第228話 勇者作戦立案中
「はぁーーー!? 魔法使いが3人に、僧侶が1人ぃ!?」
会議室の中にポプラの声が響き渡った。いくら何でも信じられない、よく国からお墨付きをもらえたわねと、本気で驚いているのだ。
「ねえ、本気でそんな構成なの? 魔法王国って言ったって、限度ってもんがあるでしょうが! 私達ガルデバランの国だって、国是とする武術だけじゃなく、魔法だって覚えるものなのよ? パーティのバランスだって考えるものなのよ!?」
「近い……」
ポプラはずいずいと悠那達に迫り、事の真相を究明しようとしている。理解できない相手に対して、学者であるパパさんの血が彼女をそこまで駆り立てるのだろうか。
「まあまあ、お嬢ちゃんもそんな興奮するなって」
「お嬢ちゃんじゃなくてポプラ! ポプラ・フラウ! 言っておくけどね、アンタ達にだって言いたい事はあったのよ! 全員狩人ってどういう事よ!? 今時、冒険者だってそこまで偏ったパーティは組まないわよ!? いつか死ぬわよ!?」
「うお、今度はこっちに矛先が向いたか。つってもな、勇者になるなんて俺らが職業を決める時には思いもしなかったしなぁ」
「あの頃は掃除屋アドバーグだったからな。あれはあれで渋い仕事振りが光っていたよ」
「はははっ、違いねぇ! だけどよ、アーデルハイトの勇者にその心配は要らないと思うぜ? 何と言ったって大八魔である敵の幹部、海魔四天王を既に1体倒しているんだからな」
「……はぁ?」
それからアドバーグとその仲間達は語り出すのであった。タザルニア西海岸で起こった、世紀の一戦の話を。
押し寄せるマーマンの波を食い止め、海水ごと押し返し、海に毒を投げ込み敵を弱らせ、ちぎっては投げちぎっては投げポイポイポイ。敵将である海魔四天王とのタイマン勝負は、それは壮絶なものだった。1対1の殴り合い斬り合いぶつかり合い。互角に思えた戦いも最後は勝利を見事掴み取り、仕舞いには海魔四天王を拷問して、その口から情報を割らせるという尋問術まで披露してみせたのだ。
「まあ、簡潔に言えばそんな感じだった」
「俺達は棒立ちで傍観するしかできなかったもんな」
「ああ、あれはやばかった。策もそうだが、全てがやばかった」
ビッグやジョニー達は言いたい放題だ。
「う、うわぁ…… 貴女達、そんな綺麗な顔してやってる事は色々とえぐいのね……」
「え、えぐくないですからっ! ちゃんと海の毒は解除しましたし、尋問だって――― えっと、あれはやり過ぎだったかもですけど…… 兎に角、最善を尽くした結果なんです!」
「あ、殴り合い斬り合いぶつかり合いポイポイポイの辺りは本当だよ!」
ポプラが素で引いたり千奈津が反論したり悠那が同意したりと、色々と忙しない。ただ一先ずは、悠那達の実績を認めてくれるには至ったようだ。
「コホン。改めまして、僧侶の千奈津です。レベルは6、光魔法と剣術は人並み以上には使えますので、臨機応変に攻撃と支援に回りたいと思います」
「レベル6魔法使いの悠那です! 接近戦から遠距離の戦いまで、全部いけると思います! あ、使う魔法は闇魔法で、使い魔のゴブ男君もレベル6です!」
「オーホッホッホ! 漸く順番が回ってきたようですわね! バッテン家総領が娘、テレーゼ・バッテンですわ! 職業は
「ウィーレル、レベル6の魔法使いです…… 水系統の魔法が得意です……」
悠那達が一通りの話を終えると、渕ら以外のメンバーが一様にポカンとした表情を浮かべていた。
「……ああ、いや、改めて耳にするとすげぇもんだなと思ってな。レベル6が3人も、しかも1人は固有スキル持ち」
「う、うむ、配下のゴブリンまでもがレベル6とは恐れ入った。やはりアーデルハイトは魔境なのだな……」
「アセビ、復活したんだね。それにしても驚いたよ。俺と同じレベル6の戦友がこんなにいるなんて、正直思っていなかったからさ。本当に心強い!」
皆が口々に感想を述べる中で、渕が再びペンを取る。アーデルハイトの勇者、僧侶(剣)レベル6、魔法使い(闇・オールレンジ物理)レベル6、魔法使い(土・盾)レベル5、魔法使い(水)レベル6、海魔四天王撃破実績あり!
「やっぱりアーデルハイトは頭おかしいわ…… 何よ、これ……」
文字に起こすとその異質さが際立っていた。
「自己紹介はこんなところにしておこうか。何はともあれ、この14人で大八魔とその側近2体を相手しなくちゃいけない。どう戦ったら良いものだろうね? 僕らは会った事もない相手だ。何とも言えないから、海魔四天王と戦った桂城さんやアドバーグさんの意見を聞きたいな」
渕はテーブルをペン先で軽く叩く。
「海魔四天王のグストゥスさんは、私と殆ど互角だった印象かな? レベル6の中でも強い部類でした!」
「ハルナの手前で恥ずかしい話だが、俺らは4人で戦っても勝てる相手じゃなかった。その推測は正しいと思うぜ?」
「「「勇者アドバーグに同じ」」」
所感をまとめると、海魔四天王は少なくともレベル6上位の実力者であり、大八魔のフンドはそれ以上に強いだろうと予想。作戦としては海魔四天王の2体を抑えつつ、最大戦力でフンドを倒すのがベストであるという方針となる。
「となると、3つのパーティに分かれる事になるのかな?」
「それなら、僕らクロッカス組とアドバーグさんのタザルニア組が一緒だと良いと思うな。アドバーグさん達のみだと厳しかったって聞くし、僕らも似たような実力なんだ」
「確かにな。この2つのパーティが合わされば、海魔四天王にも対抗できると思うぜ」
「うむ、異論はない」
タザルニア+クロッカスと海魔四天王①に線が引かれる。
「残りの戦力を見るに、俺達ガルデバランはもう1体の海魔四天王を引き受けるよ」
「え、ちょ、大八魔じゃないのっ!?」
「ポプラ、戦力をよく分析するのだ。レベル、人数、実績――― どれを取ってもアーデルハイトのうぅー……」
「わ、分かったからここで吐かないでよ? 絶対よ?」
「良し、それなら残りの組み合わせはこうだね」
渕がガルデバランと海魔四天王②に、アーデルハイトと大八魔に線を引く。
「えっ、良いんですか? 私達が大八魔と戦っても?」
「そんな瞳を輝かせて、何を言っているんだい。もちろん、君達に任せきりにはできないよ。俺達や他の勇者だって相手の海魔四天王を倒したら、次は別の戦いを救援しに行く事になる」
「如何に手早く敵を倒して、仲間のところに駆けつけるか…… そこも重要だね」
心躍らせる悠那の一方で、千奈津は一刻も早く救援に来てくれと切に願った。ただ、これはあくまで理想通りに事が運んだ場合の作戦だ。最初から混戦になる可能性だって十分にあるし、敵の能力も未だ不明。これまでの魔王軍のように、愚直なまでに敵が正々堂々と戦えば通用するというだけの話。
「それじゃ、次に不測の事態が起こった場合の対応策だけど―――」
だから千奈津は、この形で戦う可能性を少なく見積もった。だから、皆も一様に幅広いケースを考える。しかし、中には別の事を考える者もいるようで。
(大八魔か~、リリィ先輩くらい強いのかな~?)
(決闘の後は芋煮会で決まりですわね! 昨日の敵は今日の友!)
(トイレに行きたい……)
……このくらいがちょうど良いのかは、謎である。決戦の日は近い。
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