第43話 捕虜

「フフン、何だか封印前よりも調子が良い気がするわ。これが召喚術の魔力供給による強化なのね」


 初めは気の乗らないセラであったが、思う存分暴れた為か今はご満悦のようだ。


『ほう、やりおるな。一度手合わせ願いたいものじゃ』


 ジェラールもこれには感心している。ここだけの話、これまで引き篭もりのお嬢様であったセラが戦闘をこなせるか俺も心配だったのだが、何の問題もないようだ。これも魔王による英才教育の成果だろうか? ジェラールとも良い勝負をするかもしれないな。


「おいおい、あまり無理はするなよ」

「別に無理はしてないわよ?」


 馬車から近づく俺に、セラが顔を傾げる。


「お前のことじゃないって。後ろにいた6人には気付いていただろ」


 馬車の後ろに親指を向けながら、溜息を漏らしながら俺は答える。


「別に大丈夫でしょ? ケルヴィンとエフィルなら、あの程度の相手の魔法や矢が飛んできても」


 御者のおっちゃんもいるんだぞ……


「た、たまげたな。黒風の一味を子供扱いするとは……!」

「あっ」


 そのおっちゃんがそろそろと馬車から降りてきた。その姿を見てセラがおっちゃんの存在にようやく気付く。


「ま、まあほら、エフィルが対処してくれたんだし、結果オーライじゃない」

「調子の良い奴だな」


 確かに後方の奴らはエフィルが弓で全て仕留めたが、それは言い訳にならないだろう…… まあいい、徐々に焦り出してきたセラは一先ず置いておき、縄で捕らえた盗賊の方を向く。


「それで、壊滅したはずの盗賊団『黒風』がなんで活動再開しているのかな?」

「「………」」


 だんまりか。生き残った女盗賊とその子分は黙秘を続けている。


「旦那、こいつらはトラージに引渡しましょう。こんな大胆に行動しているんだ。きっと新たに賞金首として手配書が出ているはずですぜ」

「それもいいのですが、もう少し情報を引き出したいですね」


 それを聞いた女盗賊が鼻で笑う。実力行使に入る前に話してほしいんだが。


「はんっ! 誰がお前らなんかに……」

「名前はカルナとユロ、レベルは31と26。盗賊にしてはレベルが高いな。素直に冒険者家業をしていれば、そこそこ儲かるだろうに」

「て、てめぇ…… 鑑定眼持ちか!」


 ご名答、俺の鑑定眼で彼女達のステータスを曝け出す。一応低級の隠蔽スキルを所持しているようだが、S級の前には意味をなさない。了解なくステータスを本人の前で暴露する行為は、この世界では侮辱に当たるのだ。


「なんならお前の歳から持ってるスキルまで言ってやろうか?」

「あ、姉御……」

「フ、フン! 好きにするがいいさ!」


 女盗賊が顔を背ける。なかなか強情な奴だな。


「ケルヴィン、面倒臭いから私の黒魔法使いましょうよ」

「ん? いい魔法があるのか?」


 セラが意外な提案をしてきた。尋問用の魔法か?


「これでも魔法はビクトールより得意だったのよ!」

「そ、そうか。なら任せる」


 ドヤ顔で自信満々なセラ。そこまで言うなら委ねようと思うが、ちょっと不安だ。


「黒魔法ってスピードのない魔法が多いんだけど、私職業が呪拳士でしょ。拳に魔法を乗せて相手にぶつけるの。そうすれば確実に魔法が当たるって訳。ま、縄で縛られている今の状況ならそうする必要もないけど」


 セラはニコニコしながら子分の頭に手を載せる。仲間が倒された記憶がフラッシュバックしたのか、子分はガクブル状態だ。ついさっきまで盗賊を粉砕しまくった拳で頭を掴まれているのだ、無理もない。


「それで何の魔法を使うんだよ?」

「そうねぇ、全身から血が出る魔法とか?」

「尋問する前に死ぬわ!」


 人選を間違えたかもしれん…… 子分が泣き出したぞ。


「冗談よ、冗談。出血ブリードの魔法じゃそんな一気に出てこないわ。それに結構口が堅そうだしね。儚い夢ヒュプノーシスを使いましょう」


 セラの拳から黒い魔力が漏れ出る。ビクトール戦で目にしたあの黒い魔力だ。ん? っていうことは……


「なあ、もしかしてビクトールも黒魔法を使っていたのか?」

「何言ってるの? ビクトールも私と同じ呪拳士よ。そりゃガンガン使うわよ。実際に戦ったケルヴィン達なら当然知っているでしょうけど、私と同じく拳に魔法を乗せる戦術を使うわ」


 うわー、あの黒い魔力で覆われた拳に触れていたらアウトだったっぽいな。奇跡的に誰も直接受けていなかったから、そんな魔法を使っていたとは気付かなかった。セラの所持する魔力察知のスキルを持っていたなら、或いは反応できたかもしれないが。


「それがどうしたの?」


 再びセラが顔を傾げる。


「いや、何でもない。それで儚い夢ヒュプノーシスってのは、どんな魔法なんだ?」

「意識を朦朧とさせる魔法よ。一種の催眠術に近いかしら? 戦闘時は精々相手の意識を一瞬刈り取る程度だけど、この状態で魔法を当て続ければ……」


 瞬間、子分の体からスッと力が抜ける。どうやら催眠状態に入ったようだ。


「こんな感じで尋問用魔法に早変わり。さ、何でも聞きなさい!」


 おお! はじめはどうなることかと思ったが、セラはやればできる子だったんだな。お兄さん少し疑ってしまったよ。


「な! ユロ、起きやがれ! お前それでも黒風の一員か!」


 女盗賊が子分を起こそうと騒ぎ出す。それでもセラの余裕は崩れない。


「口も縛りますか?」

「いいのよエフィル。そんな大声出してもこの状態になった私の儚い夢ヒュプノーシスは解けないわ」

「くっ……」


 歯を食いしばり、女盗賊は俺達を殺さんとばかりに睨み付けてくる。もっとも、それが今の彼女にできる最後の足掻きなのだが。


「それじゃあ、質問を再開しようか」

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