第12話 自分にできること

 マリはオーウェンを信じ走り出した。

 化物をみたときのオーウェンの目は憎しみに取りつかれたような鋭さと、あの日の責任を負った悲しさを宿していた。

 そのままじゃ駄目だ、と直感でわかった。だから、どうにか思いとどまって欲しくて自分の思いをぶつけた。

 オーウェンは目を大きく見開いて、戸惑っていた。

 自分の思いを伝えると、オーウェンは固まっていたが、すぐにマリの目を見た。

 その目は光を宿していて、オーウェンの持つ、深い青色の綺麗な瞳が輝いていた。

「俺も生きて帰る」

 そう約束し、マリの頭にオーウェンの手が置かれた。優しい手つき。

 オーウェンの声は落ち着いていて、マリは「ああ、もう大丈夫だ」と思った。

 だからマリはオーウェンを信じて駆け出した。


「でも、これでいいのかな」

 自分が化物にできることはない。生き延びることが最優先だ。

 それでも何か、自分も助けになれないだろうか、と思い始めた。

 マリの周りには多くの人が同じように悲鳴を上げながら、走っていた。「早く逃げろ」「荷物を持つな急げ!」「隣の区画へ!」

 子供の泣き声もする。

 家族で逃げる人が目に入った。

「父さんは大丈夫かな」

 マリは走る方向を変えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る