第30話 隠者の潜窟
入念に準備を整えた俺達は隠者の潜窟へやってきた。一見、森の中に小さな小屋があるだけに見えるが、その小屋には地下への入り口が隠されているのだ。小屋の周囲には冒険者のパーティが4組控え、陣を張りつつ見張りをしている。皆見知った顔だ。全員がC級冒険者、恐らくパーズの最高戦力を集めたのだろう。封印系や防御系の魔法をパーティ内の魔法使いが施しているようだが、果たして悪魔に通用するのかは分からない。その為か、小屋の周辺は静かな緊張に包まれている。
「厳重な警戒態勢が敷かれているようじゃな」
「隠者の潜窟はパーズとそう遠くない場所にあるんだ。当然の処置だと思うぞ」
今回、ジェラールは予め召喚している。相手はS級レベルの危険性を孕む悪魔、不測の事態に備え、我がパーティ最高の防御力を誇るジェラールは出しておきたい。見た目は大型のフルプレートアーマーだ。ステータスの隠蔽もかけたこの状態ならば、下手なことしない限りモンスターだとは思われないだろう。最悪ばれたとしても、調教スキルを持っていたことにすればいい。
「冒険者の方がこちらに来ますね」
エフィルの声でそちらを向くと、確かに冒険者のパーティが駆け寄って来るのが見えた。遠目で俺にはよく見えないが、気配察知のレーダーマップにはウルドと表示されている。確か、エフィルが受けたC級昇格試験の試験官を務めた冒険者だ。彼自身もC級冒険者であり、アンジェ曰く、この道熟練のプロらしい。模擬試合の結果は彼の名誉の為に黙っておこう……
「おーい、ケルヴィン! お前も来てくれたのか!」
「ウルドさん、お久しぶりですね」
「ご無沙汰しております」
「おお、エフィルも元気だったか? 昇格試験以来だな。お前らはパーズ始まって以来の新鋭冒険者だ。今回の討伐に参加してくれるなら、これ以上の援軍はないぜ!」
俺に続いてエフィルも挨拶を交わす。どうやら、ウルドさんはエフィルに瞬殺されたことに引け目は感じていないようだ。逆にかなり期待されている。外見は髭面、斧が武器のマッチョマンなのだが、なかなか爽やかな人だ。試験の時は模擬戦前に説明をされただけで、人柄までは分からなかったからな。
「ん? そっちの騎士様は誰だい?」
後ろに控えていたジェラールに気づいたようだ。
「ワシはケルヴィンの友人でジェラールと申す。この度の討伐は悪魔が出たと聞いたのでな。微力ながら助太刀に参った次第」
おお、珍しく決まったな、ジェラール。普段のお前からは想像がつかない姿だぞ。
『これでも元騎士長なんじゃぞ? これくらいの礼儀は弁えておる!』
ツッコミを入れる余裕もあるようだな。よしよし。
「ジェラールの腕は私が保証しますよ。それにこの鎧、以前討伐した黒霊騎士の素材で作った装備なんです。かなり頼りになると思いますよ」
そして、先に穴を塞いでおく。パーズには黒霊騎士騒動の記憶がまだ残っている者もいるのだ。鎧に黒霊騎士の素材が使われていると先に言ってしまえば、ジェラール自身が黒霊騎士だとは誰も思わないだろう。
「そうなのか! ケルヴィンのお墨付きなら安心だぜ」
「それで、状況はどうです?」
「見ての通り、小屋に結界を施して封印を施して警戒中さ。悪魔に
『B級悪魔でない限り、気休め程度の効果でしょうね。中には白魔法を使う悪魔もいますし』
ああ、やっぱり?
「ウルドさん達は隠者の潜窟で悪魔を見ましたか?」
「いんや、俺が駆けつけた時には既に入り口が封印されていた。ギルドの指示でB級以上の冒険者でない限り、立ち入りの許可も下りん。C級の俺達は周りで監視するしかないって訳だ」
ウルドさんのパーティのレベルは皆30前後。C級の中でもトップクラスの強さと言える。そんな彼らにもギルドは立ち入りを許さないらしい。この慎重さはリオの判断だろうな。でなければ俺に依頼を出す筈もないし。
「ふむ、それではワシとエフィルも入ることはできないのか?」
「いや、ケルヴィンはリオギルド長からの特別依頼で来てるんだろ? それなら特例でパーティを組む仲間は入れるぜ」
「それなら私達もご一緒できますね」
事前準備も完璧か。リオめ、やはり最初から俺に当たらせる気だったな……
「それでは、ウルドさん達はこのまま警戒を続けてください。悪魔の様子を見てきます」
「相手は全く未知のモンスターだ。絶対に油断するんじゃねーぞ」
ウルドさんからの助言を受け、俺達は隠者の潜窟の入り口である小屋に向かう。小屋の前には魔法使いらしき女性がいる。どうやら俺達を待っていたようだ。
「ケルヴィン様ですね? ギルド長のリオから話は伺っています。部分的に
「了解です」
開けられた結界の穴に、ジェラール、俺、エフィルの順に入る。エフィルが入り終えると、直ぐに穴は塞がれてしまった。
「隠者の潜窟から出られる時は、私にまたお申し付けください」
そう言うと、女性は封印からやや離れ、瞑想するように座り込んだ。
「それでは王よ、行くとするかの」
「ああ。二人とも、気を引き締めろよ」
「はい!」
ジェラールが小屋の扉に手をかけ、慎重に開ける。隠者の潜窟の探索が始まった。
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