第251話 戦力

 ―――紋章の森・エルフの里


「う、ううん……」


 左腕に違和感を覚え、まどろみから目覚める。少し気だるく、頭も呆けているような気がする。えーと…… 昨日はアンジェから話を聞いて、それが終わってからジェラールと村長による酒飲み対決に巻き込まれたんだったか。断言しよう、あの2人は底無しだ。真っ当に戦っていい相手ではない。いくら俺でもその手の勝負はノーサンキュー、適当なところでエフィルらと一緒に切り上げたから大惨事にはならなかったが、あの後も酒豪達は勝負をし続けたのだろうか。うーむ、広場に行くのが怖いな…… エルフ達が死屍累々としていそうだ。


「兎も角、いい加減起きなきゃ、なっ!?」


 俺がベッドから起き上がろうとすると、左腕が物凄い力で引っ張られた。


「むにゃ…… にゃんで逃げるのよぅ……」

「……朝だからだよ」


 俺をベッドに引き戻した犯人はセラだった。酒が残っているのか、見るにまだ熟睡モードだ。これではまだまだ起きそうにない。そして俺の腕を離しそうにない。素面なら寝相も良いんだが、酒が入ると多少なりに寝床でも暴れてしまうのが難点だな。まあ、メルフィーナ先生には敵わないけどね!


「エフィルは…… 流石にもう起きてるよな」


 エフィルが寝ていたベッドの右側には温もりが微かにあるも、既に空となっている。今頃は朝食の準備をしてくれているんだろう。 ……んー、どうすっかな。セラは離してくれそうにないし。


「ああ、そうだ」


 今のうちに配下ネットワークにアップする情報を整理しておくか。昨夜アンジェから聞いた神の使徒、その顔触れや用いる能力はメモっておいた筈。ああ、あったあった。これを弄くって――― よし、纏めた内容は以下の通りだ。



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 序列第10柱 空席


 アンジェが組織に所属していた際は欠員となっていた位。転生したトリスタン・ファーゼがこの席に就くのではないかとアンジェは予想している。生前は召喚術を扱い、ジルドラから提供されたゴーレムを使役していた。



 序列第9柱『生還者』


 実名は不明。獣王祭にてリオンと戦った剣士。組織内では最も後に入り、アンジェ在籍時は末席に加わっていたとのこと。アンジェ、バール襲撃時にはジェラールとリオン、アレックスを相手に一歩も引かぬ戦いを繰り広げた。強力な不死性を体に宿しており、首を刎ねようが業火で消し炭にようが瞬時に回復してしまい、どのような状況下でも生還する。固有スキルによる能力なのかは不明。剣術も抜刀術を使うなど多彩。



 序列第8柱『暗殺者』


 今や語るまでもないが、アンジェが就役していた席。固有スキルとして物質や魔法を通り抜ける『遮断不可』、不意打ちが凶悪な火力となる『凶手の一撃』を所持しており、構成スキルも暗殺者として特化したものとなっている。アンジェ曰く敏捷力は組織内でも最速だったらしい。しかし真正面からの戦いとなると戦闘力は下位。組織を抜け、俺たちの仲間になった為に実質的に現在は空席である。



 序列第7柱『反魂者』


 実名はエストリア・クランヴェルツ。セラ並のスタイルを持つ妖艶な吸血鬼。ちなみに種族としては悪魔と吸血鬼は別種らしい。接する機会はあまりなかったが、よく自分から本名を名乗り出る為にアンジェも名前を知っていたようだ。S級白魔法でも不可能とされる死者を蘇生させる力を持つとされるが、実際に目にしたことはアンジェもない。序列第6柱の断罪者とすこぶる仲が悪い。



 序列第6柱『断罪者』


 実名はベル・バアル。ファミリーネームからも分かる通り、セラと血縁関係である悪魔の可能性が高い。アンジェにも過去について話すことがなかったので事実は不明だが、それでも組織の中では一番仲が良かったとのこと。口は悪いが聞き上手と熱く語られた。固有スキルとして『色調侵犯』を持ち、触れたものの性質の濃薄を操作することができる。蹴りを主体とした格闘術と緑魔法を得意とする武闘派。序列第7柱の反魂者と大変仲が悪い。



 序列第5柱『解析者』


 パーズで出会った際はリオと名乗っていたが、実名は微妙に異なりリオルドというらしい。ギルド長であったリオの正体であり、アンジェと共に俺とメルフィーナの監視を行っていた。『神眼』という大層な名前の固有スキルを所有し、隠蔽や偽装スキルを無効化することができるそうだ。詰まるところ、ステータスをS級クラスの隠蔽でいくら隠していたとしても、リオルドにとっては意味を成さない。鑑定眼の完全上位互換と言えるだろう。現在は西大陸に渡っている。



 序列第4柱『守護者』


 実名はセルジュ・フロア。当時のデラミスの巫女、アイリス・デラミリウスに召喚され、魔王グスタフを倒した前勇者。表裏がなく調子の良い性格だが、純粋な戦闘力では使徒の中でも群を抜く。組織内では本拠地に存在する神殿の守護を担当し、基本的にそこから動かないそうだ。その理由から暇を持て余していることが多く、アンジェを見つけては無駄話に興じていた。そのような世間話の中にも重要な話を混ぜ込んで話す為、そこで初めて知る情報も案外と多いらしい。固有スキルとして『絶対福音』を持ち、事象を折り曲げるレベルで運が良い。同名のスキルでもあるし、予想するに刀哉と同じく主人公体質なのだろう。黒髪で黒の瞳である為、俺や刀哉と同様に日本人である可能性が高い。



 序列第3柱『創造者』


 実名はジルドラ。自らが所持する固有スキル『永劫回帰』で体を入れ替え、長きに渡る時を自身の研究に費やしてきた。その分野は多岐に渡り、ゴーレムの製作から武具やアイテムの生成、果ては生物学・病毒に至るまで手を伸ばしている。アンジェがそうであるように、神の使徒が扱う武具の大半はジルドラのオーダーメイド品。ジェラールとの因縁が深い相手でもある。



 序列第2柱『選定者』


 実名は不明。アンジェが唯一姿を見たことがない使徒であり、拠点に設置された聖碑越しでしか声も聞いたことがないという。組織のトップである代行者のみが所在を知り得る、らしいが実際のところは分からない。ただひとつ言えるのは、組織に見合う人材を選定しているのは彼(彼女?)であると言うこと。所謂スカウト役だろうか。



 序列第1柱『代行者』


 実名はアイリス・デラミリウス。コレットの先祖であり、魔王グスタフが世界の脅威となっていた当時のデラミスの巫女。彼女が崇め奉る神であるエレアリスから『転生術』を限定的ながらも受け継いでおり、神の使徒として役立つ人材を転生させている。拠点である神殿の内部におり、平時は祈りを捧げ続けているという。その身に神の力を授かった影響か、生前とスキル構成が全く異なり半神状態にある(守護者談)。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 こんなところかな。後でアンジェにチェックしてもらおう。さて、ここで気をつけるべきはあくまでこれらはアンジェが知る情報で、記載している内容以外にも何かしらの能力を隠し持っているかもしれない、ということだ。固有スキルがひとつとも限らないし、事実アンジェも2つ目の固有スキルである『凶手の一撃』については誰にも伝えていなかったそうだ。


「想像するだけで興奮してしまうな」


 戦闘民族である日本人の血が騒ぐではないか。 ……むっ! いかん、興奮し過ぎて鼻血が。


「………」

「何だ、セラ起きてたのか」


 拭くものはないかと辺りを見回しいると、傍らでセラが目を覚ましていることに気付いた。なぜか半目でこちらをジーっと見詰めている。


「……えっち」

「違うからっ! そういう鼻血じゃないからっ!」

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