第10話 罠

 仕込みをして待つこと少々。カシェル達が俺の待つ中部屋へとやってきた。


「ああ、カシェルさんも来られましたか。そちらのお二人はパーティの方ですね? どうやらこの大扉の奥に黒霊騎士はいるようですよ」

「……先にどちらが討伐するかの勝負だったのに、わざわざ待っていてくれたのかい? 随分紳士的なんだね」


 カシェルは当てが外れたのか、少し驚いた顔をした。先ほどメルフィーナが言っていたように、俺が黒霊騎士と戦っているところを強襲、または戦闘後の俺に油断させて仕掛けようとしたのだろう。勝負を申し込んだ当の本人が自分達を待っているとは、微塵も思っていなかったようだ。


「どうやら黒霊騎士はこの扉の向こうに行かない限り、あちらから攻撃してくることはないようです。」


 キィ……


 そう話しながら大扉を少し開ける。扉の隙間からは漆黒のフルプレートを纏う大男が仁王立ちしているのが見えた。その手にはこれまた巨大な漆黒の大剣。獲物が来るのを待っていると言うよりは、何かを護っているように見える。


「それで、何だ? やっぱり自分一人じゃ倒せそうにないから、俺達と協力したいってか!?」


 ラジが声を張り上げる。この密閉空間では耳に響くので止めてもらいたい。


「違いますよ。勿論、勝負は勝たせてもらいます。ただ、黒霊騎士との戦闘を邪魔してもらっては困るんです。いや、黒霊騎士を倒してもらっては困ると言った方がいいか」


 俺が敬語を使うのを止め、普段の話し方に戻すと3人はゆっくりと戦闘体勢に入っていった。カシェルとラジを先頭に、ギムルがやや後方に下がる。


「……旦那、こいつもう俺達のこと知ってやがるっすよ」

「ふう、知って尚、ソロで来る意味が分からないが。ギルドにでも雇われたのかい? それとも、ラジ達の賞金目当て?」

「何、ただの巡り合せだ。ってか最初に突っ掛かってきたのはお前だろ」

「それも僕達を誘う為の罠だったんだろう? 新人を装い、功績を挙げることで僕達に関心を持たせることが目的だった訳だ」

「な、何て奴だ…… 道理でスキルランクが高い筈だぜ!」


 何か勘違いして話が進んでいる…… スキルが高いのは素だから!


『状況に悪影響はありません。そういうことにして進めてください』


 へいへい


「まあ、どちらでもいいさ。お前達は俺を罠に嵌めようとしたんだろうが、実際に嵌っていたのはお前達だった、ってだけの話だ」

「へへ、新人の旦那、それにしちゃ位置取りが悪かったんじゃないですかい? 出入り口はあっし達の後ろしかなく、その大扉の先には黒霊騎士。おまけに3対1の状況ときてる。不利なのはそちらですぜ?」


 ああ、そうだな。このままであれば、だが。


「そろそろ御託はいいんじゃないか? ビビってばかりのそこのデカブツ、早くかかってこいよ」

「誰がビビりだとぉ!? 魔法使い風情が嘯くんじゃねぇ!」


 ラジが一直線に俺に向かってくる。案の定、安い挑発に乗ってくれた。見た目通り単細胞だ。


「ラジ! 挑発に乗るな!」


 カシェルが咄嗟に叫ぶが、もう遅い。予め仕掛けておいた魔法を発動させる。


「うおっ!?」


 先ほどまで何もなかった地面が、突然泥沼に変わりラジの足を束縛した。


「貴様、何をした!?」

「さて、一体何をしたんだろうね」


 何てことはない、D級緑魔法【束縛の泥沼マッドバインド】を隠蔽で隠していただけだ。この魔法は足場を底無しの泥沼に変え、相手の機動力を奪う。本来であれば地面が泥沼化するまでに対象にばれてしまうことも多く、パーティの援護用として使う魔法なのだが、今回は隠蔽を見抜けなかったラジが自分から嵌ってくれた訳だ。


「これは…… 隠蔽か?」

「あ、あっしの探知にも引っ掛からなかったっすよ!?」


 まあ、C級程度じゃ看破できんさ。そう考えると隠蔽もかなりの良スキルだ。


「クソッ、こんな泥沼程度、俺の筋力があれば……!」

「無理に動かない方がいいぞ。それ底無しだから」


 助言をしながら3人それぞれにウィンドを放つ。カシェルは前進しながらも避け、こちらに泥沼を迂回しながら向かってくる。ラジには命中したが、それほどダメージは負っていないようだ。ギムルは……


「おいっ、ギムルてめぇ逃げるんじゃねぇ!」

「へへっ、悪いが旦那、ラジ、あっしはお先に失礼しやす。その新人さんは何かやべぇ。あっしの本能がそう言ってるんすよ。そいじゃ!」


『あなた様、ギムルが逃走を開始しました。カシェルは後10秒ほどでこちらに到達します』


 分かってる。それも予想済みだ。


「通路を塞げ、クロト!」


 この中部屋から通路までは俺の魔力圏内だ。ということは、カシェル達の背後にクロトの召喚が可能。


「な、なんすか!?」


 通路の入り口に一瞬魔方陣が展開され、光を放った。警戒したギムルは立ち止まる。光が消え、ギムルが見た先にはスライムがいた。ラジの丈ほどもある、巨大なスライムが。





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クロト 0歳 性別なし スライム・グラトニア

レベル:12

称号 :喰らい尽くすもの

HP :465/465(+100)

MP :176/176(+100)

筋力 :223(+100)

耐久 :231(+100)

敏捷 :196(+100)

魔力 :180(+100)

幸運 :191(+100)

スキル:暴食(固有スキル)

    吸収(D級)

    保管(B級)

    打撃半減

補助効果:召喚術/魔力供給(S級) 

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