第8話 カシェル
「……で、どうだった? 彼」
カシェルはギルドを離れ、薄暗い路地に入る。そこには先ほどのギルドの酒場で、冒険者に混じって談笑していた男達2人がカシェルを待っていた。
「ああ、旦那。あの新人、思ったより大物かもしれませんぜ」
小汚く、見るからに盗賊風の小柄な男が言う。
「あっしの鑑定眼はC級。少なくとも、あいつはC級以上の隠蔽を持っていやっすね」
「へえ、腕自慢の無謀者かと思ったけど、何か隠しているのかな?」
「おい、カシェル。前みたいにいたぶって殺すんだろ? まずは俺に戦わせろ!」
小柄な男の隣に立つ、筋肉質の巨漢が勇む。カシェルはやれやれと肩を竦めながら笑っていた。何時もの事だが、全く自制心のない男だ。
「ラジ、少し落ち着きなよ。彼は自分から勝負を仕掛けてくれたんだ。僕達は先輩として、その意思を称えないと」
「これも指導ってやつっすね。ラジ、また力任せに壊しちゃ駄目っすよ。何事も優しく優しくが基本っす」
「難しいことはよく分からん! 俺は何時も通りやるだけだ!」
「相変わらず、脳筋っす……」
カシェルがこの二人と組みだしたのは半年ほど前からだ。とある小さな村が略奪行為をされているところを、偶然通りかかったのが始まりだ。もっとも、カシェル自身も獲物を探しているところだった。彼は冒険者であるが、快楽殺人者の一面も持っている。時にはその整った外見を使い誘惑し、時には剣術で真っ向から、所有する隠密・隠蔽のスキルを上手く扱いながら隠してきたのだ。
小柄な男の名はギムル。名のある盗賊団の一員であったが、高位の冒険者との戦いの際に一団は壊滅。持ち前の鑑定眼で冒険者の情報を知り、誰よりも早く逃げた。狡猾に、だが迅速に行動することが彼を救ったのだ。それからは日々空の下での生活だ。逃げる前に持ち出したのは一本のナイフだけ。彼が知る、生き延びる方法は1つだけだった。
巨漢の男はラジ。元々は傭兵として戦場を渡り歩き、血を求めていた。しかし、敵だけではなく時には一般人をも虐殺し、その残虐性から戦争時の両国から指名手配されることとなる。自分を討伐しようとやってくる賞金稼ぎを殺すことも面白かったが、段々と疎ましくなってきた。彼は遠い地を目指し、国を転々とした。
そんな彼ら3人は、この村で出会ってしまった。国やギルドへの救援を求める暇もなく、村は全滅。残されたのは凄惨な現場だけだったが、物となった死体の山をカシェルは隠蔽した。スキルはF級と鑑定眼一つで暴露されるレベルであったが、処理するまでの時間稼ぎにはなった。
彼らは意気投合、とはいかなかったが、互いの目的が一致したことで行動を共にしている。パーズの街を拠点とし、面白おかしく、決定的な尻尾は出さずに遊んでいたのだが、最近は少々やり過ぎていた。カシェルの冒険者という立場を利用した新人狩りの噂が流れ始めたのだ。この頃からカシェルに疑いの目を向けられるようになったのだが、ギムルとラジはその時にはカシェルを見切ればいいと軽く考えるくらいであった。自分達は表沙汰に行動を共にしている訳ではない、いざとなればカシェルを売って自分達の手柄にしよう……と。
ケルヴィンがパーズの街に来たのがこの頃、カシェルは依頼の遠征で不在、ギムルとラジは酒場で飲んだくれていた。依頼を短期間で連続達成するケルヴィンに目を付けるのは時間の問題だった。
「それにしやしても、単独で黒霊騎士討伐勝負とは…… やっこさん、何を考えていやがるんでしょ?」
「さあね、単純に倒せる自信があるってことじゃないかな?」
「いいね! いいね! 倒し甲斐があるじゃねぇか!」
「……まあ、その時はラジに任せるよ」
ギムルとラジは知らない。カシェルがこの勝負で彼らを始末しようとしていることを。カシェル自身も気が付いていたのだ。新人狩りの罪を自分に着せようとしていることに。黒霊騎士の出現地、悪霊の古城はDランク相当のダンジョン。その最奥に黒霊騎士が現れたとのことで、依頼難度をDとしてギルドは召集をかけたのだが、結果として帰る者はいなかった。カシェルは遠征の際、隠密を使い偵察をしたのだが、唯の黒霊騎士でないことは一目瞭然だった。こいつを使い、邪魔者を排除しよう。カシェルは新人狩りを餌に、綿密に計画を練る。
3人の誤算は、新人冒険者に対してそれほど警戒していなかったことだ。ギムルの鑑定眼を防いだ時点で気が付くべきだった。彼はC級以上のスキルを有していることに。
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