第227話 勇者作戦会議中
クロッカス城の会議室。この日、その一室にて各国の勇者達が集まる。
「皆、今日はよく集まってくれた。連合が結成され、予定通り魔王の挑戦状を受ける事となったのは知っての通り」
「だが、ハンとスノウテイルの勇者が不参加となった今、戦力が低下した事は否定できない事実だろう」
「現在この地に集った我らが勇者の力のみで、第八魔の1人を打倒するのは至難の業」
「………」
「勇者アドバーグ、台詞を忘れたのか? 勇者が集まったこの場で、大八魔を倒す為の忌憚のない意見を交わし合いたい。だろう?」
「おい、何で俺らが仕切ってんだよ……?」
「「「勇者だからな」」」
会議室の中央に立つは、タザルニアの勇者4名。アドバーグの意向はさて置き、進んで司会進行をしてくれているらしい。オリジナリティ溢れる怪しげなポーズを決めている意図は不明だ。
「何あれ? 何でタザルニアの奴らが仕切ってるの? 意味分かんないっ!」
「まあまあ、少し落ち着こうよポプラ。彼らが言っている事は間違ってないよ」
「うむ、敵はあの大八魔だ。協力は必要不可欠だろう」
前評判を覆して、ガルデバランの者達はタザルニアの意見に賛同的。悠那らアーデルハイト組、織田らクロッカス組も特に反対する意味がないので、そのまま進めて構わないと進行を促す。
「ほら、皆もそう言っているぞ? 勇者アドバーグ、ずずいと進めてくれ」
「結局俺に投げるのかよ…… あ、あー、そうだなぁ。意見を交わすのも良いが、まずは各々の戦力を知っておくのも重要だと思うんだ。スキル構成まで明かせとは言わねぇが、レベルや職業、得意とする事くらいはこの場で話しても良いんじゃねぇかな?」
フンドの果たし状には両軍の代表者が出ての勝負とあった。ご丁寧にそこにはフンド側の代表メンバーまで記されていて、敵方はフンド自身と海魔四天王の2人のみとなっていた。それに対し勇者連合のメンバーは、国が勇者であると認めるのなら、何人が相手でも構わないとする豪胆振り。但し、無駄に人数を集めても戦力外であれば足手まといに過ぎず、そこをフンドに突かれる恐れもある。アドバーグのこの提案は、仲間として戦うに際しての連携を高めるのと同時に、そのレベルに値しているのかを確認する為のものでもあった。
「確かに…… お互いの力を知らないでの協力は、とても無理がある……」
「えっ、ちょっ! 私は嫌よ、何で手の内明かす必要があるのよ!」
「ああ、俺達もそれで構わない。ポプラはあれだ、最初はこんな風に否定から入らないと納得しない
「勝手な事を言わないでよ、リンドウ!」
ギャースギャースとポプラが騒ぎ続けているが、リンドウとアセビは気にするなとジェスチャー。おいおい、大丈夫かよとアドバーグは渋い顔だ。
「じゃ、言い出しっぺの俺らから話すぜ? 俺らタザルニアの勇者は全員遊牧民の出身でな。そんな訳で職業は全員が『狩人』、レベルも5で統一になってる」
「勇者アドバーグに補足しよう。私達は適正スキルである『弓術』に加え、近距離攻撃用の武術系スキルをもう1つずつ会得している」
「よって近距離、中距離での戦闘が得意なんだ。状況に合わせて獲物を追い込むような戦い方をしてきたから、皆と戦いの息を合わせるのは人一倍上手くできると思う」
「その分、魔法に関してはからっきしだ。回復や補助支援は完全に任せる形になる」
タザルニアの勇者、狩人レベル5×4、連携に自信あり。誰に言われる訳でもなく、渕が書記をし始める。
「じゃ、次は僕らクロッカスの勇者が話そうか。僕の職業はレベル5の忍者です」
「ニンジャ?」
「うん、たぶんピンとこないよね? まあ、隠密系の職業だと思って。攻撃方法は主に小剣による投擲、位置的には後ろに陣取りたいかな」
「俺は戦士のレベル5だ。あとは特に付け加える事はないかな。普通に前衛の戦士として運用してくれれば問題ない」
「えっと、僕はレベル5の魔法使い、です。使う属性は土なので、主に敵の動きを阻害したり、支援魔法を施す役目になるかな……」
「それと、僕と真丹君は固有スキルを持っているけど、戦闘向きのものではないから説明は割愛するね。使う機会もないだろうし」
それで説明は終わりとばかりに、渕はさっさと自分達の記述を書いてしまう。クロッカスの勇者、忍者レベル5、戦士レベル5、魔法使い(土)レベル5、である。
今まで時計回り順に話してきたので、次は自然とガルデバランの勇者達に視線が向けられる。
「……本当にばらすの?」
「全部じゃなくて良いって、さっきも言われただろ? それに、戦闘になったらどうせ分かるんだ」
「むー…… 私は賢者のポプラよ。レベルは5。魔法による攻撃と回復の両方ができるわ。具体的には炎と光魔法ね」
賢者とは魔法使いと僧侶を足して割ったような職業だ。その為、決してそれらの職業よりも優れている訳ではなく、むしろ戦闘面では劣る場面も多いので、冒険者にはあまり見られない傾向にある。レベルアップにおける恩恵はMPと知力に割り振られるので、魔力よりも学者方面に特化した術者だといえるだろう。
「へえ、賢者とは珍しい職業だね。僕らのクラスにも1人しかいなかったのに」
「え、いたっけ?」
「あー、桂城さんは知らないかもね。ほら、晃君のファンだった下関さんが実はそうなんだ」
「へ~」
「ふん、誰よそれ」
唐突な身内ネタに、自分の話からずらされたポプラは少し機嫌を悪そうにする。
「落ち着け、ポプラよ。話を戻そう。ワシはアセビという者だが、職業は魔拳士のレベル5だ。
「ドライタイプ…… 筋肉と魔法の共演……」
「それは分かりやすい喩えですわね!」
魔拳士は魔剣士の格闘家バージョンだ。殴って避けて魔法も使えると良く言えば良い所取り、悪く言えば器用貧乏。魔法による適性が増えた分、格闘家としての適正スキルが削がれている部分も多い。しかし一度使いこなせば、無類の強さを発揮する職業でもある。
「そして俺は勇者のレベル6だ。固有スキルとして『ブレイブチェイン』ってのがあって、仲間意識を持つ人達のステータスが僅かながらに上昇する。ま、そんな訳だから、君達とは仲良くやっていきたいね」
「おお、勇者の職業持ちか……!」
「しかもレベル6、これは心強いな。固有スキルも更に心強い。勇者リンドウ、よろしく頼むよ」
「……へえ、固有スキルも被る時があるんだ」
タザルニアのジョニー達が感心する中、渕が呟く程度の声でそう言いながらペンを走らせる。ガルデバランの勇者、勇者レベル6、賢者(炎・光)レベル5、魔拳士(雷)レベル5、ブレイブチェイン!
「ほら、貴女達の番よ。ゴブリンなんか使役している時点でお里が知れるけど、一応は聞いてあげるわ!」
ゴブ男の件をまだ根に持っているのか、ポプラはやけに好戦的だ。
「口が悪くてすまないね。本当にゴブリンだけは駄目なんだ、この子は」
「いえ、それは大丈夫なんですが…… アセビさん、凄いうなされていますよ?」
「うっ、アーデルハイト……! 赤い悪魔……!」
アセビはアセビで謎の発作が起こっている。
「大丈夫大丈夫、いつもの事だから。しかし、アーデルハイトは魔法王国っていうくらいだし、皆魔法使いだったりするのかな?」
「どんなパーティ構成よ、それ。全員後衛職ってあり得ないんだけど」
「ははは、だよねっ!」
「………」
リンドウの予想は結構惜しい線までいっていた。
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