第51話 抵抗
「魔力増幅アイテム『魔力宝石』に、変幻自在のA級武具『
プリスラが魔力を込める事で宙に浮かんだ複数の宝石、通称『魔力宝石』は魔法使いが扱う魔法補助アイテムだ。宝石の種類により、その効果とアイテムの等級が変化する。最上級がA級のダイヤモンド、B級のルビー、続いてサファイア、エメラルドとなる。例外もあるのだが、今回は置いておこう。プリスラが使った魔力宝石はダイヤモンド、最上級の魔力宝石である。そんなレアなアイテムを瞬く間に破壊されたプリスラの心境はお察しの通り。
「わ、私の宝石が!」
「戦闘中だ、プリスラ! 前を見ろ!」
「もう遅いわよ」
クリストフの警告も空しく、セラの手刀がプリスラの後ろ首に落とされる。トン…… と、その手刀を受けたプリスラは白目を剥き、意識を手放して倒れこんでしまった。
おお、漫画やアニメでしかできないとされる、首トンをリアルで目にすることができるとは。S級の格闘術ともなると何でもありだな。今度色々な技を教えてやろうか。
『ねえ、ケルヴィン。これで終わりだと締まらないでしょ? この子、適当に苛めていい?』
『殺さない程度にな。ついでに情報も搾っておけ』
『了解よ♪』
気絶したプリスラを脇に抱え、ルンルンとセラが退室していく。攻撃した時と同じ速度で出て行った為、クリストフ達は声を掛ける暇もなかった。
『エフィル、一応セラも見張っておいて』
『承知致しました』
室外の通路で見張りをするエフィルに指示する。
「これでまず一人…… ああ、命までは取らないから安心してくれ。お前達はきっちり生きたまま、出るところに出て貰う」
「……はっ、もう勝った気か! 冒険者なら、最後まで油断するんじゃねぇよ! アド!」
「射抜け。
「むっ!」
バラバラにしたはずのアドの
あのアドと言う男、高レベルの槍術の他にも水氷を操る青魔法を所有している。魔力的に槍に内在する多量の水を放出することができ、槍自体も水の特性を持つ
「狙いは良いが、如何せん速さが足りぬな」
次々と襲来する水槍を、ジェラールは正確に斬り落としていく。その剣筋には一片の迷いもない。
「おいおい、いいのか? そんなに魔力を飛ばしてしまって?」
「何を……!?
気付いたか。アドが慌しく液体から槍へと手元に戻していく。
「アド、何してやがる!? 攻撃の手を休ませるんじゃねぇ!」
「……これ以上、この魔法を続けても意味がない。完全に見切られている。魔力を無駄に消費するだけだ。それに…… これを見ろ」
「あん? ―――こいつはっ!?」
アドが手に持つのは、元の3分の2程度の長さになった槍だった。
「お前、その剣で
「うむ、良い眼をしておるのう」
そう、ジェラールの持つ魔剣ダーインスレイヴはその刀身から魔力を根こそぎ吸い上げる付随効果がある。掠りでもすればMPがごっそり持っていかれ、ダーインスレイヴの攻撃力に加算されるチート性能だ。鍛冶で鍛え上げる最中、俺もごっそり持っていかれたのだ、間違いない。吸収した魔力は再び放出することもできるので、普段魔力を使わないジェラールの戦略の幅も広がる寸法だ。クロトの吸収スキルと似たようなものだが、クロトの吸収は巨体を活かして広範囲を持続的に、ダーインスレイヴは単体に対して瞬間的に、といった住み分けがある感じだろうか。アドの
「それ程の腕を持ちながら、外道に落ちたのが残念でならん」
「くく、この身は戦いのみに捧げている。求めた結果、環境がこうなったに過ぎん。そのお蔭でお前達のような強者と出会えたのだ、やはりこの道は間違っていなかった」
「そうか…… ならば、多くは語るまい。これで仕舞いじゃ」
一閃。手加減なしの、本気のジェラールによる一撃。これまで僅かに反応できていたアドにも、この攻撃に対しては全くの無抵抗に失神してしまう。
「平打ちじゃ。魔力は空っぽじゃろうが、命があるだけ儲けたな」
A級に準ずるであろうアドの鎧は大きくひしゃげてしまっている。平打ちとは言え、肉体も無事ではないだろう。
「ば、馬鹿な…… アドはパーティー随一の戦闘力を持っていたんだぞ!? それを、こんなにも簡単に……!」
「だから言っただろ。これは戦いではなく、お仕置きなんだ。端からお前達に勝ち目はない」
クリストフの両足に
「ぎ、ぎゃああああ!?」
光の聖槍は狙い通り両足を貫き、地面に突き刺さることで固定される。
「き、貴様! トライセンの英雄である俺達に、こんなことをしてただで済むと思っていやがるのか!?」
「思ってないよ。トライセン公認の冒険者である君たちに、万が一こんなことをすれば国家間同士の外交問題に発展するだろうね。ハッキリとした証拠がなければ、冒険者も例外じゃない」
「そこまで理解して、なぜ……」
「なぜって、英雄だって悪事を働けば犯罪者だろ? 子供でも知ってることだ。まさか知らないのか?」
「違う! 俺が言いたいのは……」
「まあ、細かいことはいいじゃないか。時間は“まだ”ある。それまで、お仕置きは続くぞ?」
顔面蒼白のクリストフに、俺は3本目となる
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