第18話 奴隷
リオとの交渉を終え、精霊歌亭に戻ってきた。結果から言うと、俺の冒険者ランクはB級に昇格した。本来であればC級から昇格試験があるそうなのだが、カシェルに勝利した功績とギルド長の推薦で押し通したらしい。見掛けによらずアクティブな人だ。討伐報酬もとんでもない額を貰ってしまった。ジェラール、どんだけ返り討ちにしたんだよ。
「聞いたよケルちゃん。B級冒険者になったんだって?」
クレアさんはもう聞きつけたようだ。奥様の情報網ぱないっすね。
冒険者を始めて1週間、この精霊歌亭にずっとお世話になっている。アンジェさんの見立ては確かで、良い宿屋なのだ。何より料理が美味い。
「情報が早いですね。誰に聞いたんです?」
「冒険者の間で噂になってるよ。うちの客層は若いそいつら中心さね。嫌でも耳に入ってくるってもんさ」
「個人的には目立ちたくないんですけどねー」
「何言ってるんだい。1週間でB級まで昇格する奴なんてあたしゃ聞いたことないよ。そりゃ目立たない方が可笑しいさ」
ですよねー。
「そうだ、クレアさん。今日の夕飯、帰ってきてから一人分追加しても大丈夫ですか?」
「構わないけど、お友達でも連れてくるのかい?」
「そんな感じです」
「了解したよ、お祝いに今日は一品増やそうかね。これからも頑張んな!」
「その言葉を待っていました!」
豪勢な夕食を確保し、俺は部屋に向かう。
『出掛けるのか?』
マジックローブから私服に着替え、クロトバンクから金銭をおろしていると、ジェラールが聞いてきた。
「ああ、ちょっと奴隷を買いにな」
『……王も盛んな歳じゃからな、いや男なら普通のことじゃよ』
「何か勘違いしていないか?」
この世界には奴隷が存在する。借金の形にされる、親に売られる、誘拐されるなど、奴隷の身分に落ちる理由は様々だ。奴隷には従属の首輪というマジックアイテムがはめられ、一種の呪い状態に陥る。奴隷が売却された時に主人の血を首輪に触れさせ、専用の呪文を使うことで初めて契約は成立する。この契約で奴隷は主人を害することが呪いによってできなくなる仕組みだ。奴隷は主人の所有物となり、何らかの正当性がない限りは他者が奴隷を殺すことは法で禁じられている。これに関してはどの国も共通のようで、貴族であろうと重罰に処されることとなる。しかし、主人は奴隷の所有者であるので、どう扱おうが認められているのだ。それらの経緯もあり、奴隷の扱いは決して良いものとは言えない。
『奴隷を訓練し、パーティに入れるのですね?』
「ああ、前にメルフィーナと相談していたんだ」
生まれながらの奴隷は才能値ポイントを全く使っていない。従属の呪いにより、奴隷は主人の許可が出ない限り、スキルを取得することができない為だ。これにより主人好みのポイント配分ができる。
「ジェラールとの戦いはかなりギリギリだった。これからはそんなグレードのモンスターを相手するんだ。少しでも戦力を増やしておいた方がいいだろ?」
『道理じゃな。それで、女の奴隷にするのか?』
「当然だろ」
男の奴隷を買って何が嬉しいのか。
『………』
メルフィーナさんの沈黙が痛いがこればかりは譲れない。なんたって男のロマンだもの!
『わかる、わかるぞ王よ!』
ジェラールは心の中で(やっぱりそっち目的も含まれてるんだな)と思いつつも賛成する。
我が騎士の賛同も得たことだし、これで3:1で多数を決した。クロトは元から俺に反対しないしな。それでは行くとするか。
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奴隷商にて、奴隷商人と共に商品を見て回る。当然商品とは奴隷のことだ。
「この獣人の娘などはどうでしょうか? 奴隷になったばかりの為、スキルポイントは使われておりますが、どれも戦闘系のスキルです」
それなりに容姿の整った獣人を紹介され、俺は鑑定眼を発動させる。確かにスキルは格闘術や剛力を取得しているが……
「悪くはないが、ポイントを使っていない奴隷をお願いしたい」
「そうなりますと、そうですな……」
奴隷商人が思案している中、ふと部屋の隅に目をやると、檻に入れられたエルフがいた。地毛は金髪なのだろうが、汚れて髪がくすんでしまっている。着ている服も他と比べて粗末なものだ。耳がやや短いからハーフエルフか。なぜか手錠をされている。
あのハーフエルフはまだ紹介されていなかったな。
鑑定眼でステータスを見る。
「………!? 店主、あのハーフエルフは?」
「はい? ああ、アレですか。つい先日流れてきたのですが、呪い持ちでしてね。手で触れた物を燃やしてしまうんです。弓も持てなきゃ玩具としても使えない。高名な僧侶様に解呪して貰っても、呪いは消えませんでした。正直、買い手がなくて困ってるんですよ」
メルフィーナ、呪いの解除はどの程度で可能だ?
『火竜王の呪いですね。A級白魔法【
スキルポイントは…… 大丈夫だ、足りる。
「この娘、売ってもらえるか?」
「ええ、私としては構いませんが…… よろしいのですか?」
「ああ、よろしく頼む」
奴隷商人は手錠を外し、ハーフエルフを檻から出るように促す。
「出るんだ。お前の買い手が決まった」
「……え?」
ハーフエルフは自分を買う者がいるとは思わなかったようだ。檻から出たハーフエルフの体は痩せ細っており、髪もぼさついてしまっている。胸は…… 結構あった。顔は前髪で隠れてしまってよく見えないが、美しい造形をしているのは良くわかる。エルフはこの世界でも美男美女で知られているのだ。ハーフエルフもまた然り、だ。
「これより、契約の儀を行います」
奴隷商人が俺の血を吸わせたハンカチをエルフの首輪に触れさせ、呪文を唱える。
「これで完了ですな。呪いでどうなっても、私共は責任は持てませんぞ?」
「構わんよ」
ハーフエルフに向き直る。
「え、ええと…… 私を買って下さり、ありがとうございます。エフィルと言います」
「俺はケルヴィンと言う。これからよろしく頼む」
「よろしく、お願いします……」
エフィルはまだ緊張しているようだ。
「あの、私、呪いが……」
「とりあえず、ここを出るとしよう」
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人気のない路地裏まで歩いてきた。エフィルがどんどん暗い顔になっていく。
「あ、あの……」
「それじゃ、エフィルの呪いを解くとしようか」
「……え?」
先ほど白魔法をA級まで上げておいた。MPも十分足りており、後は唱えるだけなのだ。
「これで解呪完了だ」
試しにエフィルの手を握ってみる。うん、柔らかい。
「あ、危な――― え……? な、何で?」
エフィルは信じられないという顔をこちらに向けてくる。そして……
「う、うええぇぇぇん!」
泣き始めてしまった。
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