあああああああああああ!!』
『俺の方が好きだあああああああああああああああああ!!!!』
また画面の中ではスパチャの小さな嵐が起こっていた。
けれど、俺は、俺だけは、『みんながだーいすき』よりも『俺のことが好き』と暗に言われた気がして顔が火照る。
こんなの……、やっぱり、信じられないけれど、完全に配信者の花みんと俺のクラスメイトの花見は同一人物じゃないか。
人物像は違うのに、話の内容も辻褄も同一人物だとしか思えなくて、俺の心はざわざわと落ち着かなくなっていた。
それに。俺はある重大な事に気付いてしまった。
――なんで花みんは、今日の配信のアーカイブを残しているのだろう?
仮にも配信中の姿を俺に見られたことを本人は自覚していて。
そして俺に会ったと分かっている状態で、俺との出来事を配信の中で話していて。
しかも、『かっこいいなって、思っちゃった』なんて、下手したら好意を抱いていると勘違いされかねない内容で。
その後……花見はわざわざ『花みんって……知ってる?』と聞いてきて、俺は『知ってる』だけでなく、『俺が今一番好きな配信者』だと答えたわけで。
俺がこれを見る事は容易に想像できる状況だというのに。
少なくとも花見は、自分が花みんだということを、俺に知られてもいいと思っているという事なのだろうか。
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