第226話 連合結成
―――修行41日目。
その後、ポプラにゴブ男を近付かせないという約束をして、何とか騒ぎは収拾された。翌日にはタザルニアの勇者、アドバーグ達もクロッカス城へと到着して、着々と各国の勇者達がこの地へと集結。しかし、順調なのはここまでで―――
「えっ? ハンの国とスノウテイルの勇者さん、来ないんですか?」
「はい。先ほど、アドバーグ様からお借りしたマジックアイテムより連絡がありまして……」
王座の間に集合した勇者達に、女王クラリウスは申し訳なさそうに話す。
芸術の国、ハンの勇者達はクロッカスへの移動中、魔王軍らしき者達の襲撃を受け壊滅的な打撃を受けたとの事。唯一の生き残りである勇者グレゴールが負傷、それ以外のパーティは全滅してしまい、とても連合に参加できる状態ではないらしい。
「襲撃…… 詰まり奇襲か! クソッ、果たし状なんて送ってくる割には、随分と汚い手を使うじゃないか!」
昨日の怪我による峠を越えた織田が、その惨状に怒りを覚える。フンドの魔王軍が無実の罪を着せられた瞬間でもあった。
「しかし、おかしいな。俺達が魔王軍と戦っていた時は、正面から正々堂々って感じだったんだが」
「そうだな、勇者アドバーグの言う通りだ。だからこそ我々も、勇者らしく正面から応えた」
「あの戦いは後に伝説として語り継がれていく事だろう」
「グレゴールといえば戦う吟遊詩人として有名、彼に私達を歌ってもらいたかった……」
その一方で、魔王軍が奇襲したという話を怪しむ者達もいた。タザルニアの面々、またクラリウスもその1人で、別勢力による介入の線もあるのではないかと意見を出している。
「魔王軍、別勢力のどちらにしたって、今までそうだったからと油断していい理由にはなりません」
「そうだね、僕も鹿砦さんの意見に賛成。あの果たし状を受けるのなら、奇襲を含めたその他の策に出てくる可能性を考えた方が良い。それで女王様、スノウテイルの方は一体どうしたんです? そちらにも魔王軍による攻撃が?」
「いえ、そうではないのですが……」
クラリウスは再び申し辛そうに口を開く。今朝方、スノウテイルの隣国であるアーデルハイトに、彼の国の使者がやって来たそうだ。ヨーゼフ魔導宰相がその書状を見てみると、そこには驚きの文章が記されていた。
「勇者が冬眠に入ってしまったので、連合に参加する事ができなくなった。スノウテイルの分まで、諸国が奮闘してくれる事を期待する。そのような節の文章が書かれていたそうです」
シンと王座の間が静まり返る。そんな中で、最初に感情が表に出たのはやはり織田であった。
「は~、冬眠か~、それなら仕方ないってなるかぁーーー! 熊か、スノウテイルの勇者は熊さんか何かなのか!?」
「お、織田君、落ち着いて……!」
キレッキレのノリノリである。
「だけど、これはもしや…… 6国中、4国の勇者で大八魔に対抗しなければならないのでは……?」
「残念ながら、そうなりますね。しかしこの機会を逃せば、再び各国の勇者達が1つの場所に集うのはとても困難な事。加えて罠である可能性もありますが、魔王であるフンド自身が書状にあった日時に現れると、自ら申し出て来た好機を捨てる訳にもいきません」
「女王、では……?」
「はい。参加国の指導者達と話し合い、このまま連合を結成する事で話がまとまりました。我らがクロッカスを代表する織田様のパーティ、そしてアーデルハイト、ガルデバラン、タザルニア、この4国の勇者をもってして、第八魔フンド・リンドを打ち倒します!」
女王クラリウスは声を大にして、勇者連合の結成を宣言した。
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今や俺の定位置となる木の上にて、俺は城内での話を『鷹目の書』で盗み聞きしていた。
「マジか。スノウテイルも来ないのか」
スノウテイルは可能性としては考えていたが、まさか冬眠なんて馬鹿な理由で断るとは思っていなかった。白の国は一体何を勇者に据えたんだと問い質したくなる。
「ハンの方は大して期待はしていなかったけど、まさか晃に先を越されるとはなぁ」
最近、満足に水浴びもできていない頭をガシガシとかきながら、俺は報告にやって来たメイドさんに目をやった。すっかり大八魔モードが抜けてしまい、いつもの駄メイドに戻ってしまったリリィヴィアである。サモン・リリィヴィアで呼び出し、その後の経過を聞こうと思ったんだが、思わぬところで勇者の話とリンクしてしまった。
「え、えと、私だって私なりに急いだんですよ? でも、ここ最近は仕事が沢山で、トーコちゃんに指導もしなきゃでしたし……」
「いや、別に怒ってる訳じゃないんだ。刀子の件もそうだし、最近のお前はよくやってくれてるよ。できれば常にその状態でいてほしいくらいだ」
「あ、それは無理です。私、ご主人様とのお付き合いは遊びじゃなくて、本気でやりたいんで。偽りの私じゃなくって、本当の私を見てください!」
「……お前の感性も独特だよなぁ」
しかし、こうなったリリィは暫く使い物になりそうにない。俺と同じで料理はできないし、近くに置いていたら何かやらかしそうな気さえする。刀子のいるリリィの本拠地に戻すのが賢明か。ん、そういや刀子はハンにいたんだっけ。
「リリィ、刀子をハンの勇者にするのはどうだ? お前の力で、ハンのお偉いさんをそうするように仕向けてさ」
「えー、また働くんですかぁ? 私、暫く家の中でゴロゴロ無気力な生活を送りたいんですー。あ、でもご主人様がそこに加わって、生活をより濃いものにしてくだされば話は別―――」
「そうか、それなら諦めよう」
「ああん、判断が速いっ! でもそれが良いっ!」
こいつ、今まで頑張り過ぎて本格的に駄目になったかもしれない。
「まあ勇者の件はさて置き、刀子も大分仕上がってるみたいだな。晃は全然相手にならなかったんだろ?」
「何言ってるんですか、ご主人様。あんなの元から相手じゃありませんでしたよ~。それに私が施したのは、性根の矯正が殆どです。色街で働かせて、相手の欲するものを読ませたり~」
「おい、色街ってお前…… 変な事はさせてないだろうな?」
「大丈夫大丈夫。ちょっとお客さんとお話をするくらいで、変な事はさせてないですから。うちの店は店毎にアウトゾーンを決めていて、その辺ちゃんとさせてますもん。ノータッチは絶対です!」
その言い方は如何わしい店の謳い文句なんじゃないか? やばい、不安しかない。
「逆に最初のうちは、トーコちゃんからお客さんに手が出ちゃいそうになる事が多かったんですよ? あの子、ああ見えて初心で耐性がなかったんで」
手っていうか拳だよな。
「そんなトーコちゃんを私が優しく物理的に根気強く! ……分からせてあげて、今では相手の心を汲んでくれる店ナンバーワンの女の子になったのです! どんな卑猥な話題も華麗に躱して、涼しい顔で返答してくれます! うん、慈悲深い!」
本能を理性で食い止められるようになったって事か。しかし、これは素直に喜んで良いんだろうか? ただ果てしなく内容が危ない。
「それは良いが、本っ当に変な事はさせてないんだな?」
「ご主人様も心配性ですね~。演技ってる時の私が鍛えたんですよ? 間違いが起こる筈がないじゃないですか、あはは~」
その無意味に湧き出る自信はどこから出てんだよ……
「むむっ、その表情はまだ不満そうですね。ですがご安心ください! 技術面は私が夢の中で存分に鍛えてあげましたから! 仮想相手はもちろんご主人様、夢の中なのでもちろんノーカんんーーーっ!」
取り敢えず、木からリリィを蹴落とした。
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