第17話 異世界人
「それにしても今日は良い天気だね、君にとっては冒険日和なんじゃないかい?」
「そうですね、今すぐにでも出発したい気分ですよ」
「ハッハッハ、真面目なのは結構だが、たまにはゆっくり体を休めることも必要だよ」
「フフフ、振ってきたのはギルド長じゃないですか」
ケルヴィンとリオの会話内容は至って普通なのだが、何やら部屋の中は不穏な空気だ。こんな所に間違ってアンジェが入って来でもしたら、穏やかに談笑する姿で行われる水面下の腹の探り合いに違和感を感じるだろう。
「参ったな、これは一本取られたよ。ところでケルヴィン君は異世界人なのかな?」
自然な会話の流れでとんでもない事聞いてくるな、この狸。ちなみにクロトやジェラールには俺の素性を話している。この世界には俺以外にも異世界人は極稀ではあるがいるそうだ。ジェラールに限っては、生前何度か会ったこともあるという。有名なところだと、メルフィーナが転生させたらしい美男美女の勇者4人組だ。機会を見て俺も会ってみたいものだ。
―――結構な時間行われている牽制の投げ合いに、ケルヴィンはかなり疲れていた。報酬を頂きに来た筈が、行き成り窮地に立たされたのだ。今日は厄日だと自分を呪っている。胆力のスキルで何とかポーカーフェイスは守られているものの、内心かなりボロボロであった。
「……冒険者の素性を探るのは御法度の筈ですよ」
「否定はしないのかね?」
こいつ、何が狙いだ?
警戒する俺にリオはふうっと小さく息を吐く。
「すまない、私とした事が意地の悪い質問をしてしまったね」
「気にしてない、とは言えませんが、その意図を聞いてもよろしいですか?」
リオは眼鏡拭きを懐から取り出し、片眼鏡を擦りながら答える。
「カシェルのことはアンジェ君から聞いたよ。重ねて黒霊騎士討伐を君一人で、いや、君の配下と共に倒したと言った方がいいか。君は召喚士だね?」
「やはり私のステータスを見られましたか。それで、何が望みです?」
「別に君と敵対したい訳じゃないんだ、そこは勘違いしないで説明を聞いてくれ。むしろ協力体制を築きたいと思っている」
「……詳細を聞いても?」
リオが椅子を勧めてきたので、ひとまず座ることにする。
「まずは君を異世界人と判断した理由を話そうか。君も鑑定眼を持っているようだから分かると思うが、私もA級鑑定眼を所有している。ちなみにステータスを拝見したのは3日程前だ。アンジェ君から有望な新人が居ると聞いて、影から見させてもらったよ」
今さっきの話ではなかったのか。俺が街中で確認したスキルは最も高くてもC級が精々だった。隠蔽をB級まで上げておけば当分は大丈夫だろうと考えていたが、まさかこの短期間にリークされていたとは…… つくづく俺は詰めが甘いな。
『ステータスなんぞ、何時までも隠し切れるもんでもないわい。大切なのは、その秘密を共有できる友を増やすことじゃ。王よ、シャッキリせい!』
『私達も可能な限りサポートしますよ』
そうだ、な。まずはリオの話を聞くとしよう。全く、心強い配下達だ。
「君のステータスをみて疑問を感じる点があった。レベルの高さと召喚士の職業、そして所持するスキルランクが釣り合っていないんだ。どんな天才でもそのレベル帯で召喚術を取得することは不可能だ。できるとすればこの世界とは別の世界の住人、レベル1から高位のスキルを持つ異世界人だけだ。君のスキルは既にS級冒険者のそれなんだよ」
『彼が言っていることは真実です』
なら、もう隠す必要もないか。
「おっしゃる通り、私は異世界人です。その話振りだと、他にも会ったことがあるようですね」
「神皇国デラミスで勇者が召喚された時にね」
ああ、メルフィーナがそんな話をしていたな。あまり関わりたくなさそうにしていたが。
「それなら、カシェルとその仲間が犯罪者だと言う事も知っていたのでは? なぜ野放しにしていたのです?」
「それについては謝らなければならない。カシェルはトライセン国のファーゼという名門貴族の出でね。他国の貴族ってのはなかなか手を出し辛いもので、その証拠が欲しかったんだ」
カシェルが貴族、ね。見た目はそれっぽかったけど、この世界での貴族の力は結構なもんなのか。
「と言っても、手回ししているところで彼が勘当されたことがつい先日分かった。何やら問題を起こしたみたいでね、それが称号の元となったのかもしれない。それで、やっとこちらも動き出せる段階になって現れたのが君さ、ケルヴィン君」
何とも素晴らしいタイミングで接触してしまったようだな、俺。
「もちろん、普通の新人であれば無理矢理にでも止めた。だが、君のステータスは異常だったからね。もしやと思って君に賭けてみた訳さ」
「それで私が死んでしまったら、どうする気だったんです?」
「あはは、ごめん」
こいつ、紳士的な風貌とは裏腹に相当な狸だ!
「そんな顔しないでくれよ。その代わり、特別報酬も出すし、良い提案も準備している」
「それが協力と繋がる訳ですね。それで具体的にどのようなことを?」
「デラミスの巫女は神の預言を賜り、勇者を召喚した。巫女が言うには、魔王復活が近いうちに起こるそうだ。この所、その影響か大陸中でモンスターが凶暴になってきている」
「……それで?」
「君が討伐に向かった黒霊騎士が強力になっていたのも、魔王が原因だと思われる。本来であればD級の依頼だったのだが、犠牲者が多過ぎた。いくら勇者と言えど、大陸中を護って回る訳にはいかないんだ。何よりも彼らには魔王討伐に専念して貰いたい」
なるほどな、リオの意図が読めた。
「勇者の代わりに、モンスターの脅威を取り除け…… ということですか?」
「……恥ずかしながら、ギルドでも人手が足りていないんだ。高ランクの冒険者ともなると、この周辺の街では1人いるかいないかでね。B級以上の依頼をこなせる者が不足しているんだ」
この辺り一帯は低レベルモンスターばかりで基本的に平和だ。それもあって高ランクの冒険者はこれまでパーズにはいなかったのだろう。カシェルが筆頭だったくらいだしな。そんな中、目と鼻の先にある悪霊の古城で強力なモンスターが出現したことでリオは焦っていたようだ。
「君には他の者では達成できない依頼を受けて貰いたい。それに見合う報酬は出すし、様々なサポートもしよう。もちろん無理だと思えば依頼を断ってもらっても構わない。要は君のような有望な者が、低ランクにいては不釣合いだと考えているんだ」
「つまり、特例で冒険者ランクは上げるが、どの依頼を受けるかは私の裁量に任せると?」
「その通りだ」
「条件が余りに良過ぎると思いますが」
「正直に言うと、召喚士である君の力はどこに行っても喉から手が出るほど欲しい人材なんだ。ギルドでもそれは同じでね。どこかに取り込まれる前に冒険者として高みに上ってもらおうかとね」
リオは申し訳なさそうな顔をする。
「君は召喚士であること、異世界人であることを隠していたね。ギルドに協力してくれるのであれば、必ず自由は約束しよう。貴族の詰まらない権力争いに巻き込まれたくなかったんだろう?」
見透かされてるな。しかし、その条件であれば俺には文句はない。
「分かりました。協力しましょう」
ケルヴィンとリオは立ち上がり、握手を交わす。
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