十三話 神との対話

 望緒がバッと後ろを振り向くと、そこに居たのは水色と白の髪、水色の瞳を持った男性だった。


「だ、誰?」


くだりって言ったらわかる?」


「え、八下って……えぇ!?」


 彼女はあまりの驚きに大きな声を出した。


 八下と言えば、飛希たちが住んでいる空間を創造した張本人。しかも人間ではなく神である。そんな存在が、なぜか今、望緒の目の前にいる。


「なんでいるの? ってか、ここどこ!?」


「うーん、なんて説明しようかね。ここはまず、俺の精神世界」


「せいしん……?」


 こんがらがった頭では、何も理解することができない。望緒の頭にはハテナが浮かぶ。


「俺がお前をここまで呼んだ」


「なんで……?」


「お前に霊力が無いから」


「ん?」


「お前に、霊力が、ないから」


「聞こえなかったわけじゃないから!」


 望緒は思わずつっこむ。八下はそれでケラケラと笑っている。


「霊力が無いってどういうこと? 人間には多少なりともあるんじゃないの?」


「うん、あるな。お前の場合、俺がいて初めて霊力の形成が完了するって感じだろうな」


 彼の言っている意味が一つもわからず、望緒の頭なの中は疑問でいっぱいだった。


 そもそも、霊力が何かもよくわかっていない彼女が、いきなりそんなことを言われたって、理解出来るはずもない。


「正確に言うと、霊力が無いってわけじゃないんだけど……」


「と、いうと?」


「えっとな、人間には霊力がある。それは体内に集約されて存在してるんだ。けど、お前の場合は体内で分散されて存在してる」


 八下が言い終えたところで、望緒は「分散……」と小さく呟く。


「でも、それがなんで八下がいると形成されるの?」


「さあ?」


「さあって…………」


「一つ考えられるとしたら、お前が元いた空間そっちの神の子孫だったりするってことぐらいかな」


 やはり何を言っているのかよくわからず、望緒はふーんとしか言えなかった。


「あ、出水ここに来てから寝つきが悪かったのって……」


「あ〜! ここに呼び出そうと思って何回か失敗したんだよな!」


「私の眠りを妨げないでよ!?」


 彼女が言っても、八下はケラケラと笑うだけで反省は全くしていなさそうだった。


「今、なんか変化ある?」


「……」


 望緒は自分の手や身体を見回し、斜め上を見て何かを感じ取ろうとする。が、何も感じない。


「特に変わりないかな……」


「なるほど。ま、起きてからまた確かめてみてくれ。出水の長男に聞くとかな」


「なんでさっくんが出てくるの?」


 八下は「なんだその呼び方」と言って、まあと話し出す。


「俺以外で、お前に霊力が無いとわかったのは出水の長男が最初だからな」


「えっ」


「そら気づかねえわな」


 望緒はとりあえず、頭の中で状況を整理する。


 今わかっているのは、自分に霊力がないこと。だけど、八下がいれば体内にある、分散された霊力は集約されるということ。そして––––


「私に霊力がないのは……」


「石火矢の人間にはもう言ってあるだろうな」


 彼女はやっぱりと小さく呟いた。

 養ってくれている本人たちに言わないわけがないだろう、そう思った。


 そしてそれが教えられたのは、恐らく真澄たちが大丈夫かと訊いてきた日だろうと予想する。


「急に霊力できたら怪しまれない?」


「まあ、怪しまれないことはない。そこは望緒の判断に任せるよ」


「任せるって……。あ」


 望緒は何かを思い出したように、急に大きな声を出した。


「何?」


「出水の神社って、滝あるじゃん?」


「あるな」


「そこでなんか感じたんだけど、それは八下と関係あるの?」


「––––いや、それは俺じゃなくて……」


 そこまで聞いた時、望緒の視界が少しぐらついた。座っているが、倒れそうになって慌てて右手をついた。


「そろそろ時間だな」


「え、時間?」


「朝が来るんだ。続きは次に話す。また呼ぶから」


「わかっ、た……」


 彼女の瞼はだんだん下がっていき、そのまま視界が暗くなった。

 目を開けると、天井があった。外は少し明るくなっていて、もう起きる時間になったのだとわかった。


 寝転がったまま自分の右手を見て、あれは夢だったんじゃないかと考えた。


 ––––一応、確認しておこう。


 上半身を起こすと、八下の精神世界でやったように、手や身体を見回す。何か感じるような、感じないような。


 そっと目を閉じ、両手をキュッと握ると、何か体内にあるような感覚がした。


「わっ」


 感じたことの無い不思議な感覚に、思わず声が出る。が、周りには聞こえていなさそうであった。


「これが、霊力なのかな……」


 確証を得たい気持ちが募る。


 ––––でも、訊くわけにもいかないしなあ……。


 既に霊力が無いのだと知っている者に訊いてしまえば、なぜ急に霊力が現れたのだと、怪しまれる可能性がある。


「あ、千夏……もダメか」


 もしも爽玖本人にその話題が行ってしまうと、それこそ怪しまれてしまう。だから、千夏に言うのもいいとは言えない。


「––––まあ、八下はまた呼んでくれるって言ってたし、その時に訊こう」


 そう独り言を呟いて、布団を片付ける。巫女服に着替え、飛希たちとご飯を食べ、出水の神社へ向かった。

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