第9話 悪霊の古城

 依頼を受け、ギルドを出たケルヴィンは武器・防具を新調する為に店を巡る。E級の依頼でそれなりの資金は貯まっているのだし、こんな形になってしまったが、アンジェさんとの約束は守っておきたい。ウッドロッドを売り払い、新たに深緑の杖を、防具も旅人装備からマジックローブに買い換えた。深緑の杖は緑魔法との相性がよく、魔力ブーストとして期待できる。


「一応、気配感知であの3人の所在はマークしているが、街の中では仕掛けてこないようだな」

『リスクが多過ぎますからね。襲うとすればダンジョン内でしょう』


 気配感知は周囲の様子から生物の気配を漠然と感じることができるスキルだ。ただし、一度確認した者の気配を覚えておけば、そこに注意を絞って居場所を知ることも可能だ。隠密対策に取得したスキルだったが、思わぬ収穫だ。


 酒場の冒険者の中に仲間が居たことは前々から知っていた。冒険者には予め全員に鑑定眼を使いステータスを確認している。危険だと感じた奴の顔とステータスを覚え、対策は講じていた。


 その中でも特に危険視していたのは、ギムルとラジという毎日酒ばかり飲んでいた奴らだ。どちらもレベル・ステータスと他の冒険者を凌駕していたのだ。そして、決め手となったのはカシェルの時と同じように称号だった。ギムルが凶賊、ラジが虐殺者だ。


 そんな二人が毎日同席で酒を煽っているのだから、嫌でも警戒するというものである。


『カシェルがこちらに声をかけて来たときに、最も早く注目してきたのもあの二人でした』

「ああ、特にギムルはC級の鑑定眼を持っていたからな。隠蔽を早い段階で上げておいて良かった」


 初日の依頼を終えた時は、まだスキルを取得していなかったからな。一歩でも遅かったら痛手になったかもしれない。


 しかし、俺の他にも鑑定眼を持つ奴はいるだろうに。なぜ何もせずに居座らせてるのか謎だ。称号がそうだとしても、現行犯で捕らえないと駄目なのだろうか?


「ステータスを見る限りでは、ラジが戦闘専門職、ギムルが偵察支援職って感じか」


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ギムル 19歳 男 人間 盗賊

レベル:27

称号 :凶賊

HP :92/92

MP :36/36

筋力 :84

耐久 :81

敏捷 :132

魔力 :30

幸運 :29

スキル:投擲(E級)

    鑑定眼(C級)

    隠蔽察知(C級)

補助効果:隠蔽(F級)  

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ラジ 33歳 男 人間 狂戦士

レベル:36

称号 :虐殺者

HP :370/370

MP :4/4

筋力 :203(+40)

耐久 :169(+40)

敏捷 :37

魔力 :37

幸運 :51

スキル:格闘術(C級)

    剛力(D級)

    鉄壁(D級)

    自然治癒(F級)

補助効果:隠蔽(F級) 

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 なるほどな…… 何はともあれ、悪霊の古城に向かうとしよう。あちらさんは俺が動くまで行動を起こさないようだしな。あまり待たせてしまっては、何をするかわかったもんじゃない。



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 俺がこの世界で目覚めた森を北に突っ切り、獣道を少々歩いた先に悪霊の古城は存在する。少し前まではD級のダンジョンとして、それなりの腕を持った冒険者の活動ポイントだったのだが、黒霊騎士が現れてからはめっきり人気がなくなった。そんな訳で、今このダンジョンにいるのは俺一人だけ。カシェル達はまだ森の中を移動しているようだ。


「それにしてもアンデット系のモンスターばかり出てくるな……」


 ウィンドを飛ばしながら愚痴ってしまう。


『あなた様はそっち系が苦手ですか?』

「好き好んで見るものではないな」


 このダンジョン、ゾンビやスピリットといったモンスターが多く、見た目的にとてもよろしくない。主に精神的な意味で。動揺するところまではいかないが、気持ち悪いものは気持ち悪いのである。まあ、そんな気持ちも先に進むにつれ慣れで薄れていったのだが。殲滅自体は俺一人でも可能だったので、まだクロトの出番はない。現在待機中だ。


 何十体目かのゾンビを倒したところで、巨大な扉の前に行き着いた。


「……いるな」


 この大扉の前に強大な気を感じる。


「カシェル達は…… 今ダンジョンに入ったところか。俺が殲滅した道を真っ直ぐ来るだろうから、あと5分くらいかな」

『黒霊騎士とあなた様が戦っているところを挟撃、といった作戦でしょうか?』


 ケルヴィンは辺りを見回し少し考える。大扉の前には中部屋、後はそこに至るまでの通路のみ。


「よし、下準備をしよう」

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