第7話「英雄女学園入学試験3」
「し、信じられない力。さすが史上最年少で聖女に認定されたドルシラさんね」
と教師が絶賛し、女子生徒たちみんなが崇拝する表情でドルシラを見つめている。
ローズやサビーナと違って、ドルシラは名前が出た段階から好意的な扱いを受けていた。
それだけ関係者の間では有名になっている。
「いえ、わたしはまだ未熟です。わが師ルネスのほうがずっと優れた癒しの力を持っておりますので」
とドルシラは微笑んで告げた。
彼女は謙遜したつもりはない。
ルネスほど偉大な存在が身近にいるのだから、現状で満足してはいけないと思っている。
「ドルシラさんの師……? どんな方なのですか?」
その場にいる誰もが彼女の発言に興味を持ったので、ドルシラは機嫌よく自慢するようにルネスのことを語った。
「そ、そんな方が?」
「にわかには信じられませんが、ドルシラさんがウソをついているとも思いません」
「そんな方ならぜひわが学園に招聘したいですね」
好意的な声がいくつも生まれる。
ドルシラの師が話の通りの実力者なら、きっと自分たちも多くの恩恵を得られるという打算だ。
「彼は男性なのですが、問題ないでしょうか?」
とドルシラは首をかしげる。
学園の敷地に入って以降、ひとりも男性を見かけないのだから疑問も浮かぶというものだ。
初めて周囲に困惑が浮かぶ。
「ここは男子禁制ですので……相当な理由がないかぎり、プリシラ様がお認めにならないでしょう」
と教官のひとりが答える。
プリシア・ルーファンス。
この学園の創設者にして生きる伝説と謳われる大英雄。
プリシラがここに学園を設立して自身の拠点を置いて以降、大陸中央から戦争の気配がまったくなくなったと言われる。
その発言力、影響力のすさまじさは計り知れない。
「プリシラ様ほど偉大なお方なら、きっとルネス様の真価にお気づきになると思います」
と話すドルシラの瞳は純粋そのもの。
彼女は本気で言っているのだ。
「提案はしてみますけど……」
誰も採用されるわけがないという表情だった。
アガタたちに出された試験は与えられた素材を使って、物を完成させろというもの。
素材と器具をみればおそらく「初級ポーション」か「初級毒消しポーション」の作成を想定していると予想できる。
「普通につくっても埋もれるだけだろうなぁ」
無難なものだと注目を集められないだろうと彼女は思う。
他の三人と軽く話したが、受験生はみんなレベルが高そうだ。
本気を出さないとトップ争いは厳しいだろう。
目立ちたいのではなく、ルネスの「影響力を持って欲しい」という期待に背きたくないからだ。
誰がトップを獲れるか競争だなと思いながらアガタは張り切って作成する。
「はい、ポーションができました!」
できた生徒から順番に試験官にアピールしていく。
「ふむ。見事な初級ポーションと毒消しですね」
教官たちは順番に査定する。
(初級ポーションの出来を評価するって、何気に難しいのにすごいなあ)
とアガタは感心した。
ルネスなら余裕でこなせるとしても、自分にできるだろうか。
いろいろ考えながら完成させる。
「あとはあなただけ……こ、これは?!」
試験官はアガタの机の前で立ち止まって驚愕した。
「『中級ポーション』『中級毒消しポーション』、さらに『魔力回復ポーション』『疲労回復ポーション』?!」
「たしかに素材の扱い次第ではつくれるけど、学生の知識と技術じゃないでしょ?!
」
他の試験官も驚嘆する。
「いや、素材と器具を見たらつくれるので……」
アガタはとっさに言ってしまった。
「中級!? それに回復系を二種類も!?」
受験生たちもみんな驚いて視線がアガタに集中する。
疲労回復や魔力回復のポーションは『回復系』と分類され、治癒ポーションよりもさらに作成が難しい。
魔工科を目指して研鑽してきた生徒たちだからこそ、アガタが飛びぬけて優秀なことは理解できた。
(お、これはいい感じなんじゃないかな?)
尊敬と畏怖がまざった視線を感じ取ってアガタは内心ほくそ笑む。
このまま自分が信頼を集めて発言力を勝ち取れば、ルネスの思惑通りになるだろう。
「あたしの師匠はもっとすごいですよ!」
と彼女は言ってそんなに大きくない胸を張る。
「なるほど、師匠がいるなら納得ね!」
「きっと名のあるすごい人なのね」
試験官も受験生も口々に言う。
何人かは師匠に恵まれたと言って、うらやむ視線をアガタに向ける。
だが、彼女は当然だと受け入れた。
(ルネスに教えてもらえることを、うらやましがられるのは当然だもんね)
と思って彼女は師匠のすばらしさを、受験生たちに語りはじめる。
「あたしなんて師匠の足元にも及ばないから! 比べ物にならないすごい人なんだから!」
「……まあ、そういう人じゃないとアガタさんの年の子を、このレベルまで引き上げるなんて不可能でしょう」
受験生たちは半信半疑というか、疑い八割くらいだったが、試験官たちはすんなりと信じてくれた。
「そうなんですよ! きっとこの学園でも通用すると思います!」
と彼女は言う。
そして自分の言葉が名案じゃないかと思った。
(みんなに相談しなきゃ)
と決める。
もっとも自分たちの言い分がどの程度通るかわからないのだが。
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