第23話 デート
エフィルとアンジェさんとの約束の日。俺たちはパーズの中央噴水前で待ち合わせをすることにしている。まるでデートのようだな。と言うかデートだよな。
「しかし、なぜ同じ宿に住んでいるエフィルまで、わざわざ別々に出発する必要があるんだ……」
俺はエフィルと一緒に出掛けようと考えていたのだが、「準備がありますので、お先に行っていただけますか?」とそれとなく勧めてきた。有無を言わさない笑顔だったので、俺は先に待ち合わせ場所に来ている訳だ。
「おーい、ケルヴィンさーん!」
呼び声に振り向くと、アンジェさんが走ってこちらに来るのが見える。今日は仕事着のギルド制服ではなく、活発な彼女に良く似合うボーイッシュなパンツルックだ。スリムな彼女に良く似合うな。
「こんにちは、アンジェさん。その服、よく似合っていますよ」
「えへへ、ありがとうございます。あれ、エフィルちゃんは?」
「準備があるそうですよ。何の準備かは分かりませんが」
「むむ、エフィルちゃん気合入れてるなー」
アンジェさんと談笑しながらエフィルを待つこと数分。向こうからエフィルがやって来たようだ。
「すみません、お待たせしました」
そこにはつばの広い麦わら帽子を被り、彼女の肌のように白い、純白のワンピースを着るエフィルがいた。風が吹けば帽子を押さえ、束ねた彼女のブロンドの髪がなびく。何だ、この胸の高鳴り。漫画や小説でよく見る組み合わせなのだが、実際に美少女が着ているのを目の前にすると妙にドキドキしてしまう。普段は黒地にエプロンのメイド服しか目にしないからな。そのギャップもあってか彼女が輝いて見える。
「そ、その、どうでしょうか?」
「あ、ああ。似合ってる」
赤面して俯くエフィル。天使や、俺の仲間にはもう一人天使がいたんや!
「むー、これは負けたかなー。エフィルちゃん可愛過ぎるよー」
「ええ!? そんなこと絶対にないですよ!」
ひと月前、エフィルは満足に食事ができていなかった為か、ひどく痩せ細っていた。未だ万全とは言えないが、クレアさん印の栄養満点な食事、レベルアップによるステータスアップの成果もあり、程好く肉付きが良くなってきている。
「それでは、噂の菓子屋に行きましょうか」
「そうですね…… ケルヴィンさん、前から思っていたんですが、そろそろ敬語使うの止めませんか?」
「突然どうしたんです?」
「せっかく一緒に遊ぶ仲になったんです。いつまでも他人行儀はどうかなーって。これからはアンジェでいいですから!」
「了解、これでいいかな、アンジェ?」
「オッケーだよ、ケルヴィン!」
まあ、仲が良くなることはいいことだよな、うん。兎も角、目的の菓子屋に行くとしよう。
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「へー、思ったよりも色々あるんだな」
「味もそうですが、種類の多さも売りにしているようですよ」
俺とアンジェはエフィルに連れられ、甘味処へとやってきた。菓子を売る他にデザートバイキングもやっている本格派だ。店前に設けられた客席に座り、各々で選んだ菓子について感想を口にしているところだ。
「はい、ご主人様、あーん」
エフィルがパウンドケーキをフォークに刺し、俺に向ける。待てエフィル、お前何をやっているんだ。
「……? いつも宿ではこうしてるじゃないですか?」
「ええ!? ケルヴィン、いつもエフィルちゃんに食べさせてもらっているの!?」
アンジェ、大声でとんでもない事を叫ぶんじゃない! 周りがざわめき出してる!
「ち、違うんだ。エフィルの料理の味見をする時だけだ」
「はい、食べさせ合いっこします」
それは宿の自室だけの話だろ! いつの間にか周囲の注目の的になってるぞ!
「た、食べさせあいっこ、ですって……!」
アンジェがわなわなと肩を震わせる。
「私も負けていられない! ケルヴィン、ほら、あーん」
クッキーを掴み、俺の口に向ける。
「て、手で直にだと!?」
「やん、これって修羅場じゃない?」
「あれってギルドのアンジェさんと、メイドのエフィルちゃんじゃないか?」
やばい、ギャラリーが集まり出した。顔見知りの冒険者も数人いる。
「二人とも、菓子は帰ってから食べようか!」
耐え切れず、ガタッと音を立てて椅子を立ち、俺は提案する。頼む、二人とも周りの状況を理解して!
「お持ち帰りだとー!?」
「キャー、アンジェに春が来たわ!」
更にヒートアップするギャラリー。アンジェの知り合いもいるなこれ。駄目だ、手遅れだ……
「さ、ご主人様」
「はい、ケルヴィン」
「あ、はい。食べさせて頂きます……」
全てを諦め、二人の菓子を口にしようとしたその時。
「何の人だかりかと思えば、下らんな」
テーブルを置かれていた菓子もろとも蹴り飛ばされ、ガシャンと大きな音が辺りに鳴り響く。咄嗟に俺はエフィルとアンジェを左右で抱え、退避する。人だかりができていたせいで、気配察知の反応が直前まで遅れてしまった。
「ええと、急になんですかね?」
言葉は丁寧だが、少し威圧しながら話す。主犯格らしき豪華な身なりの小太りの男と、取り巻きが3人。蹴り倒したのは取り巻きの1人だな。
「控えろ下郎。この方こそ東の大国、トライセンの王子であるタブラ様であるぞ!」
取り巻きBが叫ぶ。あからさまに周囲が嫌な顔をしているので、ああ、また厄介事か…… とケルヴィンは嫌気が差していた。
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