第25話 圧倒
今日は良い天気だ。デートするには持って来いの最高のロケーションだ。今回誘ったのはエフィルからだったが、俺だって健全な男だ。実の所、結構楽しみにしていた。そんな所を邪魔されれば誰でも嫌だろう。ましてやエフィル達に手を出そうとしたのだ。俺が打ち負かさないと気が済まない。
「き、貴様! 私がトライセン第三王子と知っての狼藉か!?」
「ああ、知ってるよ。それに先に狼藉を働いたのはお前等の方だろうが」
「こ、この野郎、覚悟は出来ているんだろうな!?」
「ハァ、そんな三流セリフ吐く暇あるなら早く構えろよ」
タブラとその護衛はようやく腰の剣を構え、臨戦態勢となる。弛んでるなぁ……
「あの世で後悔するんだな!」
護衛Aと護衛Bが剣を振り上げ、ケルヴィンに襲い掛かる。が、護衛の攻撃はケルヴィンを通り抜け、剣は空を切ってしまう。護衛達には何が起こったか理解できなかったであろう。
一国の王子の護衛がこのレベルか、とケルヴィンは腹の中で溜息をつく。今のは振り下ろされた剣を純粋なステータスによる俊敏さで避けただけだ。魔法も何も使っていない。単純に目で追えていないのだ。
「なっ、消えただと!?」
ってか正直こいつら遅過ぎるんだよな……
「おい、王子様を護衛しなくてもいいのか?」
護衛が振り向くと、ケルヴィンはタブラの後ろに立っていた。タブラは動けない。ケルヴィンはその首に短刀を押し付けていた。
「お、お前達、下手に動くでないぞ!」
「王子様のおっしゃる通り、動かない方がいいぞー」
生まれて初めて死を間近に感じたタブラは、酷く混乱しているようだ。潰す前にちょっと探りを入れてみるか。
「それで王子様、パーズにどんな御用でいらしたんで?」
ケルヴィンは短刀を首にヒタヒタと当てながら、黒い笑顔で問い掛ける。護衛達はこの状況に手が打てず、場を見守ることしかできない。
「そのようなこと、貴様に関係ないであろう。早くそれを引くのだ。今ならば不問にしてやるぞ?」
「おいおい、質問しているのはこっちだぞ」
護衛の二人に、地に伏す程度の威力にした
「な、何だ、これは……」
「立て、ない……」
「ジャン、アルバ、どうした!?」
困惑しているところを見ると、
「次は王子様にこれを使いますので、素直に答えてくださいね」
「き、貴様……!」
「ちなみに嘘をついたかどうかは、俺のスキルで看破できる。もちろん、その場合もアレを使うから覚悟して答えろ」
「ぐ…… くそっ!」
嘘を看破するスキルはブラフだ。そんなスキル俺は持っていない。だが、タブラはまんまと引っ掛かってくれたようだ。
「……冒険者ギルドのリオに会いにきたのだ」
ボソリと呟くようにタブラは答える。
「何だと?」
「パーズを拠点とした腕利きの冒険者が最近現れたと聞く。その真偽を確かめる為に、王子である私自らここまで赴いたのだ」
「王子様が旅をするにしては、随分と護衛の質が悪いな。トライセンは軍事国家なんだろう?」
「ふん! トライセンは実力主義なのだ。能ある者がトップに並ぶ。トライセンでの私の立場などないに等しい」
「それで実力のある冒険者を下につけて、功を立てようとしたのか?」
「ああ、そうだ!」
何と言うか、考えが単純過ぎるな…… そんなことだから本国でも相手にされないんじゃないか?
「ハァ、ちなみにその冒険者は俺のことだぞ」
配下を集めるにしても、タブラの振る舞いがアレなのだ。集まるものも集まらないだろう。例え、王子の血筋というブランドで人材を確保できたとしても、そんな奴らはたかが知れている。
「な、何だと!? 是非私の配下にっ!」
「なる訳ないだろっ!」
ツッコミと同時に護衛共々、魔力を増した
「次に俺達にちょっかいを出して見ろ。その頭、本当に潰すからな」
意識があるかどうかは知らんが、一応釘を刺しておく。さて、ゴミ掃除も終わりだな。
タブラが潰され、戦いとも言えない戦闘が終わったその瞬間、ギャラリーから歓声が沸き上がった。
「お疲れ様です、ご主人様」
「か、格好良かったよー!」
エフィルとアンジェが駆け足でやってくる。
「とんだ邪魔が入ってしまったな。菓子、買い直すか?」
二人は嬉しそうに頷く。周りの人々から茶化されながらも、俺達はデートを再開した。
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―――デートを終え、宿の自室に帰ってきたその夜。
俺とエフィルはベットの中で寝そべっていた。未だに部屋のベットは1つしかない。クレアさんに何度も申請したのだが、事あるごとに理由を付けて断られてしまうのだ。俺はもう諦めた。
エフィルを奴隷商から買い取った日、俺達は結局一緒に寝ることにした。一人部屋のものと言えど、それなりに広いベットだ。詰めれば余裕で入る。始めの頃はお互いにかなり緊張したものだが、人間慣れるものだな、今では自然に寄り添って寝るようになった。
「今日はありがとうございました」
床に就いてぼんやりしていると、添い寝していたエフィルが話し掛けてきた。
「急にどうした?」
「私の我侭でお店までお付き合いして頂いたことと、助けてくださったことです」
ああ、そんなことか。
「俺は普段からエフィルに助けられているんだ。俺にできることなら何でもするさ」
この1ヶ月でエフィルは冒険者として、メイドとして立派に成長した。しかし、外では隠しているが、年相応の幼い面もあるのだ。二人っきりになると甘えてくることも多い。
「あの王子に見られたとき、一瞬動くことができませんでした。私にはまだまだ力が足りないです……」
エフィルの手を握りながら、もう片方の手で頭を撫でる。エフィルは撫でられるのも好きだが、手を握ってやると、ふにゃっとした顔になる。
「気にするな、と言ってもお前は気にするからな。それなら、一緒にもっと力を付けていこう。俺にはエフィルが必要なんだ」
「グスッ…… はい、一生お供致します……!」
ああ、またエフィルを泣かせてしまった。呪いを解いた日を思い出すな。取り敢えずは、泣き止むまで胸を貸すとしよう。
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