第33話 悪食

 ビクトールから殺気が放たれるのと共に、俺達は戦闘体勢に移行する。


「なぜ悪魔である私が、人間のあなたに貴重な情報を与えたかわかりますか?」

「さあ、なぜだろうな」


 悪魔は骨山から俺達を見下ろし、僅かに笑う。


「私の固有スキル『悪食』は少々使い勝手が悪くてですねぇ。食べた相手の特性を会得できるのですが、唯食べるだけでは効果が薄いのです。親しい相手、もしくは恩を売った相手であればあるほど、十全にその効果を発揮できるのですよ」


 つまり、俺達を食った時の効果を高める為に、有用な情報を俺達に渡すことで恩を売ったってことか?


「親しい者ほど、喰らった効果を高めるスキルか。なるほど、悪食だ」

「お褒めに預かり、光栄です」


 しかし、まずいな…… 俺はチラリと骨山を見る。奴が悪食のスキルを所持しているのであれば、今まで食べていたであろう、あのモンスターの量分の特性を得ていることになる。D級ダンジョンのモンスターであることが救いではあるが、どこまで能力を得ているのか侮れない。


「それで、俺達から得た人間の特性でこの鎖を破壊しようって魂胆か。彼女を魔王としてこの世界に再臨させる為に」


 少しでも間を長引かせる為に話を続ける。どうせ食われたら終わりなのだ。情報はドンドン出して貰おう。更に、この時間稼ぎを利用して鑑定眼でステータスを解析する。できればスキルの詳細まで覗いておきたい。


「クフフ、半分正解です。鎖を破壊しなければ、私は彼女に指一本触れられません」

「……お前、まさか」

「お気付きのようですね。そう、彼女を悪食で吸収することで、その力を我が物とするのです! 私は魔王グスタフの悪魔四天王の一人、悪食のビクトール。彼女、セラ様の世話役をしておりました。セラ様はある意味で本当の娘にも思える存在。その彼女を食せば、莫大な力が手に入るでしょう。それを実現させれば、貧弱な勇者しかいないこの世界は私の物――― 私が新たな魔王となるのです!」


 同族を救う為ならまだ理解はできたが、よりにもよって裏切りか。それと魔王グスタフ、悪魔四天王のネーミングセンスはどうかと思うぞ……


「さあ、お喋りはここまでにしておきましょうか。大人しく私に吸収されなさい!」


 ビクトールが両手に黒い魔力を纏い始める。さて、情報収集もここまでだ。鑑定眼で得た情報を配下ネットワークに流す。この情報は瞬時に行渡り、意思疎通にて俺の得た詳細を正確に理解させる。



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ビクトール 670歳 男 上級悪魔アークデーモン 呪拳士

レベル:86

称号 :奪う者

HP :1525/1525(+254)

MP :883/883

筋力 :540

耐久 :628(+10)

敏捷 :378(+10)

魔力 :396

幸運 :437

スキル:悪食(固有スキル)

    格闘術(S級)

    黒魔法(A級)

    危険察知(B級)

    装甲(A級)

    伸縮(B級)

    土潜(B級)

    闇属性半減

    斬撃半減

    補助効果:悪食/剣術(E級)

         悪食/槍術(E級)

         悪食/赤魔法(F級)

         悪食/白魔法(F級)

         悪食/貫通(F級)

         悪食/吸血(E級)

         悪食/隠密(F級)

         悪食/探知(E級)

         悪食/暗視(D級)

         悪食/剛健(F級)

         悪食/屈強(E級)

         悪食/鉄壁(F級)

         悪食/鋭敏(F級)―――

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『全く、どれだけのモンスターからスキルを得たんじゃ! 皆の者、相手は格上じゃが、前線はワシが護り通す! 支援は任せたぞ!』

『お任せください!』


 戦術面において、この配下ネットワークは驚異的な効果を発揮する。これ等ネットワークを介した会話も瞬時にすることが可能なのだ。


『会得したスキルは弱体化しているようですね』


 ああ、大方恩を売らずにそのまま殺して食べたんだろう。部屋の中央にはビクトールの目的である魔王グスタフの忘れ形見がいる。解き放たれれば、ビクトールは喰らいに向かう可能性がある。攻撃を当てないように注意しなければならないな。


「とりあえず、寝とけ」


 最早定番と化した重風圧エアプレッシャーを悪魔に放つ。B級モンスターを圧死させるほどの威力でだ。足場としていたモンスターの骨々が圧力に耐え切れずに粉々に砕ける中、ビクトールは悠々とこちらへ歩いてくる。手に留めた魔力も健在だ。


「益々素晴らしい。これほどの魔法を受けたのは久しぶりです」

「その割には、随分余裕そうじゃないか。軽くショックだぞ」


 これまで重風圧エアプレッシャーが通じなかったモンスターはいなかった。これがS級の次元なのか。


「……本当にショックなのですか? また顔が笑っていますよ?」


 ああ、また顔に出ていたか……


「済まないな。今までお前ほどの強者に会ったことがなかったものでね。どうも気持ちが昂る」

「……?」


『……悪い癖が出ちゃってますね』

『ああ、出とるのう』


 メルフィーナとジェラールが声を合わせる。


『あの、悪い癖って?』


 エフィルだけが状況が分からず、頭に大きな疑問符を出している状況だ。


『前回の邪賢老樹や、アーマータイガーの特別依頼の時は余裕があったからのう。王の食指が動かなかったんじゃろう。ワシと王が戦っていた時、王はどんな顔をしていたと思う?』

『どんな顔と言われましても……』


 ジェラールは笑い話を話すかのように、陽気に答えた。


『終始、笑っておったよ。どうも、絶対的な強者との戦いになると、自分を抑えられないようなのじゃ』


 ワシ、絶対的な強者! と言い張るのは、あくまでジェラールの主張である。


『それってつまり……』

『重度のバトルジャンキーってことです』

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