第230話 大八魔な親子
―――修行43日目。
本日は晴天なり、本日は晴天なり。ああ、雲1つない絶好の喧嘩日和だ。いよいよ勇者連合と魔王軍の代表者達が戦う日となる今日がやって来た。これは詰まり、とても長かった野宿生活との別れでもある。俺は今、とても感動している!
「すぴ~……」
しかし、時間にして朝の10時になったというのに、うちの駄メイドは全く起きようとしないな。よくこんなテントもない野宿でぐっすり眠れるものだ。見習いたくはないが、感心はする。
「とは言うものの、俺もまだ朝飯食ってないんだよなぁ。だがしかし!」
そう、だがしかし、今の俺には心強い味方がいる! 報告をさせる為にリリィを召喚した後、とある手土産をこいつから貰っていたのだ。それがこのカバンである! 一見何の変哲もないものだが、こいつには保管機能が付いていて、中には1週間分はあるであろう食料が入っていた。それも、調理を必要としない出来合いのものばかり。聞けば刀子から渡されていたものらしく、俺が必要とするだろうからと言っていたそうなのだ。
「しっかし、あの刀子がここまで気を配れるようになるなんてなぁ。大八魔リリィの教育、恐るべし……!」
寝返りを打つ駄メイドリリィを拝みつつ、俺は少し遅めの朝食をとり始める。うましうまし。
「ふあ? ふぅーーわぁあー…… ご主人様、おはよーごぜぇます……」
やっと目覚めたか。起き上がって腕を伸ばすリリィは、微妙に呂律が回っていない。
「おう、おはようごぜぇます。先に食ってるぞ」
「ふへへ、起床と同時にご主人様の顔を見れる至福の生活。ご飯はトーコちゃんが持たせてくれたし、この生活がいつまでも続くといいですねぇ」
「ああ、今日が果たし状の指定日だからな。それを見守って任務完了だし、この生活最後の日を思う存分噛み締めてくれ」
「な、何ですとぉ!? もう? もうですか!?」
もうっつうか、漸くだよ。帰ったら帰ったで俺の人生における一大イベントが待っているが、兎も角屋根のある生活に戻りたい。風呂に入れる生活を送りたい。
そんな事を考えていると、ふと俺はとある事を思い出した。いやまあ、今日の決闘には直接的な関係はないんだが、リリィがいる事だし聞いておくか。
「そういえばさ、今日の勇者連合とフンド軍の戦いに、審査役の大八魔は来ているのか? リリィは一応フンドの敵になってるし、お前が審査役って訳じゃないんだろ?」
「ふぇー…… 審査役ですかぁ……?」
「いい加減やる気出せ。せめて起き上がれ」
「えっとですね。この前の会合のクジ引きで、確かママが担当になってましたよ」
リリィの母、マリアが審査役か。あいつはリリィとは違う意味で猫被っているからなぁ。演技してるつもりだけど、半分素が出てるっていうか。リリィみたいに完璧になり切ってるんじゃなくて、気分次第で行動しまくるから次の動きが読み難いんだ。ないとは思うが最悪の場合、決闘中に楽しそうだったから、とかいうアホみたいな理由で乱入してくる恐れもある。ここまでお膳立てしたんだ。大八魔との戦いを邪魔させる訳にはいかない。
「リリィ、ハル達の戦いが始まる前に、マリアに挨拶をしておきたいんだ。ちょっと案内してくれないか?」
「ええっ、ママのところにですか!? 私、ママや他の大八魔の前では魔王モードになるって決めてるんで、それはちょっと辛いですよー。私、疲れが溜まっているんです! あとストレスも!」
ほう、心身共にボロボロな俺にそんな事をほざくのは、一体どの口なのかな? 最近は頑張ってくれていたから、大目に見ていた俺も心変わりしちゃうぞ?
「お前、ここ数日の堕落した生活を少しは顧みろよ……! こんな時間までぐーすか寝て、寝ずの番も俺に任せきりにしやがる駄メイドの意見なんか聞かん! 案内しなさい!」
「いーやーでーすー! ママに会ったら絶対に何か言われますもん! ねえねえ、リリィちゃんはいつ結婚するの? ママの器は果てしなく広いから、愛人でも別に良いけどさ。いい加減リリィちゃんもいい歳よねぇ。で、いつ? ―――なんて言われちゃいます! 駄目、絶対!」
「すげぇ上手くマリアの真似できる元気はあるんじゃねぇか! せめて来なくて良いから、居場所だけでも教えろ!」
「それはそれでやだー! 私を貰ってから会ってください! お願い、養って!」
「メイド姿で言う台詞じゃねぇだろ! いい加減マリアがどこにいるか吐け!」
一向にマリアの居場所を教えようとしないリリィ。これは最終手段、自力で見つけるを発動すべきかと考えた次の瞬間、そいつはやって来た。
「ねえねえ、呼んだ~?」
「「………」」
偵察用にと俺の定位置として活用していた木の枝、そこに逆さまになりながらマリアが立っていた。膝を使ってぶら下がっている? いや、足裏からもう逆さまだ。スカートまでもが重力に逆らっているとは恐れ入った。
「あら、ママじゃない。こんなところで何をやっているのかしら? 日課の散歩?」
「―――っ!?」
マリアが現れて、リリィが大八魔リリィへと早変わりした。思わず2度見してしまうほど、一瞬の出来事だった。お前、やればできるんじゃん……
「えへへ~。ここから楽しそうな気配がしてたから、つい来ちゃったの。えっとー、今は黒? それともデリス?」
「……デリスの方で問題ないよ」
俺がそう答えると、マリアは逆さまの状態から落下、くるりと回りながら地面に着地した。ま、まあ唐突ではあったが、結果的にこれはこれで良かった。探していた奴が、向こうからやって来てくれるとはな。
「デリスとして会うのは久しぶりだね! この前の会合で、リリィちゃんとアレゼルから聞いたよ~。今度、ネルと結婚するんだって? おめでと~」
「………」
静かにリリィへと振り返り、ジロリと熱視線を送る。喋るなと言った筈だよね?
「ハァ、これでも私は止めようとしたのよ? アレゼルがうっかり話してしまったの。ママも変に勘違いさせようとしないで」
「えへへ、ごっめーん」
ペロリと小さな舌を出してはにかむマリア。歳を考えろと千奈津のようにツッコミたくなるが、吸血鬼にそんなものは関係ないんだったか。全く、厄介な事である。式はそれ相応の覚悟をしなければ…… おっと、そうだそうだ。
「マリア、審査役としてフンドの戦いぶりを見に来たんだろ? 折角だし、一緒に観戦しないか?」
「えっ、良いのっ!? あ、でも公平公正を司る審査役が、そんな事で良いのかな? うーん、セーフなような、アウトなような…… セウト? ヴァカラ爺にちょっと聞いてみないと―――」
「ニンニクをふんだんに使ったガーリック炒めもあるぞ?」
「セウトはセーフとほぼ同意だよね!」
サンキュー刀子、ナイスチョイス。これで万が一の場合、俺とできる女と化したリリィでマリアを止める事ができる。
「ところで、デリスはリリィちゃんと一緒に何をしてたの? ナニをしてたの?」
「おい、何で今ニュアンスを変えて2度言った?」
その
「あの勇者連合の中に、俺の弟子がいるんだよ。師匠としてその戦いぶりを見に来てんだ。この前送ったあの映像は、そのついでみたいなもんだな」
「あ~、そういえば風の噂で前に聞いたかも。ふふ~、デリスの趣味は知っているんだ~。その弟子って、ボンキュッボンでしょ!」
「残念、すとーーーんだ」
「貴方達、ちょっと品がないわよ。女の子の体を何だと思っているのよ?」
「「あ、ごめん……」」
正論だが、リリィに言われると何か納得できない。
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