第6話 惑星エデン100年前 それから
100年前、砂漠と密林は冷戦状態にあった。一触即発状態の両国だったが超大型彗星の至近距離ニアミスのせいでハフリンガー大陸、特にエクウス大陸に接したバルバリ褶曲山脈とシャイヤー湾沿岸は壊滅的打撃を受けた。
長きにわたり観測してきた大陸の変わり果てた姿と、観察対象だった獣人と人間の絶滅も想定されるような惨事に観測船ヴィマーナの多くの宇宙人がショックを受け、調査員の八割がセレブロ内部のアモンズホーンで眠る事態まで起きた。
宇宙人たちの知識を凝縮した有機ネットワークセレブロも大陸が元の状態に戻るまで最低1000年から5000年はかかるだろうと予想していたのだが、実際の大陸はわずか100年に満たない驚異的なスピードで復活を遂げた。奇跡としか表現のしようがない。
この急速な回復も、自然のマナが関与していたとしたら辻褄が合うのだが、宇宙人にはマナは見えないし、感知できない。
そこで期待されたのが、かつて累代飼育実験の結果、宇宙での生活に順応したミアキスヒューマンの末裔、ネオ・ミアキスたちだった。
現地のミアキスヒューマンと違い、白毛種、ツートンや三色の斑模様、黒茶の瞳に青や黄色のオッドアイ、大きく反り返ったものや中ほどで折れ曲がった耳、げっ歯類のリスやネズミのように変化した形状の尾、硬く短いものや長く柔らかい美しい被毛を持ち、宇宙人たちと言語で交流することが出来た。
彼らに、マナの活動を報告させる計画が持ち上がったのだ。
光学カメラで姿をとらえることは出来る。だがそれではダメなのだ。宇宙人たちはマナの発生と消滅のメカニズムを、いかにしてマナが生物にかかわっているのか、その肉体修復あるいは復元の工程の一部始終の詳細な観測データを欲しているのだ。
結果は芳しいものではなかった。「それらしい物質は観察することが出来ない」彼らはマナを視る術を失っていたのだ。
ならば現地の野生種を再度勧誘、ネオ・ミアキスと交配させて能力を取り戻させようというプロジェクトが発足、新たなミアキスヒューマンの捕獲が実行に移された。
しかし、この時率先して任務遂行に当たったのは宇宙人たちの中でも若い世代だった。観測データを録る最終目標に向けて気持ちが逸るあまり、根気強い説得と協力を怠り、誘拐、連れ去りの実力行使に出る愚策を犯した。
宇宙人たちは「観察者」と呼ばれ、ミアキスヒューマン達から警戒される憂き目を見ることとなった。
それが今から80年ほど前の話だ。
不思議なことに、宇宙人たちの軽率な行動をミアキスヒューマン達は口伝として残し、80年経過した今日でも彼らミアキスヒューマン達は竜以上に最大限警戒すべき存在として宇宙人たちを認識しているが、そのわずか20年前に起きた禁忌のマナの発動は誰も口にしない。話題に上ることも無い。サピエンスも全く伝承一つ残していない。空白期間となっている。
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