第190話 新たなるスキル
―――ケルヴィン邸・地下修練場
俺たちのファミリーネームが無事決め終わり、その足でギルドに赴いてセルシウスの名で申請することをアンジェに伝えた。実際にはガウンで行われる命名式を終えるまで名乗ることはできないのだが、まだ予定日まで余裕がある。ガウンには転移門で瞬時に移動できることだし、別に急ぐ必要はないかな。それに装備の作成や新たに会得した固有スキルのテストなどやることは盛り沢山、今も地下の修練場でお互いの能力を確認しようとやって来たところだ。
「お兄ちゃんのお屋敷って地下の方が広いのね。迷子になっちゃいそう……」
「冗談じゃなく拡張し過ぎて奥は迷路だからなー。シュトラちゃんも気をつけてくれよ」
「むう、私記憶力は良いのよ。それくらいは覚えれるもん」
お姫様の手を引きながら重厚な修練場の扉を開く。え、お姫様に対してフレンドリーじゃないかって? そりゃ同じ屋根の下で暮らす同居人だからな。何時までも避けられるのは辛いものがあるから、俺だって好かれる努力をしていたのだ。その甲斐があってか、ここ何日かで何かと避けられていたシュトラ姫とも打ち解けることに成功した。今では敬語を止めて友達のように接する仲である。一度仲良くなれば気を許すタイプって感じかな。まあそこに至るまでエフィルが作った俺の分のお菓子をやったり、教育係のロザリアから庇ったりと色々あったんだけど。いやあ、人見知りだとはアズグラッドから聞いていたが、S級モンスターを倒すよりも苦戦するとは思ってもいなかった。フーバーから変な目で見られるようになったのは予想外だったが、あいつ絶対何かを勘違いしている気がする。
「さ、今日は俺やリオン、エフィルにジェラールが進化して得たスキルについて検証していこうと思う。もう各々試しに使っているとは思うけどさ」
今日まで通常の模擬試合はしていたが、習得したスキルについては使用を禁止していた。いや、確認もせずに仲間に使うとか危ないじゃん。一応自分のスキルはメニューから説明書きを呼び出しその効力を読み取ることはできるが、実際に使ってみないと分からない点もあったりするし。
「王と、試すのはいいが模擬試合形式でやるのかの? 固有スキルを試すには危ないと思うが」
「ああ、それもちゃんと考えてきてるよ。要は仮想の敵がいれば問題ない。セラ、頼む」
「オッケー。あ、シュトラ、危ないからもう少し離れていなさい。ダハク、アンタはシュトラを護りなさい。いいわね?」
「う、うん」
「よく分かんねぇけど了解ッス、セラ姐さん! ほら嬢ちゃん、エフィル姐さんが作ってくれた携帯用野菜スティックやるから俺のそばにいな」
ダハクが筒状の容器を取り出し、シュトラにその中に入った色とりどりの野菜スティックを差し出す。メルフィーナの製作品だろうか? 容器からはヒンヤリとした冷気が出ている。それにしても幼女に煙草を差し出す不良のような危ない図だな。
「エフィルの!? 食べる!」
そして直ぐ様食いつくシュトラ姫。王宮育ちのシュトラにとってもエフィルの調理した品々は魅力の一品、抗えるはずがないのだ。
「美味しい~♪」
「ったりめぇだろ。エフィル姐さん舐めんな」
シュトラ姫は床に座るダハクの膝の上に座り、2人してパリパリと野菜スティックを頬張っている。ああ見えてダハクの奴はなぜか子供に人気があるんだよな。お前、俺がシュトラ姫の心を開くのにどれだけ努力したと思ってるんだ…… まあ、その力を意中の相手にも発揮できればいいんだが。
「さ、出てきなさい。マザーブラッドワーム」
セラの影が膨らみ、ズザザァと怒涛の勢いで天井へと舞い上がる赤き巨体。
「あれ? これって……」
「ああ、この前倒して来たマザークレイワームをセラの黒魔法で復活させたんだ。しかもセラの血入りでかなり強化されてる。一度倒しているから経験値は入らないが、練習相手としてはうってつけだろ?」
「特に制御とかはしてないから普通に襲ってくるからね。あくまで実戦形式よ!」
セラがこちらに向き直り説明する。
「わ、危ないわねー」
血染めのクレイワームが放った尻尾による薙ぎ払いを片手で受け止めながら…… 一番近くにいるのに余裕そうですね。マザークレイワーム改めマザーブラッドワーム。討伐依頼が出るとすればS級相当の強さだろう。総合力では『竜海食洞穴』の邪竜以上かな。うん、良い仕事だ。片手で受け止められたけど。
「死体を復活させたんだ? なら僕は最後が都合良いかなー」
「ならワシから披露しようかの。ワシは新たに得たと言うよりもスキルが変化したようなもんなんじゃが―――」
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「―――駄目ね。ケルヴィン、もう復活は無理っぽいわ」
「流石にセラの黒魔法でもこれ以上はできないか……」
「最後のリオンのが止めになったわね。完全に浄化されちゃったし」
「あはは、ごめん……」
ジェラール、エフィル、俺、最後にリオンと戦ったマザーブラッドワームは選手交代する度に見るも無残な姿と成り果てていた。ジェラールに分断され、エフィルに燃やされ、また俺に分断され、ラストのリオンの手によって天に召された。正確には討伐した際に既に召しているが。
「ま、これで検証は終了かな」
順々に復習していこう。まずジェラールの固有スキル『栄光を我が手に』、『自己超越』は以前所持していた『忠誠』、『自己改造』の上位互換スキルだ。『自己超越』については前にジェラールが説明してくれたから省くかな。実際そのまんまの能力だったし。
『栄光を我が手に』は欠点のなくなった『忠誠』と言ったところか。『忠誠』はステータスの一時上昇と引き換えに制限時間があり、それを過ぎてしまうとジェラールが動けなくなると言うデメリットがあった。対して『栄光を我が手に』は制限時間を過ぎても厄介なステータス異常がないのだ。更に敵にダメージを与えればそれに応じた時間が延長される効果付き。これまで使いどころが選ばれるスキルであったが、これならば心置きなく使うことができる。後はジェラールの俺に対する忠誠心がどの程度のもんなのかって問題だ。普段の行いからは微塵もそんな気配を感じられないから不安である。
「エフィルの固有スキルは…… 炎が蒼くなったな」
「はい、蒼くなりました」
エフィルが手の平に小さな蒼炎を出す。
「エフィルの炎、綺麗だね~」
「シュトラ、それ見た目以上に危ないから絶対触るなよ」
「ほら、下がれ下がれ」
「むー!」
ダハクが要所要所で抑えてくれてるから大丈夫だとは思うけどさ。
エフィルの固有スキル『蒼炎』は文字通り炎が蒼く染まる。もちろん効果はそれだけではなく、炎の威力から消費する魔力まで全てが跳ね上がっているのだ。エフィルが読み上げたメニューの説明書きを聞くに、炎に対する耐性をも貫通するらしい。また火力が上がってしまうな、これは。普通の炎も任意で選択することができるので、いざとなった時の奥の手として使う感じだろうか。
「ちなみにもう1つのスキルの効果は何なんだ? さっきの戦闘では使っていなかったみたいだけど」
「『悲運脱却』はステータスの幸運を上昇させるスキルですね。セラさんの『豪運』と似たようなものかと」
「S級の豪運の2倍以上の上昇値なんだけど、これ……」
セラのS級まで等級を上げた豪運スキルの上昇値が+640、エフィルの固有スキルが+1437である。補正が凄いことになっている。スキルの名前からして他にも何かあると思うんだが。
「えっと、説明書きには他に何も…… あっ」
メニューと睨めっこしていたエフィルから素っ頓狂な声が上がる。
「これまで起こった不幸の数だけ、幸運に補正がかかる…… 空行の大分先にこの一文がありました……」
「「「………」」」
く、空気が重い……
「―――ご主人様、そんな顔をなさらないでください。私、今とっても幸せですから。ご主人様と出会う以前の苦悩が帳消しに、いえ、そんなものとは比較にならないほどの幸せを頂きました。ですから、ご主人様はいつもの素敵な笑顔でいてください」
「エフィル……」
何で俺の周りにはこんな良い子ばかりいてくれるんだ! これは幸せにしないと罰が当たる!
「しかしエフィルよ、王の素敵な笑顔ってアレじゃ……」
「……? ご主人様はいつも素敵な笑顔ですよ?」
「いや、うむ…… そうじゃな。何でもなかったわい。王よ、次に行こう、次」
ジェラールは何やってんだか。まあいいや。
「リオンの『絶対浄化』もそのまんまの意味かな。さっきも黒魔法で再生させたマザーブラッドワームを再起不能にしてたし」
「うん。黒魔法に対してはかなり有用なスキルだと思うよ。基本触りさえすればアンデット系のモンスターも一発かな? 怨念とかの毒気を浄化させるんだって。あ、後は呪いにも強いかな! 試しに呪われた剣を装備してみたんだけど、触った瞬間に呪いがなくなっていたし」
それはまた聖人らしいスキルだな。MPの残量を見る限り自動発動で魔力も消費しないようだし、体質のようなものだろうか。あとクロト、リオンのお願いでも勝手に保管からそんな物を渡してはいけません。
「リオンにぴったりのスキルだ。でも無理はするんじゃないぞ」
「えへへー。分かってるよ、ケルにい!」
リオンの頭を撫でる手が止まらない。いくら褒めても褒めたりないのだ。
「それでケルヴィンの兄貴、兄貴が会得したスキルってのは何なんスか?」
「俺のか? 俺のはな―――」
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