第249話 続・祝宴 in エルフの里

 ―――ガウン領南東・紋章の森


 神獣の岩窟にて無事ディアマンテを討伐した俺たちは、一度ガウンに戻りセラと合流後、竜形態のダハクらに乗ってエルフの里を目指した。手土産に世にも珍しい神獣のミートローフをクロトの保管に入れて。しかし空の旅路も途中まで。紋章の森が近くなれば適当なところで地上に降り、そこからは徒歩で向かう。


「兄貴ー、何で森の中からは歩かなきゃならないんスかー。俺に乗って行けばひとっ飛びッスよ?」


 もっと飛んでいたかったのか、ダハクは若干不満気だ。だが流石に里までダハクに乗っては行けないな。


「里に住むエルフの人達は火竜王の襲撃に遭ってここに逃げて来たんだよ。行き成りダハクやボガみたいな巨竜でやって来たら、里の皆が驚くだろ」


 その配慮からボガとムドファラクは俺の魔力内で留守番中だ。


「はぁ、そんなことが…… 糞親父の話じゃ、火竜王は沸点が低いって聞きますかんねぇ」


 ああ、そういやダハクの父親は闇竜王だったな。悪魔が住まう奈落の地アビスランドに棲み処を置くんだったか。奈落の地アビスランドは世界のどこかにある地底の領域、セラの故郷でもある。今回はエフィルの里帰りとなったが、いつかセラの里帰りの道すがらに立ち寄ろうか。ところで親父さんとバトってもいい?


「まあまあ。折角のエフィルねえの里帰りなんだからさ。散歩がてらに景色を楽しみながら行こうよ」

「しょうがねえ、たまには歩くのも悪くねえッスよ!」

「ありがとう、ハクちゃん。後で好きなもの作ってあげるね」

「兄貴、先に行くッスよ! 今の俺、どこまでも大地を踏みしめたいんで!」


 我先にとダハクが森の中へと突貫。おい、どんだけ早く食いたいんだよ…… 魔王を倒してからモンスターこそ出現しなくはなったが、随所に施された結界は健在なんだ。迂闊に先行し過ぎると迷子になるぞ。


「あ、ハクちゃんずるい! エフィルねえ、僕の分は? ハンバーグが良いな」

「承知致しました。エビフライとオムライスもお付けしますね」

「本当に? わーい、頑張ってハクに勝つね!」


 その後を追う寸前、リオンがちゃっかりと好物を所望する。それなんてお子様ランチ、と言っても今更か。リオンは好物に関係なく何でも食べてくれるので、多少の我侭も可愛いものなのだ。だが景色を楽しむ余裕はどこに行き、いつからエフィルの料理をかけた勝負になったんだ、これ……


 そんな調子で半ば呆れ混じりにその光景を眺めていると、横からアンジェが俺の袖を軽く引っ張ってきた。


「ケルヴィン、私もあの駆けっこに参加していい?」

「……大人気ないから止めなさい」


 勝負云々抜きに、エフィルならお願いすれば作ってくれるから。メルフィーナを見ろ、もう直談判しているぞ。女神様は今日も逞しく生きている。



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 ―――紋章の森・エルフの里


 結界の抜け道を前回同様の方法で、正解を導き出しながら進むこと数分。どうやら選択した道順は適切だったらしく、ストレートで里に辿り着くことができたようだ。トライセン軍の襲撃に備えて絶崖黒城壁アダマンランパートで作った黒き城壁が視界に入る。


「そこの者達、止まれ!」


 そしていつぞやの時と同じ台詞を味わう。うーむ、既視感が半端ないです。


「この森は結界で護られ――― ってケルヴィンさんにエフィルさん方!?」

「や、お久しぶりです。ネルラス長老います?」

「ちょ、ちょっと、いえ! 少々お待ちを! 引き摺ってでもお連れします!」

「あの、そこまで急がなくても大丈夫―――」

「お連れしますから! 伝令、伝令!」

「あ、はい」


 長老の扱いが酷い。


「何っ!? ケルヴィン殿がっ!? それにエフィルさんもっ!? 宴、宴の用意を急げっ!」


 ……声が大きいな。城壁外のここまで聞こえて来るぞ。そして引き摺る必要がないくらいの迅速さ。長老、また変なスイッチが入ってますよ。


 ―――ドドドドドッ!


 声の直後には城門方向から激しい足音が聞こえて来る。嫌な予感しかしない。


「お待たせしたぁ! 宴の準備は整っております! 本日は祝いの席、朝まで飲み明かしましょうぞ!」

「いえ、全然待ってないですから」


 長老、またキャラがブレてないですか? あと準備整うの早いな、おい。


「長老からのお達しだ! ありったけの酒と飯を持ってこい! 祭りだ祭り!」

「「「「おー!」」」」


 里の中で慌しく動くエルフらも既に飲む気満々だ。凄い笑顔だ。あれ、エルフってこういう種族だったっけ? 普段はエフィルとしか接する機会がないから、清楚で物静かなイメージだったんだが…… これでは単なる祭り好き集団である。祝いの席を口実にして飲みたいだけじゃないよね? まだ陽が落ちるには早い時間ですよ?


「おい、ジェラール殿用のお立ち台の準備もしておけよ」

「当たり前だろ。あれがなきゃ始まらないからな!」


 おい、止めろ。


「うふふ。皆さん楽しそうですね、ご主人様」

「う、うん。そうだね……」


 天使なエフィルの笑顔は心のスナップ写真として永久保存しておくが、命名式の後にギルドで発行された冒険者名鑑に戦慄ポエマーなどという虚偽の情報が載せられたのは、主にアレが原因だからな。俺の不安は高まるばかりだ。


「このような所で立ち話もなんでしょう。ささ、どうぞ中へ」

「そうですね。お手柔らかにお願いします」

「はい? 何を言っているのですか、全力でいきますとも!」


 くっ!


「お邪魔しまーす」

「お、お邪魔します…… あ、ま、待って、リオンちゃん!」

「うーん。私、ここでの記憶があまりないのよね…… 調子悪かったのかしら?」

「いや、絶好調じゃったよ」


 俺の不安をよそに、リオンを先頭に皆が里へ入って行く。


「さ、私たちも参りましょう。ご主人様」

「ウン、ソウダネ」

「?」


 エフィルに手を引かれ、片言な俺も里へと歩み出すのであった。



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 夜が更ける。里の広場での宴を何とか持ち堪え、城壁上の離れにてエフィル、アンジェと小休止。前回同様にセラが足早にリタイア、続いて介抱していたリオンやシュトラ達も就寝した。それでも会場ではジェラールや長老ネルラスを中心にドンチャン騒ぎが続いている。ちなみにお立ち台は不測の事故という形で破壊させてもらった。隠蔽工作も完璧である。


「あー、楽しかった! エルフの人達って、思いの他フレンドリーなんだね」


 頬を僅かに染め、両手を伸ばし喜びを表現するアンジェは大満足のようだ。


「フレンドリーと言うか、最初の頃と性格が変わってしまったと言うか…… あれが本質なのかもしれないけどさ」

「お土産のミートローフも喜んで頂けたようで良かったです」

「あー、何人か涙を流しながら菜食主義を止める宣言してたな」


 果たしてああなって良かったのだろうか? 別にエルフ全員がベジタリアンって訳ではなく、元々少数派らしいけど。エフィルだって肉食べるし、これも自然と摂理という便利ワードで済ませてしまうか。


「この旅行も残り僅かですね。お屋敷に戻ったら隅々まで手入れ致しませんと」

「あはっ、エフィルちゃんは真面目だねー」


 むんっ! と気合を入れるエフィルにアンジェが笑う。 ……パーズに戻り待っているイベントがまず冒険者ギルドでの修羅場か。胃が痛くなるな。


「……えっと、さ。パーズには転移門で戻るんだよね?」


 緩んだ雰囲気とは一転して、アンジェが神妙そうな表情で尋ねてきた。


「ん? ああ、そのつもりだよ。ダハク達に乗って帰るよりも早いからな。獣王との別れ際は警戒しなきゃならないが」

「獣王よりも注意してほしいことがある、かな。その…… ギルド長についてなんだけど」

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