第31話 封印
小屋の中には簡易的なベッドと、中に何も入っていない棚がいくつか、後は机があるだけだった。元々は何か置いてあったのかもしれないが、ダンジョンの発見に伴い、小屋の物も回収されたのだろうか。人が住んでいた形跡もなく、使われなくなって何年も経っているようだ。あるのは地下へと続く、床の隠し扉だけだ。ジェラールが扉を開け、中を確認する。
「これが地下への入り口、か。暗くて何も見えんな……」
扉の向こうは光源が全くない暗闇だった。ここを進むには暗視のスキルか、松明の準備、もしくは魔法による視界の確保が必須となる。
「エフィル、灯りを頼む」
「承知致しました。
エフィルはE級赤魔法【
「よし、これで視界は確保できた。先頭はジェラール、その後に俺とエフィルが続く。クロトは殿を頼む」
エフィルの肩で極小サイズになっていたクロトから、元の大きさ程の分身体が生み出される。力の殆どは分身体に割り振っている。
「さて、降りるとするかの」
「気配察知には今のところ何も引っ掛かっていないが、警戒は怠るなよ」
「ジェラールさん、気をつけて」
照らされた地下には坑道のような道が続いていた。ジェラールの後ろを歩きながら、逐一気配察知で周囲の確認を行う。暗闇でなければエフィルの千里眼で先を見通せるのだが、今回は場所が悪い。リオから悪魔が封印されている隠し部屋の場所を事前に教えてもらっているから、道に迷うことはないのが救いか。
「……モンスター、出ませんね」
エフィルの言う通り、かなりの距離を歩いたにも関わらず、モンスターが一匹も現れない。普通のダンジョンであれば、何度かエンカウントしている頃合いだ。
「これは何か異変が起きているのかもしれないな」
ダンジョンに入った時点で少し違和感を感じていた。あまりに生物の気配がしないのだ。D級ダンジョンのモンスターが出たところで、どうということはないのだが、ここまで出現しないと不気味に思える。
「どうする? 引き返すか?」
「……いや、隠し部屋の様子だけでも見ておこう」
俺達はそのまま地下道を進み、目的の部屋を目指した。
――そして、遂に一度も戦闘を行わずに、悪魔が封印されているとされる部屋の前に着いてしまった。
『あなた様』
「ああ、部屋の中に気配を感じる。何かいるな」
「……? 悪魔がいるんですよね?」
いるにはいる。のだが、気配が2つあるのだ。1つは封印された悪魔だろう。先程から全く動いている気配がない。もう一方の気配は、悪魔とは違う別の何か。これは…… 人間? いや、しかし……
「……悪魔と、それとは別の何かがいるようだ。むしろ、こっちを気にした方が良いかもしれない」
「悪魔ではなくか?」
「ああ、逆に悪魔は衰弱している。どうやら、本当に危険なのは別の奴だったらしい」
「それでは、討伐目標はどうします?」
うーん、討伐対象は悪魔だったからな。こいつを倒さないと報奨金は貰えないのだが……
「まずは脅威の無力化が先だ。悪魔についてはそれから考えるとしよう」
場合によっては配下にできるかもしれないしな。
「うむ。了解した」
「頑張りましょう」
補助魔法をかけ直し、回復薬を使って戦闘の準備を終える。
「封印された悪魔は部屋の中央に、その後方に何かがいる。皆、気を抜くなよ!」
俺の号令と共にジェラールが室内に突入する。
それに続いた俺の目に入ったのは、部屋の中央で眠るように鎮座した、絶世の美女であった。なめらかな髪は炎のように真赤であり、長い髪を側頭部でサイドポニーにして結んでいる。特徴的なのは、黒き翼と悪魔の尻尾、そして羊のような巻き角であろう。それ以外は完全に人間に見えるが故に、その特徴が彼女は人間ではないことを告げている。おそらく、この女が悪魔なのだ。着ているものは粗末であったが、服越しでもそのプロポーションが見事だとわかる。わかってしまう程、凄まじいものだった。そんな妖艶な体が鎖でくい込む様に束縛されているのである。健全な男子であれば反応してしまうこと請け合いであろう。
エフィルのに見慣れていなければ、俺も危なかったな。
『あなた様、真面目に集中してください』
ああ、わかってるよ。冗談を言いたくなる様な光景が、目の前に広がっているんだ。このくらい許してくれ。
「なんとも面妖な……」
ジェラールが小さく呟く。美女の背後にあるのはモンスターらしき者の骨、骨、骨…… 部屋の3分の1は埋まるかと思われるほどの骨の山があったのだ。このダンジョンのモンスターの成れの果てであろうか? 束縛された美女と骨の山、何とも現実離れした場面に出くわしてしまったものだ。
―――バリッ! ボリッ!
部屋にこだまする、何かをかじる音。骨山の奥からこの音を鳴らす奴こそ、この惨事の元凶。そう考えさせる、どす黒いオーラを感じるのだ。
チッ、骨が邪魔で鑑定眼が届かないな。先に悪魔の女から調べるか。
鑑定眼を発動させようとしたその時、先程から鳴っていた音が止む。
「……次の獲物が入ってきたようですねぇ」
酷く機械的な声と共に、骨山の頂上にそいつは姿を現した。
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