第26話 勇者

 神皇国デラミス。転生神メルフィーナを崇拝するリンネ教団の聖地。世界最大の宗教組織であり、3万人もの信者である国民を有する宗教国家である。約一年前、デラミスの巫女により、この地に4人の勇者が異世界から召喚された。その勇者のリーダー格である神埼刀哉かんざきとうやは、デラミス宮殿のバルコニーで一人思い耽る。


「刀哉、こんなところで何してるの?」

「ん? ああ、刹那か」


 刀哉が振り向くと、そこには幼少からの幼馴染である志賀刹那しがせつなが居た。長い黒髪をポニーテールにし、僅かに汗をかいている。訓練場で日課のトレーニングをしてきた帰りなのだろう。召喚前、彼女は刀哉の通う高校で生徒会長を務めていた。学校で1、2を争う容姿、成績は常に学年トップ、更には剣道全国クラスと文武両道を行く刹那は、男子生徒・女子生徒を問わず絶大な人気を誇る。


「コレットが女神様に祈りを捧げている最中なんだ。邪魔者が入らないように警備中だよ」


 清廉を体現した刹那に対し、刀哉は良い意味でも悪い意味でも、純真という言葉が当てはまる。刹那までとはいかないが、彼も学業は優秀、スポーツもできる秀才系。また、正義感が強く、誰にでも等しく優しく接することから、どこに行っても人気者だ。おまけに容姿はアイドル並みというイケメンなのだ。彼は生まれてこの方挫折したことがなく、周囲の者は常に刀哉を中心にしていた。そういった環境から、刀哉は人を疑うことを知らず、人は皆善人だと素で思っている。それが彼の良いところと言えばそれまでだが、危うい一面も併せ持っているのである。


「今日も祈っているのね、コレット…… そろそろ私達がこの世界に召喚されて1年、結局あの女神様に会えたのは召喚された時だけだったわね」

「あの時は驚いたな。放課後のクラスに残ってた俺達4人が行き成り別世界に飛ばされたんだ。しかも目の前には女神様さ」

「その割には刀哉、目を輝かせて嬉しそうだったじゃない?」

「当たり前さ! 女神様が魔王を倒す為に俺達を必要としているんだ、これほど光栄なことはないじゃないか!」

「そう、ね……」


 当然のことのように刀哉は答える。その目に迷いはない。だからこそ刹那は危惧する。


(確かに、人の為になる尊い行い。今はまだ上手くいっているからいい。でも、これには私達の命も懸っているのよ? 本当に危なくなった時、刀哉、貴方は冷静に立ち回れるの?)


 挫折を知らない刀哉が壁に行き当たった時、果たして自分達は生き残ることができるのか。刹那は世界と自分達の命を天秤にかける。せめて、この幼馴染と親友達の為に、自分だけでも最善の手を打てるように……


 ―――ピカッ!


 瞬間、コレットが祈りを捧げる大聖堂から強烈な光が放たれる。


「な、何!?」

「あそこは…… 大聖堂! コレットが何かしたのか!?」

「刀哉、急いで行くわよ」

「ああ!」


 異世界の勇者二人は大聖堂へ急行する。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――デラミス大聖堂。


 教皇が住まう宮殿の中央に建造された、世界最大の聖堂である。普段は聖地巡礼に訪れた信者で溢れるのだが、夕刻からは立ち入りが禁止される。時刻は深夜、誰もいない筈である大聖堂に唯一人、銀髪の少女が祈りを捧げている。


「メルフィーナ様、どうか、もう一度お姿を……」


 彼女こそ、デラミスの巫女、コレットであった。彼女が巫女を継いだのは10歳のとき。それからというもの、彼女は一日も欠かさずに祈りを捧げてる。大聖堂への立ち入り禁止は、彼女の祈りを邪魔させない為のものだ。それ程までに、デラミスにとってメルフィーナの神託は重要なものなのだ。


「神託を……」


 時刻が12を指そうとした時、祭壇の大女神像が徐々に輝き出す。その光はやがて女神像全体を覆い、荘厳としていた翼は光を放ちながら羽ばたき、神々しい天使の姿を形作っていく。


「メ、メルフィーナ様!」


 あまりの嬉しさに平静を失うコレット。そんな彼女に天使は優しく微笑む。


「お久しぶりですね、コレット。勇者を召喚して以来ですから、一年振りでしょうか?」

「は、はい」


 コレットは緊張する。この国において、デラミスの巫女である彼女は特別階級であり、教皇に次ぐ権力者である。大人数の信者の前に立つことも少なくない。普段は冷静な彼女にとって珍しい姿だ。


「お元気そうで何よりです。さて、本日は勇者達の状況を確認しに参りました。魔王復活の日は近いのです。順調に成長していますか?」

「そ、それでしたら、こちらを御覧ください」


 コレットは懐から青く小さなオーブを取り出す。


 記録の宝珠。周囲の音声、映像、はたまたウィンドウに表示されるステータスまで保存するA級アイテム。神託を保管する為にコレットが所有する、途轍もなく貴重な代物だ。


「どれ、失礼しますね」


 天使はオーブに手をかざす。


=====================================

神埼刀哉 18歳 男 人間 剣聖

レベル:53

称号 :異世界の勇者

HP :753/753

MP :431/431

筋力 :265

耐久 :258

敏捷 :269

魔力 :264

幸運 :530(+160)

スキル:絶対福音(固有スキル)

    剣術(S級)

    二刀流(C級)

    白魔法(C級)

    軍団指揮(B級)

    豪運(B級)

補助効果:光妖精の加護

     隠蔽(B級)

=====================================

志賀刹那 18歳 女 人間 侍

レベル:52

称号 :異世界の勇者

HP :477/477

MP :318/318

筋力 :361

耐久 :219

敏捷 :573(+160)

魔力 :155

幸運 :214

スキル:斬鉄権(固有スキル)

    剣術(A級)

    心眼(B級)

    天歩(B級)

    危険察知(B級)

    鋭敏(B級)

補助効果:風妖精の加護

     隠蔽(B級)

=====================================

水丘奈々 18歳 女 人間 調教師

レベル:48

称号 :異世界の勇者

HP :294/294

MP :589/589

筋力 :143

耐久 :493(+160)

敏捷 :95

魔力 :347

幸運 :191

スキル:動物会話(固有スキル)

    青魔法(B級)

    白魔法(B級)

    調教(A級)

    交友(C級)

    鉄壁(B級)

補助効果:水妖精の加護

     隠蔽(B級)

=====================================

黒宮雅 18歳 女 人間 黒魔導士

レベル:53

称号 :異世界の勇者

HP :270/270

MP :810/810

筋力 :105

耐久 :211

敏捷 :204

魔力 :794(+320)

幸運 :156

スキル:並列思考(固有スキル)

    黒魔法(A級)

    魔力温存(B級)

    魔力察知(C級)

    隠蔽(B級)

    強魔(A級)

補助効果:闇妖精の加護

     隠蔽(B級)

=====================================


「……順調に進んでいるようですね」

「ありがとうございます!」


 コレットは感激し、気持ちを昂らせながら答える。


「メルフィーナ様、どうか、神託をお授けください」

「……西大陸の帝国より、邪悪な気配を感じます。勇者はそちらに向かわせなさい。決して、パーズには向かわせないように」

「承知致しました!」


 天使を模った光は満足げに頷き、ゆっくりと姿を消していく。


「くれぐれもよろしく頼みましたよ、巫女よ……」


 コレットが光が完全に消え去ったとの確認したのと同時に、大聖堂の扉が勢い良く開けられる。


「コレット、大丈夫か!?」


 神埼刀哉を先頭に、刹那、奈々、雅と勇者全員が集結していた。コレットは振り返り、高らかに宣言する。


「神託が下りました!」

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