十四話 劣等感
神社で仕事をしていると、望緒はふと気になることができた。
「いつまでいるんですか?」
彼女は様子を見に来ていた徳彦に質問した。
「うーん、あと一、二週間ぐらいかなあ?」
どうやらほかの村に行くには四家の許可が必要らしく、そのためには文を送らねばならない。それを向こうが確認して、返事を待つ。
風の村には既に文を送ったのだが、まだ返事が返って来ないらしい。
「え、なんでです!?」
「風宮の人たちは気難しいから。子どものほうは嫌いじゃないけど、大人たちは大嫌い」
隣に座っていた千夏が、ムスッとしながらそう言った。
望緒はここ数日過ごしてわかったが、千夏は物事をハッキリキッパリ言う性格らしい。望緒は逆にそこが好きだった。
「風宮は八下の右脚を祀ってるんだっけ?」
「そうやよ。最初のうちは『なんでうちが右脚なんだ』って騒いどったらしい」
「へえ」
そんな話をしていると、伝書鳩が鳴きながら飛んできた。当主を見つけるなり、急降下して降り立った。
望緒たちも内容を確認すべく、当主がいる場所へ向かった。
「村に“念”が現れたらしい。この間のものよりも力が強いそうだ。
出水の当主はそう指示を出した。
ちなみに碧仁というのは、爽玖と千夏の父親であり、次期当主。パッと見爽玖そっくりである。
千夏は当主の指示を聞くなり、納得していない表情をした。声には出さなかったが、顔には出ている。
◇
村に着くと、村人たちのどよめきが聞こえた。逃げ惑う者、腰が抜けて逃げられない者が数多くいる。
まずは、退治に当たった四人が村人たちから“念”を遠ざける。
そして、救助に当たった三人が、“念”に近い場所にいる村人から、安全な場所まで避難をさせた。
望緒は避難させている時に後ろを振り返り、飛希たちを見た。四人は各々霊力を駆使し、“念”に攻撃を与えている。
が、それはなかなか当たってくれない。“念”は軽やかに水も火も避けている。
––––私は、何も出来ない……。
その時に初めて、彼女は己の無力さを自覚した。いや、正確に言えば無力ではない。村民の避難も立派なことだ。
だが、霊力面では自分は何もしてやれないのだと、悔しい思いがあった。
確かに彼女の
避難場所まで着くと、千夏もちょうど一人連れてきていたところだった。お婆さんに優しく声がけをし、微笑む。
くるっと身体の向きを変えると、優しい表情から一転、悔しそうな、怒りのような表情に変わった。
望緒は声をかけるべきか迷い、だが、まずは村人の避難が先だと考え、また村の方へ向かった。
◇
「いない人などいますかー?」
真澄は避難させた村人たちに、大きな声で訊いた。彼らはお互いの顔を見合わせたり、キョロキョロと周りを見る。
どうやら、避難し遅れた人はいないようであった。三人はそれを知って安堵する。
そして、望緒は先程の千夏の顔が忘れられないでいた。横目でチラッと彼女の方を見る。先程より穏やかな表情だっだが、やはりどこか悔しそう。
「あ、あの……千夏ちゃん」
望緒が声をかけると、千夏はびっくりした顔で彼女の方を見た。
「な、何……?」
「あ、ごめんね? なんか、悔しそうだったから」
千夏はパッと下を向いてしまった。恐らく、自分では顔に出ていると思っていなかったのだろう。
「––––私はさ、お兄ちゃんより霊力ないんよ。別にみんなはそれほど気にしとらん。霊力が限りなく少ないわけじゃないし、どちらかと言えば結構ある方やから」
彼女の表情は寂しそうだった。でも……と続ける。
「やっぱり強めの“念”の退治に当てられるのはお兄ちゃんばっかでさ、私が当てられることは少ないの。それが悔しいん」
千夏の年齢は十五歳、望緒の一個下。そんな彼女は今強い劣等感を感じている。
その気持ちは、望緒にもよくわかった。自分より頭もよく運動もでき、人から愛される、そんな弟が身近にいたから。
だけど、こういう時なんと声をかければ良いかまではわからなかった。
しばし沈黙が続く。それを切ったのは真澄。
「はいはい、私たちがそんな顔しちゃダメでしょ〜。笑顔笑顔」
彼女はそう言って人差し指で自分の口角を上げた。それを見て二人は目をぱちくりさせる。
「……そうですね。村人を助けるためにいるのに、こんな顔してちゃダメですね」
言うと、千夏は頬を両手で叩く。ぺちぺちと可愛らしい音がした。
望緒もつられてにこやかな表情になった。
別に、暗い表情をせず明るい表情をしていたとしても、村人の活気が戻るわけじゃない。けど、不安は連鎖するもの。少しでも不安を
「お兄ちゃんたちが退治し終わるまで、私らは村人に被害が無いようにせなあかんねん」
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