七話 心配高じて
「望緒ちゃん、大丈夫!?」
家に帰るなり、真澄が半泣きで望緒に飛びついた。彼女が大丈夫だと言っても、肩を掴んでブンブンと振り回す。そのせいで望緒は目を回した。
「落ち着いて」
徳彦が
「ごめんね、僕らがちゃんとついてれば良かったのに……」
「いや、簡単について行っちゃった私が悪いわけで……!」
申し訳なさそうな表情をしている徳彦に、望緒は
––––あの時、大声で呼ぶことだってできたはずなのに……。
望緒は何もしなかった自分に腹を立てる。あの時こうしていたら、ああしていたら、迷惑をかけずに済んだかもしれないのに、そんな風に思った。
真澄と徳彦が心配そうに見つめるなか、ただ一人––––飛希だけが不服そうな表情をしていた。
その日の夕ご飯は、いつも通り賑やかだが、どこか沈んだ空気になっていたのを、望緒はひしひしと感じた。
◇
望緒が一人部屋で静かに字の練習をしていると、襖の向こう側から飛希の声がする。
「入っていい?」
「うん、いいよ」
彼女が許可を出すと、飛希が入ってきた。だが、いつものにこやかな表情ではなく、真剣な表情だ。
「今日のことだけど、なんでついて行ったの?」
「……何もできなかったから。大声で呼ぶことだってできたのに」
「そうだね」
その言葉で一時会話は止まる。静寂の中、使用人が話しながら歩いていく音だけが聞こえる。
「––––僕はさ、望緒みたいに念について行って後悔したことがある」
「!」
「詳しいことは今は言えないけど、あの時の望緒と当時の自分を重ねて、あんな大きな声を出した。ごめんね」
望緒は首をブンブンと横に振る。
「心配、してくれたんだよね?」
「うん」
「なら当然というか……私もあんなふうになっちゃうかもしれないし」
そう言っても、飛希はいつもの微笑みを取り戻してくれない。だから望緒はもう一つ、自分の本心を伝える。
「あ、あとね、私、飛希が一番最初に駆けつけてきてくれたの、嬉しかったよ」
「! ……ふふ、なにそれ」
飛希はようやっと笑ってくれた。
場を和ませるために、その後は他愛もない話をした。先程の静寂とは一転、笑い声が部屋中に響き渡った。
◇
「あ、真澄」
別室で徳彦が真澄の名を呼ぶ。
「どうしたの?」
「
徳彦が言うと、真澄は机の引き出しから紙を取り出し、筆に墨をつけ、字を書き始める。
「ねえ」
文を書いている真澄が、徳彦に話しかける。彼は彼女の近くまで行き、隣に座った。
「そろそろ望緒ちゃんも、村に行ってもいい頃だと思うのよね」
「たしかに、みんなに巫女ができたっていう報告も兼ねて、行ってもいいかもしれないね」
「お義父さんに確認してみましょ」
真澄はワクワクした表情でそう言う。徳彦はそれに返事をして、彼の父に話をすべく、立ち上がって部屋を出た。
◇
「望緒ちゃんっ」
真澄が楽しそうに襖を開けた。
「わっ」
「ちょっと、母さん! 声くらいかけなよ」
「あ、ごめんなさい」
謝ってはいるものの、何も反省している様子は伺えない。
「ね、行かない?」
「? どこにですか?」
「村!」
「……村?」
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