第7話 新人潰し

 この世界に来て1週間たった。その間、俺が何をしていたかというと、討伐&討伐だ。ブルースライムを討伐した翌日、もう一度F級の討伐依頼を受けたのだが、あまりに依頼が簡単過ぎた。それ以降はE級討伐依頼を受けていた。


「ケルヴィンさん、おめでとうございます! 今回の依頼成功で、ケルヴィンさんはE級冒険者に昇格です!」


 アンジェさんに祝福される。正直、あまり達成感がない。E級の討伐モンスターはオーク、コボルトといった集団戦術を得意とする奴が多い。しかし所詮は毛の生えた程度の知能、過剰ステータスのクロトと意思疎通を有する俺の敵ではなかった。


「途中でE級の依頼を受けられた時は、どうなることかと思いましたよ。ケルヴィンさん、パーティを組まれないんですもん」


 組まないのではなく、組めないのである。パーティなんて組んだ日には召喚士だと即バレだ。組まずとも、俺には心強い相棒がいるしな。


『召喚術で実体化した配下は自動的にあなた様のパーティに加わりますので、実質的にはずっと組んでいたのですがね』


 実質的にはな。他の奴から見てみれば、冒険者なりたての新人魔法使いが、ソロでワンランク上の依頼をこなしまくってた訳だから…… そりゃ目立つわ。


『目立たないよう行動する予定だったのでは?』


 退屈だったんだ。許せ。


 メルフィーナと脳内会話をしていると、アンジェさんが前のめりになってカウンター越しに近づいてきた。ちょ、近いです!


「ケルヴィンさん、どこかの国に仕えていた宮廷魔導士とかでした? 新人さんにしては強過ぎますよ」

「え、えーと、詳しくは言えないです。すみません」

「あっ、いえ、私の方こそ、ごめんなさい! 冒険者の方にこんなこと聞くのは御法度でしたね……」


 そういうことにしといてください。心の中でもう一度謝っておく。


「でも、本当に気をつけてくださいよ。ケルヴィンさんのことだから、次はD級の依頼を受けるんですよね?」

「ええ、そのつもりです」


 嘘を言っても依頼を受けるときにばれる。ここは正直に答えておこう


「本当に危険だと思ったら、すぐに逃げますよ。逃げ足には自信あるんです」

「せめて装備を整えてください! ケルヴィンさん、1週間前と装備変わってないじゃないですか!」


 おお、そういえば買い替えてない。あまり慢心してもいかんからな。これまでの報酬でそろそろ装備を見繕うか。


「ははは、分かりましたよ。装備は新調します。 ……ってことで、D級の依頼をお願いします」

「むー、本当に分かってますか? ええと、D級の依頼ですと……」


 アンジェさんが依頼を確認していると、隣の男から声を掛けられた。


「D級なら、黒霊騎士の討伐なんてどうだい?」

「黒霊騎士?」

「か、カシェルさん、帰っていたんですか…!」


 ところで誰だこいつ? ギルドには何度か顔を出していたが、見たことのない奴だ。見た感じはさわやか系の金髪イケメンだが、何か嫌な空気を感じる。


「やあ、アンジェちゃん、ただいま。ついさっき帰還したところだよ。」

「……お疲れ様です。依頼はどうでしたか?」

「もちろん無事解決さ。リザードマンの巣にはちょっと苦戦しちゃったけどね。ははは」


 アンジェに向かって満面の笑みを浮かべているが、アンジェの顔は引きつっている。心なしか周囲の冒険者たちの空気も暗いようだ。


「ところでそこの君、さっきE級に昇格したんだって? おめでとう! 冒険者の先輩として嬉しいよ!」

「ええと、あなたは?」

「おっと、自己紹介がまだだったね。僕はカシェル。D級の冒険者さ」


 一々芝居臭い男だな。ボソボソと周りの冒険者たちが何か話しているようだし、ちょっと聞き耳を立ててみるか。


(よく言うぜ、本当はB級の実力がある癖によ)

(新人潰しが生き甲斐の奴だからな、調子に乗ってD級の依頼に挑む新人目当てだろ)

(はぁ、このギルドにカシェル以上の実力者はいないしね。見ない振りをするしかないわよ)


 奥の酒場で飲んでいた冒険者たちが小声で話している。あの辺りはD級の冒険者だった筈だ。同ランクでも口出ししないってことは、彼らの言うことは本当なのだろう。


「今度、僕のパーティで黒霊騎士討伐に行こうって話になってさ、君も一緒にどうだい? 見たところ、E級の依頼には苦戦していなかったようだし」

「ま、待ってください! 確かにその依頼はD級になっていますが、その黒霊騎士は他よりも強力なんです! おそらく亜種でしょう。ケルヴィンさんにその依頼は危険過ぎます!」

「ははは、アンジェちゃん、大丈夫だよ。さっきの話じゃ彼はソロでE級の依頼をクリアしてきたんでしょ? 僕たちが協力すれば安心だよ」

「それは……」


 アンジェが口をつぐんでしまった。


「申し出はありがたいのですが、パーティは組めません。私程度の者と組んでもそちらに利益がありませんよ」

「遠慮しなくてもいいよ、これも人生経験だと思ってさ」


 こいつ、しつこいな。こっちにはそんな気はない。先ほどアンジェが止めに入った時に、隙を見て鑑定眼を仕掛けたのだが、このカシェルという奴は危険だ。


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カシェル 25歳 男 人間 魔法剣士

レベル:34

称号 :殺人鬼

HP :315/315

MP :104/104

筋力 :156(+20)

耐久 :131

敏捷 :126

魔力 :102

幸運 :89

スキル:剣術(B級)

    剛力(E級)

    白魔法(E級)

    隠密(E級)

    隠蔽(F級)

    話術(E級)

補助効果:隠蔽(F級) 

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 ステータスの高さはクロトにも引けを取らない。不穏なスキルも所有しているが、何よりも称号がな…… しかし、カシェルも引いてくれそうにない。完全にターゲットにされている。ここは、そうだな。


「そうですね、それでは一つ勝負をしませんか?」

「勝負かい?」

「ええ、その黒霊騎士というモンスターをどちらが先に倒せるか勝負しませんか? 勿論、私はソロで挑みます」

「おいおい、とてもじゃないがソロで挑むような敵じゃないよ。僕は予定通りパーティで行かせて貰うけど、いいのかい?」

「構いませんよ」


 ならば、こちらから罠にかかってやろうじゃないか。カシェルが狙ってくるのは、おそらく俺が黒霊騎士と戦っている最中か戦闘後、もしくは道程での襲撃といったところだろう。快楽殺人か報酬の横取りかは知らんが、相手にとって不足はない。何よりも、これまでのレベリングと修練の成果を発揮してみたいのだ。それに、やってみたいこともある。


『あなた様、発想が戦闘狂のそれです』


 うるせいやい。


「ふふ、自信に満ちてるね。僕はそれでいいよ」

「それでは勝負開始としましょう。アンジェさん、依頼をお願いします」

「ケ、ケルヴィンさん……」


 アンジェさんが今にも泣きそうな顔でこちらに視線を向けるが、ここで引く訳にはいかない。俺の力を試させてもらうとしよう。

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