第9話「英雄女学園に行こう2」
俺たちが乗るドラゴンが急降下して、地上に降り立つと武装した兵士が寄って来る。
「アニエス様! 飛竜たちの事情はわかりましたか!?」
責任者らしいおじさんが早口で問いかけた。
どうやらアニエスさんが飛竜と会話できるのは知られているらしい。
「ええ。卵を盗んだ大バカがいるみたいよ。この子も激怒してるから」
と言ってアニエスさんが竜の背中をポンと叩くと、「ガルルルル」といううなりが響く。
「ひいいいいい」
兵士たちの半数と、離れた位置にいる民衆が恐怖の悲鳴をあげて、しりもちをついた。
強いドラゴンは単体で一国を滅ぼすほど強大、という認識はこの時代にもあるようだ。
「ただちに手配して犯人を見つけて、卵を取り返さないと、わたしでも抑えきれないかも」
事実なんだろうけど、脅しのようでもある。
「取り急ぎ手配いたします」
責任者らしいおじさんは敬礼をして、大急ぎでどこかに駆けていく。
俺の存在は完全に無視されていたのはありがたい。
「あの、よかったら魔法で探してみましょうか?」
「そんなことできるの? 相当高度な魔法だと思うけど」
俺が申し出るとアニエスさんは怪訝な顔になる。
まあたしかに思いついてから開発するまでに一か月もかかったからな。
「とりあえずやってみます」
どう謙遜すればいいのかよくわからなかったので、魔法をさっそく使ってみる。
「ここから東にありますね。ドラゴンの翼ならすぐに行けるでしょう」
と告げた。
ドラゴンの飛行速度は生物の中で五指に入る。
「行ってみましょう」
俺の言葉にアニエスさんは即断即決した。
疑いもしないところに好感を持てる。
標的たちがいたのは廃村だった。
移住したのかどうかまではわからないが、俺が指定した場所にドラゴンは着地する。
地響きとともにドラゴンが吠えると、驚きまじりの悲鳴が聞こえた。
建物の中から男たちが顔を出す。
「ま、まさか、アニエス・ヴァリオン!?」
「ど、『
アニエスさんとドラゴンを見た男たちの驚きと怯え方が尋常じゃない。
まるで魔王と遭遇した村人のようだ。
初見ですぐわかるくらい彼女たちは有名らしい。
「無駄な抵抗をせず、おとなしく降伏して飛竜の卵を返しなさい! そうすれば命は助けてあげる」
アニエスさんは厳しく高圧的な命令口調で要求する。
「お頭……」
「『
頭と呼ばれた男の決断は早かった。
自分の体の半分くらいの大きさの灰色の卵をそっと地面に置く。
「命は助けてくれるって本当だろうな?」
賊の男たちは媚びるような目でアニエスさんを見上げる。
「わたしは約束を守る! お前たちがバカなことをしなければね」
じろっと鋭く睨むと男たちは首をすくめた。
「じゃあ拘束しますね。【
白くて丈夫な縄で縛りあげる魔法を発動し、男たち全員をがっつり拘束する。
「な、何だ、この魔法は!?」
「へーやるわね」
驚く男たちをよそに、アニエスさんは感心した。
「じゃあ戻りましょう。フードル、よろしくね」
彼女が声をかけるとドラゴンが器用に飛竜の卵を口に咥える。
「男たちの縄は俺が持つので、ぶら下げていけばいいんじゃないでしょうか?」
「あははは! いいわね! そうさせてもらうわ!」
俺の提案がツボに入ったらしく、アニエスさんは大笑いして賛成した。
そして本当に男たちをぶら下げたままドラゴンは飛行し、関所に戻って先に卵を飛竜に返す。
『おおおお! これだ! 奪われた子は!』
『雷竜殿とその乗り手に我らは心から感謝する!』
飛竜たちは歓喜の咆哮をあげる。
『盗んだ奴らは人の法によって裁いてもいい? おそらく死罪になるはずよ!』
とアニエスさんが竜言語で言った。
『本来なら我らが牙と爪で引き裂きたいのだが、迅速に対応していただいた貴殿らの顔を立てて、任せるとしよう』
飛竜の代表はそう言って大切そうに卵を爪でつかみ、飛び去る。
次にアニエスさんは地上で待っている兵士たちの責任者に状況を説明した。
「あとこいつらを全員死罪にすれば丸くおさまるわ!」
ドラゴンにぶら下げられて連れ回された賊たちは、みんな気絶して泡を吹いている。
「承知いたしました。ヴァリオン様、ご協力感謝いたします」
と偉い人が言うと全員が彼女に敬礼した。
俺が魔法を解除すると、改めて兵士たちが縛り上げる。
「ずっと魔法を維持するなんて、坊や相当な使い手よね。何者?」
アニエスさんはこっちを見て、真剣なまなざしで問う。
「ルネスって言います。実は英雄女学園に向かうところで」
と言って招待の手紙を取り出して、彼女に見せる。
大陸共用語なので普通に読めるだろう。
「へえ! あそこは教職員でも男子禁制なのに、プリシラ様がよく特例を認めたわね! なるほど、本当に優秀なんだ!」
アニエスさんは大いに感心していた。
プリシラの男嫌いは相変わらずなのか……。
「わたしの問いに対する答えとしては及第としておきましょうか」
ごまされないぞ、とアニエスさんは暗に言ってから笑顔を見せる。
「そういう事情ならわたしが送ってあげる。フードルなら今日中につくわよ!」
と彼女は提案した。
これは予想してなかったラッキーである。
移動するなら速いほうがいいだろうし、馬車での旅は飽き飽きしていたところだ。
「ぜひお願いします。馬車の人にだけ説明すれば出発できます」
と俺は答える。
「なるほど! この子が乗っていた馬車の馭者はいる!?」
アニエスさんの呼びかけに見覚えのある男性がおそるおそる出てきた。
「この子はわたしが目的地まで送り届けるわ! あとはよろしく」
「か、かしこまりました、ヴァリオン様」
あっさりと話は終わる。
アニエスさんは有名ってだけじゃなくて、発言力もかなり強いみたいだ。
「じゃあ行くわよ!」
アニエスさんが言うと同時に雷竜が翼を動かして浮上する。
そしてあっという間に加速して、英雄女学園へ到着した。
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