第232話 ギルド公認モンスター判断基準表

 モンスターの種族レベルというのは強さの指標となるもので、人間よりもある種分かりやすいものである。彼らにも例外なく職業というものは存在する。しかし、人間が適正スキル以外を会得するのに対し、モンスターはその殆どは本能で生きている為か、その多くが進化に必要とする力を愚直に会得していく。進化の過程を知性を得て、高位の存在になる事で娯楽に興じる者も現れ始めるのだが、この段階になると会得できるスキル数も限られてくるので、やはり適正スキルばかりで構成されるのが大半だ。適正スキルばかりとなれば、勇者の職業のように強さが如実にレベルとして現れる。よって、モンスターの種族レベルは強さの判断基準として、大いに活用されているという訳だ。


 しかし、モンスターの中には異端とされる者達が存在する。幼き頃より人間の如き知性を備え、他の者達は絶対に会得しないようなスキルを覚えるにも関わらず、だからどうしたと言わんばかりに進化していく者達が。そういった者達はやがて魔王となり、種の壁の飛び越えてモンスターを束ねる地位へとのし上がるのだ。


 そんな異端者、魔王達の最高位が大八魔である。大八魔とは頂点である8名の国々から成り立つ連合のようなもので、基本的に互いの領分には不干渉を貫き、絶対不可侵の八カ条を宣言する事で衝突を阻止している。今回のフンドとリリィヴィアの件は本当に稀なケースなのだ。だからこそ、他の大八魔達が興味関心を抱いて注視している。


 さて、ここで気になるのが、大魔王や天災とも呼ばれる彼らのレベルだろう。一体いくつなのだろうか? 冒険者ギルドが定める討伐モンスターの判断基準で確認していこう。


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ギルド公式、脳筋でも分かる討伐モンスターの判断基準表


※自分の実力に見合ったモンスターを見極めて依頼を受けましょう。

 場合によっては違約金相当を先払いで納めて頂く場合があります。ご了承ください。


◇レベル1(ゴブリンなど)

 言わずもがな、雑魚です。冒険者になったばかりの新人は、まずここから始めましょう。但し、調子に乗ってモンスターの集団や巣に突撃するのは止めましょう。弱いといえどもモンスターだって命懸け、更には物量に押され、最悪は死んでしまいます。レベル1のモンスターに殺された駆け出し、なんて不名誉な称号は欲しくないでしょう? 冒険者ギルドは欲を見過ぎず、真面目にコツコツ励む事を推奨します。レッツエンジョイ冒険者ライフ!


◇レベル2(コボルトなど)

 別段手強い訳ではないですが、決して油断してはならないモンスター達です。冒険者になってからそれなりの日数が経ち、パーティの平均レベルが上がった辺りから挑戦してみましょう。始めのうちは1匹に対してパーティで戦い、それでも余裕があるようであれば、小規模の群れに戦いを挑むのも悪くありません。コボルトはコボルトでも、レベル3のコボルトボスだった! なんて事になると悲惨ですので、相手はよーく選ぶのが大事です。今のうちに見る目を養っておきましょう。でないと、いずれ死にます。


◇レベル3(スライムなど)

 一人前の冒険者になって、初めて戦うべき相手です。喩えモンスターが単独だったとしても、レベル2のパーティでは太刀打ちできるか怪しいところ。仮に倒したとしても、死傷者が出る事を覚悟しましょう。余談ですが、ここ最近新米冒険者の中に、行き成りスライムに挑む馬鹿者がいるとの報告が上がっています。今一度注意しますが、地上で発見されるスライムは元々海中が原産のモンスターで(諸説あり)、そこで進化を済ませてから陸へと上がった強敵です。打撃への耐性、取り込んだものを溶かす習性があったりと、基本種とされるスライムでもレベル3の力を持ちますので、徒に突貫しないようお願い致します。最悪、長い苦しみを味わいながら死ぬ事になりますので。


◇レベル4(グリフォンなど)

 このレベルともなれば、ギルド支部の一番の使い手が担当する難易度になります。いっぱしを自負する冒険者でも、迂闊に手を出すべきではありません。レベル4からは国の騎士団が対応すべき案件でもあります。対象モンスターを発見した際は、速やかにギルドへの報告をお願い致します。有益な情報には報奨金をお渡しする場合もありますので、生き延びる事を最優先に考えてください。ここで注意すべき事は、モンスターに発見された状態で付近の村々に逃げ込まない事です。貴方の軽率な判断が、村1つを壊滅させる場合があります。逃げるのも大切ですが、場合によっては諦めも肝心です。


◇レベル5(ドラゴンなど)

 そんなモンスターが出現する場所には立ち入らないようにしましょう。万が一に、不幸にも出くわしてしまった方にはご愁傷様としか言えません。彼らが不幸な貴方を五体満足で逃がしてくれる事は稀です。レベル5は国の騎士団が総出で討伐する段階。それなりの経験を積んだ一介の冒険者であれば、視界に入った瞬間に裸足で逃げ出します。もし仮に、レベル5のモンスターを討伐できたとしたら、貴方の名は瞬く間に轟く事になるでしょう。勇者に推薦される事も夢ではありません。しかし、だからといって夢は見ないように。


◇レベル6(魔王など)

 そもそもどうしてそんなモンスターと遭遇したのか、当ギルドの方から問い質したいレベルです。レベル6は最早ユニークモンスター、その個体しか種族がいないような段階であり、世間的には魔王と称される存在。魔王は正に勇者が倒すべきモンスターなので、冒険者はどちらかといえば、勇者を支援する立場となります。作戦行動時は国とギルドが連携し、緻密な策のもとで行動する事となりますので、如何に自由奔放な冒険者だろうと、この時ばかりは命令に従うようお願い致します。違反した場合、罰金もしくはギルド追放といった処置が施されますので、ご注意を。


◇レベル7~?(大八魔など)

 国が壊滅します。来世に期待しましょう。


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「妾達のところ、説明雑じゃない!?」


 ―――と、俺が親切にもギルドが定めるモンスターの脅威について説明していると、マリアが急に叫び出した。どうしたロリババア、急に叫び出したくなるお年頃か?


「ま、ギルド公認のガイドといっても、所詮は初心者向けの判断基準表だからな。レベル7以上の奴らと戦う事なんて、最初から想定してないんだろ。ここ最近はお前ら、大規模な戦争してないし」

「そうでしょうね。大八魔に対抗できる人間なんて、それこそ歴史に名を刻むような英傑になるもの」

「むー、それでも納得いかない~!」


 これは演技なのか素の反応なのか、判別付かないな……


「じゃ、代わりに俺が解説してやるよ。超大国が公認する勇者でもない限り、無理。以上だ」

「雑っ、雑じゃん!?」

「実際問題そうだからな。今は小競り合い程度だけど、ヴァカラが圧力を掛けているところくらいじゃないか? 世界的に知られているのはさ」

「えー、デリスとネルは~? 何気にアガリアも期待してると思うよ~?」

「ネルは兎も角、俺はもう最前線から身を引いているの。何の為に弟子をとってると思ってんだ」

「「……趣味?」」


 お、おう、分かってんじゃん。


「っと、ハル達とフンドが指定場所に集まったぞ」


 さて、ギルドも対抗策を投げ出す大八魔との戦い。どうなる事やら。

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