十話 龍神を祀る祠
「……?」
––––誰だろ。
ひょっこり出てきた男性は、飛希とそう変わらない歳頃。彼とは違って豪快に笑う、ハツラツとした性格だ。
「見ないうちにでかくなったな」
「いや、爽玖のがでかいじゃん」
とは言うものの、爽玖と言われた男性は飛希より少し背が高い程度で、大差はない。
「お」
爽玖は急に望緒の方に振り返った。彼女はそれにビクッと反応する。
「あんたが石火矢の巫女になったって人?」
「え、あ、はい……!」
「俺は出水爽玖、よろしく」
「よ、よろしくお願いします!」
爽玖は割と初対面でもグイグイ行けるタイプらしく、望緒は少しだけ戸惑った。
「さて、話はそのぐらいにしよう。
「ん」
老人が呼ぶと、今度は女性が出てきた。髪色も目も爽玖と同じで、望緒より少し背が低い子。ジト目がまっすぐ望緒を見据える。
「神社を案内してやれ、私たちは話をするから」
彼が言うと、千夏と呼ばれた女性はこくりと頷いた。
◇
飛希たちは互いの状況確認のために話し合いに行った。望緒たちが行かないのは、話が少々彼女たちにとって難解であるから。
望緒は千夏によって神社の案内をされている。
「ここが本殿。あっちが御守りを授けるところ」
「へえ……」
辺りをざっと見るが、やはり石火矢の神社とは少し違う構造をしている。
「あ」
「ん?」
「自己紹介忘れとった」
望緒はそれを聞いて、そういえばと呟いた。どうやら、お互いにそれを忘れていたらしい。
「私は出水千夏。爽玖の妹で、十五歳」
「あ、じゃあ私より年下なんだ。私は神和住望緒、十六歳です」
「敬語はいらん。私の方が年下なんやし」
「そう? じゃあそうする!」
千夏も望緒と同じく巫女服を着ているが、色が違った。彼女は白い着物に青い袴だった。
「巫女服は神社によって違うの?」
「うん、そう。見分けやすいように区別されとる」
「すご」
望緒が言うと、千夏はなぜか自信に満ちた表情をしていた。無表情だが、目がそう物語っている。
「じゃあ、最後に紹介するところあるから着いてきて」
「はーい」
そう言われて着いて行った場所は、滝があるところ。大きな滝の音が岩に反響している。
「涼し〜」
「うん、私も暑い時はここに逃げ込む」
「いいね、ここ……あ、あれが紹介するって言ってたの?」
望緒が指さしたのは、
「そうやで。ここにはあの滝に宿る龍神様を祀っとる」
「龍神……!」
望緒はそのかっこいい響きに思わず反応する。
「れっきとした名前あるらしいんやけど、何読んでもわからんから、私たちは
「なんか呼び名までかっこいい!」
「んな、この名前考えた人すごいわ」
沈黙が流れ、静寂の中滝の音だけが響き渡る。二人は祠をじっと見つめ、そして望緒が口を開く。
「……参拝してもいい?」
「うん、ええよ。じゃあちょっと手間やけど、本殿から行こ。そっちが正式なん」
望緒はわかったと言って、千夏の隣を歩く。歩いていると、何か滝の方から不思議な感覚がした。
「……?」
「どうかした?」
「ううん、なんも」
きっと気のせいだろうと言い聞かせて、本殿へ向かった。
着くと、徳彦からもらった小銭を賽銭箱に投げ入れ、二礼二拍手をし、手を合わせる。
––––来たはいいけど、願うことないや。えーっと……。
そこでパッと思い浮かんだのは、あの三人。
––––仲良く過ごせますように。
願い終わると、一礼をした。
「えっと、本殿は創造神の両腕を祀ってるんだよね?」
「そう」
石火矢が胴体、風宮が右脚、雷久保が左脚というふうに祀っているが、そこで一つおかしな点がある。
「あれ、頭は?」
そう、どこにも頭部を祀っている神社が存在しないのだ。この空間の神社は摂社、末社を除くと四つしかない。
ならば、頭部は摂社に祀られているのだろうか。
「わからん」
返ってきたのは、思わぬ言葉。
「え、わかんない……?」
「うん、わからん。千年前になんか色々あったらしくて、その時に頭がどっか行ったらしい」
「どっか行く……?」
望緒はそれを聞いて、頭部に手足が生えて走っていく様を想像した。
「いやいや、ないない」
「? まあとりあえず、どこにあるかわからんから、今四家が祀る上で守っとるん」
「守る?」
「うん、頭が見つかったら復活させるから、それまで害が無いようにせなあかんの」
「あ、なるほど」
と、納得したところで先程の龍神が祀られているという祠に来た。本殿と同じように小銭を入れ、二礼二拍手、同じお願いをして一礼した。
「なんや、ここにおったん」
後ろから声がし、二人が振り返ると、そこには爽玖と飛希がいた。
「話は終わったん?」
「うん、仕事に戻るみたいだよ」
「わかった。じゃあ行こ、望緒ちゃん」
千夏に手を差し伸べられたので、望緒は手を取る。
「うん!」
しばらく滞在するため、望緒も巫女としての仕事は手伝う。もちろん、飛希や徳彦たちも御守り等を授ける以外に、事務作業も手伝う。
「やることは向こうとなんら変わらんから、安心して」
「わかった」
◇
夕方、六時半頃だろうか。ようやっと仕事を終えることができた。
ここも石火矢と同じく、平日でもかなりの人がやってくる。
本殿だけでなく、祠の方にもかなり人が行っていた。行っていない者もいたが。
「あ〜、疲れた」
「おつかれ。明日もがんばろ」
「うん……」
一日の仕事が終わったというのに、千夏はもう既に明日のことを考えていた。
「望緒」
「あ、飛希」
「お疲れ様、帰ろうか」
「はーい」
帰る場所は出水家が用意してくれた家。とりわけ広いわけではないが、四人が過ごすには十分すぎる場所だ。
その夜、望緒は疲れたからか、やることを済ませたらすぐに寝てしまった。
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