お前らは模倣がヘタクソなんだよ。

 何かに対して凄く良いって思って、だから自分も同じことをしようと思って生まれたものは世界中に多い。物語ではそれで技術が発展しながら良い作品が生まれ続けてきた歴史がある。

 それ自体はすごく良いんだ。

 だけどさ、お前らってマジで模倣がヘタクソだよな! なってねえわ!

 ガワだけなんだよ。外側だけ! 外側の形や雰囲気だけを真似て書いてるからハリボテみたいな出来上がりになるんだよ。本当にそんな作品が多い! 雑な模倣で作られた、雑な作品! 読んでるだけで伝わっちまうんだよな、そうやって出来た作品の薄っぺらさと浅さが!


 ここで「自分はそんなこと無い」って思ったやつ、お前も高確率で該当してるからな!

 お前らってアレだろ? ラブストーリーのラストで事情のせいで別れ話になって、それで男側が「愛してる」って告げて感動させる作品があったとして、お前らは「なんか感動しちゃったな〜。ドキドキの恋愛描写のラストに別れ話を入れてそこで男に『愛してる』って言わせれば感動させられるんだなぁ」みたいな認識してるだろ?

 してるだろ、ってかしてるから俺を喜ばせられないんだよ!


 で、実際同じシチェーションを用意して同じようにさせるんだ。見てくれのガワの通りにな。

 それを辞めろ! そうやってガワだけを模倣して、パッとしない作品ばかりになるのも当然だろ! マッッッジで多いんだ、こういう作品! なんなら商業でも死ぬほどあるから参っちまうわ!

 雑にガワを真似るな! お前の真似たくなったガワは、中身を作ったから勝手に出来たものだって認識でいろよ!


 昔の文豪に素晴らしい純文学作品を作った人は居たろ? 上手い比喩やら感情の機微やらなんやら駆使して見事に文章を書いたやつは居た。でもそれに影響を受けたやつはどうだ?

 どうして綺麗な文章だと思ったのかを分析せず、「なんか知らないけど良かったなぁ〜。綺麗な文章ってこんな言葉を使えばいいのか! 真似しよ〜っと」みたいなノリでガワだけを真似しやがる! そういう作品って単語だけ引っ張ってくるから文章に中身が無いんだ、文豪と違って文章に込められた意図や作戦が無い!

 そんでそのガワだけの作品を見て、雑に分かった気になったやつが、またガワを思考停止で真似やがる! その思考停止作品をまた思考停止で持ち上げる! また思考停止作品が生まれちまう!

 脳みそ固まったやつばっかりで、ゾンビパーティーかよ! 腐敗臭がすげえわ!


 言っておくが純文学だけじゃないからな。エンタメや流行のジャンルでも同じようなことが起きてんだよ! そこら辺のやつらは騙せても俺に通用すると思うなよ! 俺はお前らと違って『分かってます感』で群れたいと思ってないからな!

 もう一度言うが、中身を丁寧に作ったら副次的に生まれたものが外側の雰囲気なんだからな! 雰囲気だけ真似たって、お前の憧れたものと同じ作品になるかよ!

 そんな体たらくでこの俺を楽しませたり深く感動させられるワケがないだろ! やる気を出せ! ちゃんと分析しろ!


 分析しろって言っても、何も計算しろって言ってる訳じゃないし、機械にかけろとも言ってないからな?

 後で簡単めな分析の仕方を教えてやるが、そもそもメインで分析するのは作品の方じゃないんだよ。もちろん作品の詳細も見ておく必要があるが、メインで分析するのは作品を見て抱いた自分の気持ちの方だ。

 お前ら、そこを勘違いしてんだ!

 ガワじゃないんだよ! 作品の概要だけを見て分かった気になりやがって。だから浅い模倣になるんだ!

 まず認識を変えろ! まず、お前が憧れたものは、作品の設定や概要ではなく、作品がお前を感動させたその手腕だ! お前が模倣するべきは、作品がお前相手にやった感情の抱かせ方だ!

 自分が抱いた感情の方に目を向けろよ!


 まぁそれを今までやってなかったとしても、俺は優しいので同情してやってもいいんだがな。まずもって世の中の作品の見方が良くねえんだ。それに影響されちまってんだろ?

 例えば有名な画家の有名な作品なんてものがあったとしてさ、それに対しての感想って良くねえよな!


 外側だけ見てさ、作品の概要だけ語ってさ、その後に「素晴らしい作品だと思いました」って付け加えて、芸術を分かった人間になりたいやつが多いんだよ! お前らはその影響で外側しか見られなくなったんだよな。安心しろよ、俺が代わりに物申してやる。

 そいつらは、自分がどうして「素晴らしい」という感情を抱いたのかについては言及しない! 考察しない! ガワしか見ねえ!


「この作品は〇〇の部分が素晴らしいと思いました」

「あまりにも美しくて惹かれました」

「この作品には不思議なパワーを感じます」

 なんて言っちゃってな!? そんな言葉で雑に、自分がその感情を抱いた経緯も理由も片付けるなよ! 作品の概要を話し終わった途端こいつら、ぼーっと口開けて「感じました」「思いました」「考えさせられます」とかボケたヤギみたいに話しやがる!

 そんでアレな!? その後には「この感情が分からないのも含めて芸術ですよね」とか言うんだよな! 「芸術は深い!」って言っておいて自分は浅瀬で済ますのかよ!


 色々言ったが、まぁ鑑賞なら感情の考察はしなくていいんだよ。閲覧者なら物語を楽しんで「あー凄かったな」でいい。

 でもお前らは創作者でやりたいのは模倣だろ?

 作品に触れて抱いた感情は分析した方が良いに決まってんだからな。特に創作者だったらより深く模倣できるようになるんだから分析し得だろ。『より深く』ってのはつまり、モノマネではなく獲得した能力として模倣できるって意味だ。


 じゃあ仕方がないから俺がお前らのために特別に分析の簡単なやり方を教えてやる。別に絶対俺の言う通りにしろってわけじゃないし、自分なりの方法があるんならそっちをやってくれていい。でもお前らそんなもの無いだろ? 模倣のやり方なんて決めてないんだろうし、とりあえず俺が今から書くことに従え!

 大前提として、お前が真似たいと思ったほどの名シーンが必要だ。


 まずは『これはどういう場面なのか、何がどうなっているのか』という『状況の確認』をしろ。

 次に『作品はどういう展開を仕掛けてきたのか、キャラクターはどう動いたか』という『行動の確認』をしろ。

 次に『それを見て自分はどうしてああいう感情を抱いたのか、どうしてあそこまで感情が大きくなったのか』という『影響の確認』をしろ。

 そして最後に、確認したことをざっとまとめて答えを出す。

『状況の確認』、『行動の確認』、『影響の確認』だ。このスリーステップを忘れるなよ!


 だいたいの分析はそれで終わりだ。ぽかーんとしやがってるからこの分析方法の意図を解説してやる。

 ますお前らはさ、状況だけで感情が産まれてると思ってる節があるんだよ。『状況の確認』で終わってる。綺麗な絵、だから、感動した、みたいにな。もう一度言うが真似たいんならそれじゃダメだ!

 思い出せ! 絵画なんてそもそもインクを塗りたくった紙だ。彫刻なんて上手いこと削った石だ。それこそ小説なんて文字の集合体だ。ただのそれでしかない。なのに、感情を与えるんだよ。

 なのに、だ。なのに!

 これをどうしてなのか考えろ! いや、答えを教えてやるよ!

 そもそも感情ってのは影響によって産まれるものなんだよ。自分が作品を見て、心の中に何かの感情が産まれるんだろ? じゃあそれは『影響』なんだ。影響が感情を産む。ただのそれでしかないもの、作品そのものが何かをするわけじゃないんだよ。


 ここまで言えば分かったよな? 

 『状況の確認』だけで模倣するのはおかしいんだよ! 雑にガワを模倣すんな! 重要なのは『影響の確認』なんだよ! そして『行動の確認』というのは状況の奥を見て、作者の意図や作品の構成(物語ならば展開やキャラの動きなど)を確認して、何が自分にどう影響しているのかを見極めるためのステップだ!

 このくらい俺に言われる前に気づけよな。まぁでも良かったな、俺のおかげで気づけてよ!


 まだ分かってなさそうな顔してるから、さっきの『ラストで事情のせいで別れ話になり、男が「愛してる」と言うストーリー』で例えてやる。そこが真似したいポイントだとしてな。

 まず『状況の確認』。キャラクター同士が愛を育んできて、そして最高に愛情が深まったタイミングで、事情により別れることとなり、男が「愛してる」と言った。確認したな?

 次に『行動の確認』。作者はここまで恋愛模様を濃厚に描写して、丁寧にだんだんと愛が深まるストーリーにして、最後に別れさせた。最後の時に男に「愛してる」という彼らしい純粋で真っ直ぐな言葉を言わせた。

 次に『影響の確認』。それを見て自分は今まで深く深く愛し合った二人が別れるところに同情してとても悲しくなった。そして「愛してる」という彼らしい真っ直ぐな言葉に今までの彼を思い出して切なくなり、そして純粋な気持ちに泣きそうになった。自分の昔の恋愛を思い出してさらに感動した。

 最後に確認したことのまとめ。この三つを確認できたら、何がどうして自分を感動させたのかが分かるはずだ。何にどれがどう作用してるのかをちゃんと見極めろ!


 分析の結果、『今まで仲良くしてた人たちが特に幸せになるタイミングで、突然離れ離れになる展開を仕掛け、そして最後にキャラらしい言葉で想いを伝える』が真似すべき部分であることが分かったな?

 あくまで説明のための単純な例だからだいぶ短くなったのは許してくれよ! 本当ならもっと分析の過程も結果も長いからな!

 大事なことだが、これは自分の抱いた感情がどうして起こったのかの考察であり、作品の考察とは少し違うから、つまり分析の答えは自分だけの唯一のものになるんだ。


 真似すべきポイントが分かったんなら、恋愛だけじゃなくて友情バディものでも同じことができるんだ。

『裏社会でいつもつるんでた俺と相棒が、足を洗って表で真っ当に生きようとするところで抗争に巻き込まれ、そしてギャングの鉄砲玉にされた相棒は「またな! 地獄で会おうぜ!」と彼らしい乱暴な言い方で別れを告げる』なんてものも作れる。

 最初に言った『ドキドキな恋愛描写でいきなり不本意な別れ話をさせて片方に「愛してる」と言わせるストーリー』とは模倣の質も深さも段違いだろ!?


 お前らの模倣は本当に良くないんだからさ、ちゃんとこういうのを意識しながら作品と自分の感情を観察しろよ!

 そんで俺に面白い作品を献上するんだよ!

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