第13話 第十回イベント-赫き翼

ブルーファイターズの旗艦からロイのマルチユニットヴァレンシアとカナのエリアルバレルディが発進する。



「ロイ、お前は残っていろ。後がないだろ」



カナが言うがロイが怒鳴る。



「アイツに二回も同じやられ方をした!今度こそ勝ってやる!」



「次はやられんなよ?」



《クランリーダー、アーマードスーツ一機が高速で接近中!迎撃を!》



「くそー!舐められたもんだぜ!」



ロイがブチギレる。



「単騎突撃だろ!?消し飛ばしてやる!全砲門展開!」



ヴァレンシアの持つ全ての重火器がデブリ帯を突き抜けるエリアルヘロンに放たれる。



「ヤケクソになってる、、、、」



ぶっといレーザーがデブリを幾つか消し飛ばした。



エリアルヘロンはそれを避けてデブリ帯を抜けた。



「くそっくそっ!」



ロイがライフルを乱射する。



それらが赫い軌跡に触れることはない。



「なんだよ、なんだよあの装備!」



ヴァレンシアが弾切れの重火器をパージして身軽になる。



「やめろ、いくな!」



カナが止めるがロイは聞く耳を持たない。



「くぁぁぁ!殺してやる!」



マルチユニットヴァレンシアがエリアルヘロンを追いかける。



エリアルヘロンが切り返してマルチユニットヴァレンシアと向かい合う。



エナジーブレードを起動して斬りかかる。



エリアルヘロンとマルチユニットヴァレンシアが縦横無尽に駆け回る。



戦いは長くは続かなかった。



「ちくしょぉぉぉぉ!」



そんな断末魔を残してロイはリスポーン不可となり、ターミナルへ送られた。



「ゆっくり観戦しておけ、バカ」



カナが呆れたように言った。



エリアルヘロンがエリアルバレルディを見下ろす。



「ねえ、今ブルーファイターズとピースコンパスの戦争をどれだけのプレイヤーが観戦してると思う?」



「観戦なんて出来るのか?」



初耳だ。どこで見てるんだろ。



「出来るとも。三回やられたプレイヤーは最寄りのターミナルに送られる。そこで生き残ってるプレイヤーのことを見る事が出来るんだ。今どんだけか教えてあげようか」



「何人だ?」



「ざっと一万人ぐらい。プレイヤーはもちろん、運営や、動画配信サイトのライブ配信でも観ている人がいるよ。皆んな君が気になるんでしょ」



「俺?てかこの会話も聴かれてるのか?」



「もちろん。あのバカの間抜けな断末魔もね。うっふふ、笑っちゃうわ」



ちくしょぉぉぉぉ!がいろんな人に聞かれてたんだろ?いろんな人から弄られるんだろうなプクク。



エリアルヘロンとエリアルバレルディが打ち合う。



「不意打ちなんて卑怯だな!」



「るせぇ、こっちの台詞だ!」



エリアルバレルディがビットンを展開する。



ビットンから繰り出される絶え間ない攻撃をエリアルヘロンは全て躱しきる。



『卓越した操縦技術、機体性能、何もかもが変わっている。特にあの赫く耀くクロス型のウィング!おんなじ様な変化を一度見た事があったな。頭の奥底に沈めておいたはずの記憶、、、、まさかな』



デブリ帯をミネー達も通過して来た。



「おー、マジで別人みたいだな、ハナサギ」



ヨッシーが感嘆して呟く。



「うん、なんか夢でも見てるみたいだ」



「ホント、始めて三日四日だとは思えないよね」



ミネーとアリスが同意する。



「焦ったい!」



カナがそう言って機体をエリアルヘロンに向かわせる。



「来んなよお前!ビットンだけでも鬱陶しいのに!」



俺はカナのエリアルバレルディにエナジーブレードを投げつける。



が、それはシールドに防がれた。



「通用するかそんなもん!」



エリアルバレルディがエナジーブレードを振り上げる。



「やべっ!」



焦った俺は爆速で向こうへ飛んでいったエナジーブレードを追いかける。



エリアルバレルディが力いっぱい振り下ろしたエナジーブレードは空を切った。



「ち、避けたか、、、、!」



エナジーブレードを拾ったエリアルヘロンが猛スピードで突進して来た。



『速い!』



ブレードがぶつかる度に鈍い光が機体を照らす。



「お前、チーターなんだってな」



「ふん、今更か。皆んなそう言う。ビットンを強化して、ライフルを追尾式にして、確かにチートだ。ならエリアルSシンギュラリティプライマルは何なんだ?あれはチートじゃないのか?お前の急激な成長もチートによるものなんじゃないか?」



「俺はまだ何も知らない。お前が本当にチートを使っているかなんて、Sシンギュラリティのことだって知らない。それでいいと思ってる」



「いちいち癪に触る、、、、!お前みたいな新参者が『スペースウォーリャーズ』最強のエリアルSプライマルへの挑戦権を獲得した事が納得できないんだよ!平和ごっこしてたるんでるクランにいる様なやつが!」



カナが激昂する。



エリアルバレルディの機体性能が跳ね上がる。



《ハナサギ君!》



ユカから通信が入る。



「今ですか!?」



流石に後にしてくれ、気を抜くとやられそうになるから!



意識がエリアルヘロンと一体化していく。



力を貸してくれ、エリアルヘロン。



ウィングがより赫く耀く。



ブレードが大きく伸びる。



エリアルバレルディとビットンからの集中砲火をブレード一本だけで弾き返す。



「ちぃ」



カナが舌打ちする。



《クランリーダー!大変です!プライ、、、、》



「うるさい、後にしろ!」



カナが叫ぶ。



二つの機体が何度も何度も打ち合っては離れを繰り返す。



『また強くなった。初心者みたいな挙動のくせして速度は玄人並みだ。あんな化け物、そうそう生まれてたまるかよ』



「うおおおお!」



エリアルヘロンがエナジーブレードを振りおろす。



「うらぁ!」



エリアルバレルディが渾身の力で受け止めた。



「ぐっ!」



「なんて力、、、、!」



エリアルバレルディの両腕がひしゃげる。



「ひっ!壊れた!」



カナが悲鳴をあげる。



エリアルヘロンの振り下ろしたエナジーブレードはそのままエリアルバレルディを真っ二つに切り裂いた。



「やった、後一回!」



俺は歓喜の声を上げた。



誰からも反応がこない。



ユカさんの話遮ったのまずかったかな。



レーダーを見ると無反応の理由が自ずとわかった。



ゆっくり後ろを振り向く。



「ごめんユカさん」



《気にしないで。遅かれ早かれこうなってたから》



ブルーファイターズの艦隊の前に一隻の大きな戦艦が趺坐していた。



その戦艦の前面に何百ものアーマードスーツが展開されている。



彼らの前にいるのは金と銀のエリアルSシンギュラリティプライマルとピンク色のエリアルフェンリルのようだ。



「何で、アイツら一位なのに、、、、」



わざわざこっちに来て、何を企んでるんだ?あ、エリアルフェンリル、、、、。



「私怨をぶつけるために?」



再出撃してきたカナがカガリに食ってかかる。



「何しに来たカガリ!お前らに構っている暇はねぇ!」



「君の行為は俺の許容範囲越えている」



「はあ、何が?チートのこと?」



「話が早い。粛清させてもらうぞ!」



プライマルがエリアルバレルディに迫る。



「あんたの許容範囲なんて知ったこっちゃないわよ!」



迎撃しようとするが、瞬き一つの間に両腕を切り落とされる。



「これでチートじゃ無いってんだから、やってられないよ」



プライマルがエリアルバレルディをバラバラに切り裂く。



「ビットンを使っていればほんの数秒耐えられたかもしれんな」



これがミネー達が一度戦った、エリアルSプライマル、、、、。別格すぎないか?さっきの奴らとは比にならない。



エリアルSプライマルがエリアルヘロンに近付いてくる。



緊張がはしる。



不意打ちされたら終わりだな。対処できる気がしない。



「君が例の凄腕初心者か?」



カガリが尋ねた。



「そうですけど、、、、」



俺は恐る恐る答えた。



返答を間違えれば即座にやられるかもしれない。怖すぎ。



「俺はカガリ。みんなは俺のことをシンギュラリティと呼んでいる。今までの戦いぶりは全て見ていた」



「はあ」



「赫き翼、赫翼のエリアルヘロン、ハナサギ。君はいずれ俺と同じ高み、いやさらなる高みへと昇るだろう。俺はその日を楽しみにしている。そしてピースコンパスの者、第十回イベント二位入賞おめでとう。君たちとブルーファイターズ以外のクランは全て我々プライマルクランが殲滅した。もう順位が変動することはない。安心してくれ。もう戦闘する余力は残ってないだろう」



「あ、あの」



「どうかしたか?赫翼のエリアルヘロン」



「なんすか、赫翼のって。それより、ありがとうございました。手助けしてもらって」



ここで感謝しといて良い印象を残しとこう。エリアルフェンリルが介入しにくい雰囲気を作り出せ!



「いやいや、こちらこそ君の獲物を横取りする形になってしまった。お詫びは近いうちに。それでは我々はこれで」



プライマルクランのアーマードスーツが戦艦に戻っていく。



ミネー達が近付いてくる。



「赫翼か、、、、良い二つ名だな」



「最強のパイロットに一目置かれたね」



「二位入賞だってよ!」



俺は大声を出して喜ぶ。



「デビュー戦で二位に入った!これってすごいことだよ!」



「デビュー戦なのはお前だけだよ。まあ、凄いことではある」



「ハナサギくーん」



ヴァリュートがニヤニヤしながらハナサギに話しかける。



「ボク一回もやられてないんだよねー」



「俺は一回やられたんだ、、、、あ」



「ニヒー、約束は守ってもらわないとね」



「わかったよ。後で聞く」



《みんな、基地に戻って来て。イベント終了までゆっくり休みましょ》



ユカの提案に全員が賛成する。



五機のアーマードスーツが編隊を組んで基地へ戻っていく。



先頭の白い機体は赫い軌跡を残しながら。



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