七話 心配高じて

「望緒ちゃん、大丈夫!?」


 家に帰るなり、真澄が半泣きで望緒に飛びついた。彼女が大丈夫だと言っても、肩を掴んでブンブンと振り回す。そのせいで望緒は目を回した。


「落ち着いて」


 徳彦がなだめてようやっと落ち着いてくれた。


「ごめんね、僕らがちゃんとついてれば良かったのに……」


「いや、簡単について行っちゃった私が悪いわけで……!」


 申し訳なさそうな表情をしている徳彦に、望緒は咄嗟とっさに否定した。


 ––––あの時、大声で呼ぶことだってできたはずなのに……。


 望緒は何もしなかった自分に腹を立てる。あの時こうしていたら、ああしていたら、迷惑をかけずに済んだかもしれないのに、そんな風に思った。


 真澄と徳彦が心配そうに見つめるなか、ただ一人––––飛希だけが不服そうな表情をしていた。


 その日の夕ご飯は、いつも通り賑やかだが、どこか沈んだ空気になっていたのを、望緒はひしひしと感じた。



 望緒が一人部屋で静かに字の練習をしていると、襖の向こう側から飛希の声がする。


「入っていい?」


「うん、いいよ」


 彼女が許可を出すと、飛希が入ってきた。だが、いつものにこやかな表情ではなく、真剣な表情だ。


「今日のことだけど、なんでついて行ったの?」


「……何もできなかったから。大声で呼ぶことだってできたのに」


「そうだね」


 その言葉で一時会話は止まる。静寂の中、使用人が話しながら歩いていく音だけが聞こえる。


「––––僕はさ、望緒みたいに念について行って後悔したことがある」


「!」


「詳しいことは今は言えないけど、あの時の望緒と当時の自分を重ねて、あんな大きな声を出した。ごめんね」


 望緒は首をブンブンと横に振る。


「心配、してくれたんだよね?」


「うん」


「なら当然というか……私もあんなふうになっちゃうかもしれないし」


 そう言っても、飛希はいつもの微笑みを取り戻してくれない。だから望緒はもう一つ、自分の本心を伝える。


「あ、あとね、私、飛希が一番最初に駆けつけてきてくれたの、嬉しかったよ」


「! ……ふふ、なにそれ」


 飛希はようやっと笑ってくれた。


 場を和ませるために、その後は他愛もない話をした。先程の静寂とは一転、笑い声が部屋中に響き渡った。



「あ、真澄」


 別室で徳彦が真澄の名を呼ぶ。


「どうしたの?」


ふみを出しておいてくれないかな」


 徳彦が言うと、真澄は机の引き出しから紙を取り出し、筆に墨をつけ、字を書き始める。


「ねえ」


 文を書いている真澄が、徳彦に話しかける。彼は彼女の近くまで行き、隣に座った。


「そろそろ望緒ちゃんも、村に行ってもいい頃だと思うのよね」


「たしかに、みんなに巫女ができたっていう報告も兼ねて、行ってもいいかもしれないね」


「お義父さんに確認してみましょ」


 真澄はワクワクした表情でそう言う。徳彦はそれに返事をして、彼の父に話をすべく、立ち上がって部屋を出た。



「望緒ちゃんっ」


 真澄が楽しそうに襖を開けた。


「わっ」


「ちょっと、母さん! 声くらいかけなよ」


「あ、ごめんなさい」


 謝ってはいるものの、何も反省している様子は伺えない。


「ね、行かない?」


「? どこにですか?」


「村!」


「……村?」

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