第10話 大切なもの
コナーとマリの二人から離れ、オーウェンは串焼きの店に来ていた。
注文するとその場で焼き始め、四角い肉が鉄板でジュウジュウと音を立てる。店主がひっくり返せば焦げ茶色の焼き目がついていて、肉の香りがオーウェンのもとに届く。
串焼きは聴覚、視覚、嗅覚から食欲を刺激する。
全ての面を焼き終えると、醤油がかけられた。鉄板に落ちた瞬間、醤油が熱されジュワッと香ばしい香りに変わる。その深い香りに喉が鳴る。
串を受け取り、代金を渡す。今すぐかぶりつきたい。が、いつもならここで三人ですぐに食べていたことに気づく。マリが解説をして、コナーが質問をする。美味いと言い合って二人が笑う。
ずっと放っておいてほしいと思っていたのに、いざ一人になると心に物足りなさを感じた。
二人のところへ戻ろうとしたとき、オーウェンは声をかけられた。
初日の唐揚げ屋の店主だ。
「この前はありがとうね。助かったよ」
「あぁ。っ……」
聞きたいことがあり、言葉を探す。
その間彼女はオーウェンの言葉を静かに待ってくれていた。
「どうして、ここの人達は笑って、明るく振る舞うことが出来るんだ……」
オーウェンはあの日から笑えなくなっていた。
苦々しい顔つきで尋ねるオーウェンに、店主は眉を八の字にして答えた。
「あんたもつらい思いをしてきたんだね。最近は平和だけど、いつ何が起こるか分からない。ここは大変動の前も災害が多かったからね。
ここに住む人は毎日を大切に生きる人が多いんだ。明日何が起こるか分からないから、今日を楽しく過ごせるようにしているんだよ。最初からそうだった訳じゃないし、皆がそういう考え方をしてるわけじゃないけどね」
店主は目を伏せて語った。
「助け合って、化物に試行錯誤してね。やっとここまできたんだ。とにかくね、あんたもつらかったらマリちゃんやコナーでも、私らでもいいから頼りな。
生きてりゃなんとかなるもんだよ」
店主は最後に笑ってオーウェンの背中をバシッと叩き、「また店に来てくれ」と言って帰っていった。
失うのが怖いなら最初から関わら無ければいい、そう思っていたのに。コナーは勝手にオーウェンを旅に連れ出し、マリは毎日構ってくる。いつしかそれが当たり前になって、辛い気持ちが和らいだ気がした。
失うのが怖いというのは、大事だからだ。
オーウェンにとってコナーもマリも、失いたくない大切な人になっていた。
だから毎日を大切に、楽しく生きる。
コナーも似たようなことを言っていた。旅に出たときだったか。無理やり車に乗せられて「なんでこんなことを」と言ったのに対してコナーが言った。
「どうせなら好きなことをして生きたいと思って」
自分が楽しく生きていても良いのだろうか。
そんなことを考えながらオーウェンは二人の待つ場所へ戻った。コナーが笑いながら「俺の分は?」と聞いてくる。あるわけないだろ。
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