第8話 閑話休題(2)
「何々、第十回イベント開催!?」
俺は驚きの声をあげる。
「なんだ、パチンコか?」
常連のおじさん達が色めき立つ。
「違う違う、こっちの話」
「なんでぇ、期待して損しちまったぜ」
おじさん達のテンションが急速に縮んでいく。
パチなわけあるかよ。
「ルールは?」
「えーと」
峰岡が読み上げる。
「ルールはこれまで通り、ポイント奪取制です。全クランに共通して配られる30ポイントに加え、敵を撃破することでポイントを奪取し、そのポイント数で順位を競います。敵を多く撃破するも良し、敵のクランを全滅させて30ポイント奪い取るも良し!開催期間は現実世界で明後日の午後七時から午後十時、リスポーンは三回まで。だってよ」
「ふーん、ボク達はいつも通り自衛に徹すればいいよね」
楓がそう言って女将を呼ぶ。
「女将さーん!いつもの!」
「はーい、ただいま」
女将が厨房に引っ込む。
「いつもそんな感じでやってるのか?」
「うん。ねえ、もしかして勝ちに行きたいなんて考えてないよね」
有栖川が俺をまっすぐに見つめる。
コイツら、どんだけ戦いたくないんだ?トラウマになったのか?プライマルとやりあったのが。
「いや、やるからには全力で」
「ボク達だけが真剣になってもね、他のみんなが平和路線を取る限り勝ち目はないよ」
楓の言葉に有栖川と峰岡が頷く。
「いや、ヴァリュートはプライマルに喧嘩売ったんだろ?嫌でも襲いにくるだろ」
「うぅ、喧嘩売ったわけじゃないよぉ」
楓が弱々しい声を出す。
「ふふ、楽しそうね」
女将がオムライスを運んできた。
黄金に輝くトロトロ卵とこいドミグラスソースがテラテラ輝いている。
のぼる湯気はなんとも言えぬ幸福の匂いを孕んでいる。
「ふぁぁ、いい匂いぃぃ」
楓の顔がパッと明るくなる。
「女将さん、唐揚げもらえます?」
「あ、私も」
「かしこまりました。誠也も何か食べる?」
「うーん、おまかせで」
「はいはい」
女将がまた厨房に引っ込む。
「ハナサギ、お前すごいことになってるぞ」
峰岡がまたスマホの画面を見せてくる。
情報交換板?俺になんの関係が、、、、
「掲示板がどうかしたの?」
有栖川が検索する。
「お、大型新人あらわる、、、、だと」
全部バレてる!いや隠してはないけど。
「『ピースコンパス』所属の初心者、(復帰勢の可能性あり)機体名エリアルヘロン、だって。赤蛇単独撃破のことも書かれてるね。大荒れだよ、みんなチートだなんだって」
有栖川が苦笑いしながら言う。
「第十回イベントは平和主義なんか言ってる場合じゃなさそうだけど?」
「、、、、明日ユカさんにどうするか聞こう。あの人もこの掲示板には気づいてると思うから」
峰岡がそう言ってスマホを机に置く。
「ったく、腹減ったなぁ」
⭐️⭐️⭐️
次の日、『スペースウォーリャーズ』にログインした俺たちはユカさんのところへ向かった。
「ハナサギ君、掲示板の件は私も知ってるわ」
ブリッジの艦長席に座ったユカが困ったような顔をする。
「みんなハナサギ君を狙ってるみたいよ。今まで私たちはノーマークだったから、尚更興味を惹いちゃったみたいなのよ」
「なんか、、、、すいません」
「もういいわ。みんなには腹括ってもらうから」
ブリッジの人員の視線がユカに集中する。
「私達を狙ってくるクランが絞りやすくなったから、負けはしないと思う。ここまできたらランキング上位になることを考えましょう」
「分かりました」
俺たちは頷いた。こんな大事になるとは思っても見なかった。
「とは言えプライマルは極力関わらない方がいいわ。人数差がとんでもないから。ブルーファイターズとテリアンも下っ端ならなんとかなると思うけど、、、、ランキング上位勢は防衛戦で相手どった方が得策かもね」
「なら防衛陣地を再構築しないと。デブリ帯にハレルヤ達を送りますか?いつもイベントで使っている防衛陣地を魔改造してもらいましょう」
ミネーの提案にユカが頷く。
「連絡を取ってみるわ」
ユカが改めて俺達をみる。
「明日、イベント開催二時間前にはログインしてちょうだい。スタートポイントは防衛陣地にこちらが設定しておくから。部隊編成も攻撃対象もその時伝えるから」
「分かりました。では」
俺たちはブリッジを後にした。
「よっ、お前ら。とんでもないことになってるな」
エリアルガスターのパイロットのヨッシーが向こうからやってきた。
「プライマルのエレンってやつがお前にブチギレてたぞ」
「エリアルフェンリルの人ですよね?掲示板で?」
「いや、さっき会った時に言伝を頼まれてて」
嫌な予感がする。果たし状のパターンだろ。
「確か、次のイベントで会った時は必ず三回殺すって言ってたぞ」
ほーん、なるほど。会わなきゃ良い話だ。てかなんでわざわざイベントの日?別に今日でも良くないか?変なとこ律儀なんだな。
「ありがとうございます。極力会わないようにします」
俺は笑って感謝を伝えた。随分肝が冷えただろうな。
「おう」
ヨッシーはそれだけでブリッジに入っていった。
「本格的な対人戦の前にいくつか武器の訓練するか」
ミネーが提案する。
「いいね、ハナサギ君を最強のパイロットに仕上げちゃおう」
ヴァリュートが賛成する。
「エナジーブレードの扱いなら任せてよ」
アリスも俄然やる気のようだ。
おいおい、あんまり厳しくしないでくれよ?
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