十二話 あるはずのもの
「ん〜」
望緒は神社に着くなり伸びをする。
––––まだ頭ふわふわするなあ。ちゃんと寝てるはずなのに。
睡眠時間はきっちり確保しているのだが、どうも眠気がおさまらない様子。今朝から何度もあくびをしている。
「おはよ」
あくびをしていると、千夏が駆け寄って挨拶をしてきた。望緒もそれに笑顔で返す。
「おはよー!」
その後ろで、真澄と徳彦が二人をにこやかに眺めていた。
「望緒ちゃん、
「そうだね。なんだか、嬉しいね」
眺める二人は、さながら実の親のようである。
今日も昨日と全く同じ仕事内容だが、当たり前に来る人間は違う人たち。望緒はその人たちと交流を深めつつ、仕事をしている。
飛希たちは御守りを授けるのとは別の仕事で、村の人々の役に立っている。
望緒たちが御守りを授けている間、飛希と爽玖は木の傍で最近の村の様子を話し合っている。
「こっちは特に問題無いな。“念”の出没もいつも通り」
「こっちもかな。大した被害は出てないよ」
ただし、出没しないわけではない。どれだけ弱い“念”でも、四家の人間でない者ばかりの村に出没してしまえば、被害は大きい。
だから、常に注意を払っておかねばならない。
「飛希〜」
二人が話していると、望緒が小走りでやって来た。
「徳彦さんたちが呼んでるよ」
「わかった。すぐ行く––––」
飛希が歩き出そうとした瞬間、彼が常日頃つけている面の紐が、木の枝に引っかかる。
数歩進めると、結ばれていた紐が解け、面が地面に落ちる。
そして、彼の赤い瞳が
「……!」
落ちた瞬間、望緒とバッチリ目が合った。飛希は大慌てで左目を隠すが、冷や汗が止まらない。望緒は訳がわからず、首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや……、大丈夫?」
飛希の言葉の意味がわからず、望緒はまた首を傾げる。
「何が? とりあえず、私もう戻るね?」
そう言って、望緒は持ち場に戻ってしまった。
「……遅れて症状が出る人、今までにいた…………?」
「いや、いなかったな」
二人がなんの話をしているのか、検討もつかないが、望緒が特例であることは確かだろう。
「とりあえず、真澄さんとこ行くぞ」
爽玖が言うと、飛希は不安げな表情で無言のまま頷いた。その顔を見て爽玖は、飛希の背中を思い切り叩く。
「ああ、来てくれた。……どうしたの? そんな顔して」
「えっと……お面の紐が枝に引っかかって…………望緒に見られた」
飛希が言うと、その場にいる全員が目を見開く。中には焦りと不安の表情も見えた。
「望緒ちゃんは……!?」
「それが––––」
◇
望緒の様子を見るべく、真澄たちは彼女の元へ走って向かった。のだが……
「あら……」
そこにいたのは、いつも通りの望緒。何か異変が起きているわけでも、様子がおかしいわけでもなかった。
「ど、どういうこと……?」
「あれ、どうしたんですか?」
千夏と喋っていた望緒は、息を切らしている真澄たちを見て、笑顔で訊いた。
「な、なんともない?」
「?」
「やっぱり……」
飛希の隣に立っていた爽玖は、一人だけ冷静に呟いた。
「え、なに、やっぱりって」
「……場所変えるか」
◇
望緒と千夏にはそのまま御守りを授けていてくれと頼み、飛希、爽玖、真澄そして徳彦が場所を移動した。
「それで、『やっぱり』ってどういうこと?」
飛希が訊くと、爽玖は一つ頷いて口を開く。
「単刀直入に言うと、望緒には霊力がない」
それを聞いて、三人は驚いた。
驚くのも無理はなく、それは人間には少なからず霊力が存在しているから。国や地域によって呼び方は様々だが、そういった力は存在している。
だと言うのに、望緒にはそれが無いという。
「え、なに、どういうこと? なんで?」
「落ち着きなさい」
真澄に宥められ、飛希は前のめりになっていた身体を元に戻す。
「ふむ……霊力がない、か。これは流石に初めてな事例だ」
「初めて喋った日、手を握ったんすけど、霊力が全く感じられなかった」
「そっか、話してくれてありがとう。とりあえず、様子を見ようか」
徳彦はそう言って微笑んだ。
◇
「おやすみなさーい」
望緒が言うと、三人はおやすみと返事をした。彼女はそのまま部屋へ戻り、布団に入る。
その日も、望緒は思考をする間もなく眠りに落ちた。
◇
「んん……?」
途中で目が覚め、寝ぼけながら上半身を起こす。なかなか開かない目を何とかこじ開けると、広がっていたのは真っ白な景色。
何も無い、殺風景な場所。
「え!? なにここ!?」
もう一度目擦るが、景色は一切変わらない。先程と同じく、真っ白な空間。
「はあ……?」
「お、起きた」
「!?」
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