第7話 閑話休題(1)

『スペースウォーリャーズ』からログアウトしたハナサギがゴーグルを取ってグローブを外す。



「ふー、今何時だ?」



時計を見ると、午後4:20とある。



二十分ちょいしか経ってないのか?それにしては濃密な体験だったけどな。



とりあえず立ち上がって扉を開ける。



「お、来た来た」



扉の前で峰岡と有栖川が待っていた。



隣に知らない中性的な見た目の人が立っていた。



「君がハナサギ君?」



「そうですけど」



「ふーん、ボクは吉美奈きみな楓かえで。『スペースウォーリャーズ』じゃヴァリュートって名前。君だよね、ボクを助けに行こうって言ってくれたのは。峰岡から聞いたよ」



楓がニコニコしながら詰め寄ってくる。



「お、おう。良いってことよ」



変な言葉遣いになる。なんて言うか、距離感が掴めないやつが多いな。



「飯行くにはまだ早いよな」



峰岡がスマホを弄りながら言う。



「そうだね、私お腹減ってないし」



有栖川がお腹をさする。



「後で集合するか?」



「じゃあ『いつもの』所に集合だね」



楓が言うと、他の二人も頷く。



いつものって何だ?行きつけの店があるのか?



「それまでハナサギ君はボクの買い物に付き合って貰おっかな」



楓が花鷺の隣に立つ。



「え?」



「御礼も兼ねて、ね」



「じゃあ六時にいつもの所で」



峰岡と有栖川がそう言って歩き出す。



「ボクたちも行こっか」



楓も歩き出す。



「ちょっ、どこ行くんだよ」



「え、『スペースウォーリャーズ』スペシャルショップ」



専門店?たかがゲームだぞ、何売ってるんだ?いや『スペースウォーリャーズ』関連だろうけど。



「楽しみだねー、好きなだけ奢ったげるよ」



楓がニヤッと笑う。



「あ、ありがとう」



コイツなんなんだ?奢ってもらえるのは嬉しいけど。



「タクシー呼ぼうか」



「う、今月ピンチなんだ、、、、」



「だから、奢ってあげるって言ったじゃん。今日ばっかりはお金の心配はしなくて大丈夫だよ。ボクに任せて」



⭐️⭐️⭐️


というわけでタクシーに三十分ほど揺られた花鷺と楓は『スペースウォーリャーズ』スペシャルショップに到着した。



ここで一つ発見。楓は金持ちだ。よくよく見ると全身ハイブランド、腕時計に財布まで全部お高そうなものを使っている。俺は親の職業を聞こうと思ったが失礼かと思いやめておいた。



スペシャルショップの中はぬいぐるみやらスマホケースやら色々なグッズが置いてあった。



「ねえ、あれ見てよ」



楓が近くの棚を指差す。



「ハナサギ君が喧嘩売ったエリアルSプライマルの人形だよ」



「ホントだ。今は見たくないなぁ」



隣にはエリアルフェンリルの人形も置いてある。



「てかなんでプレイヤーがグッズになってるんだ?」



「イベントで上位に入賞したチームへの景品だよ。色々あるみたいだね」



「『ピースコンパス』のは?」



「あるわけないじゃん。ボク達はプレイヤー同士の戦闘には消極的なんだよ。やられる前にやるんじゃなくてやられたらやり返す、って感じかな」



「『プライマル』とかいうクランが強いんだって?」



「うん、『プライマル』の一位はもう揺らがないだろうね。他にも前回二位の『ブルーファイターズ』、三位の『テリアン』とか、強いクランはいっぱいあるよ」



「『ピースコンパス』はそれで良いのか?強いクランの仲間にならなくて」



楓は商品を物色しながら答えた。



「ボク達は強いよ。プライマルには敵わないけど、他の奴なら普通に戦える。クラン対抗戦だって本気を出せば良いところまで行けるんだよ」



じゃあ本気でやれよ。という野暮なツッコミを飲み込んでカゴを取ってくる。



「お、気が利くね」



楓がいつのまにか抱えていた大量のグッズをカゴに入れる。



その時俺に電流走る。楓の思惑見破ったり。だからあの二人そそくさと、、、、!



「、、、、俺は荷物持ちか」



「えへ、バレちゃった」



楓がイタズラっぽく笑う。



「てか同じの二つずつ買ってどうするんだよ。誰かにプレゼントするのか?」



「ご名答。探偵になれちゃうんじゃない?」



「からかうな」



「ふふ、ハナサギ君も好きなの選んで良いよ」



「はいはいどうも」



適当にグッズを手に取ってカゴに入れていく。



こうして店員が唖然とするほどの量を買い込んだ二人はホクホク顔で店を後にした。



「会計すごい時間かかったね」



「十七万円だってな。ヤバすぎんだろ」



そう言ってすぐに自分の発言のおかしさに気づく。



「いや、十七万!?支払い上限大丈夫なのか?」



楓が首を傾げる。



「知らない。今まで一度も気にしたことなかったな」



うわあ、これが金持ちか、、、、。



「みんなが言ってた『いつもの』はここから一時間くらいかかるんだ。タクシーに乗れば丁度かな」



「え、今から行ったら三十分前に着くぞ?」



「大丈夫。みんなどうせ待ちきれないから」



楓がスマホを取り出す。



⭐️⭐️⭐️


「さ、ここが例の『いつもの』所だよ」



タクシーから降りた楓が花鷺に向かって手招きする。



『呑み屋 はなさぎ』



ここ、、、、俺ん家じゃねぇか。



「はなさぎにはいつもお世話になってるんだよ。はなさぎのおススメメニューはね」



「女将特製オムライスだろ」



「女将とく、、、、うぇ?なんでわかったの?」



「探偵だからだよ」



俺は意味のわからないカッコつけ方をして店に入った。



「ただいまー」



「いらっしゃいませ、、、、ってあんた!」



厨房に立っている女将が驚いたように大声を出す。



カウンター席の常連達が大笑いする。



楓が花鷺の肩を叩く。



「知り合い?」



「知り合いも何も母親だよ」



「ハナサギ君?」



奥の座敷に座っている峰岡と有栖川が驚く。



「あ、ホントに来てた」



「よー、楓ちゃん!」



「おー、ヨシ爺さん!元気してる?」



楓と常連のおじいちゃんがハイタッチする。



「仲良くなってんのか」



思わず苦笑いする。



ん、楓ちゃん?



「ヨシ爺、楓ちゃんてなんだよ。そいつ男だろ」



「ほえー、こんな可愛らしい男おるもんか」



「ボク男じゃないんだけど」



楓がムスッとする。



俺は峰岡と有栖川に目線だけで救援を求めたが、二人はお冷を飲んで顔を背ける。



アイツら、、、、!



「はー、誠也が女の子連れてきたと思ったら、、、、」



女将がため息をつく。



「どっちにしろそういうつもりはないから」



そう言って俺は峰岡と有栖川が座っている座敷に向かう。



「おまえら、全部知ってたろ」



「い、いや楓なら初対面の人とでも大丈夫かなって、えへへ」



有栖川が目を逸らして言い訳する。



「、、、、ま、いっか。奢ってもらったし」



楓が隣に座る。



「ボク男じゃないから」



「わかったよ!それで、何の話をするんだ?」



「百聞は一見にしかず」



峰岡がスマホの画面を見せてくる。



「何々、第十回イベント開催!?」




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