第6話「英雄女学園の入学試験2」
ローズは闘技場に移動していた。
いろんな模造武器が並べられている。
「認められたら合格だ。腕を見るだけだからな」
とクラリスは言って近くにあった剣をとった。
「ではいくつかの組にわかれてさっそくはじめよう」
教官たちは次々に武器をとっていく。
広大な場所なので、同時に六組くらいは戦闘できそうだ。
「試験を受ける者以外は観客席に下がっておけ」
とクラリス教官の指示に、ローズたちは引き下がる。
試験は順次進み、クラリス教官はローズを呼び寄せた。
「聞いているぞ。アーマーベアーを倒したそうだな?」
というクラリス教官の表情に油断はなく、かまえに隙はない。
これまでの相手とは違って本気だとローズは気づく。
「アタシだけの手柄じゃないですけど」
ローズは謙遜する。
「だが、優れた剣士がいなければ勝てるはずはない」
とクラリスは剣をかまえた。
「ルネス以外はそうだろうな」と思いながらローズもそれに倣う。
「見せてみろ」
クラリスの動きが直後ブレて、ローズは剣を受け止める。
「ほう!」
クラリスは感嘆した。
自分の動きに対応できる者は少ない。
ルネスが言っていた『優れた戦士は予備動作がない』というやつだ、とローズは思いながら反撃する。
「むっ!」
だが、それはローズだって同じ。
ルネスに「筋肉が1ミリ……髪の毛1本分ほど動いた」と指摘されながら、動きを修正してきたのだ。
「ほう! その年ですでに『無の作法』を会得しているとは! 末おそろしいな!」
数回打ち合ったあと、クラリスの剣が弾き飛ばされて、ローズは剣をクラリスの鼻先に突きつける。
「アタシの勝ちですか?」
「ああ。まさか私が敗れるとは」
クラリスの敗北を見ていた観客たちがいっせいに騒ぎ出す。
「そんなバカな!? クラリス教官が負けるなんて!?」
「大陸中央で五指に入る剣豪なのよ!?」
「何なの、あの子は……」
ローズはたしかにけっこう強かったな、と納得する。
「おそろしい生徒が入学してくるのだな」
クラリスは微笑みながら剣を拾う。
「きっとお前のような奴ががこの大陸で一番の剣豪になるだろう。私は歓迎しよう」
と彼女はローズに声をかける。
「お言葉ながら教官。アタシよりアタシに剣を教えてくれた師のほうがずっと強いです。おそらく彼こそ大陸一の剣豪でしょう」
ローズは首を横に振って話す。
「何だと!? そんな人物がいるのか!?」
クラリスは驚いて目を見開き、大きな叫び声をあげる。
だが、すぐに冷静さを取り戻す。
「それはどんな人物だ? 可能なら招聘したい!」
クラリスの表情は必死で、本気度が伝わってきたので、ローズは打ち明ける。
「アタシの同郷でルネスという少年です」
◇◇◇
サビーナは魔法使いの試験を受けていた。
「まずは魔力容量を試す。この水晶に手をかざせ」
「定番ね」
試験官の指示を聞いてサビーネはそっと息を吐く。
「【感応水晶】に順次手を触れていくように」
魔力が低い者は「0」か「1」が浮かび、高い者ほど数字は大きくなる。
さすが英雄女学園の受験生と言うべきか、「2」未満はおらず、「3」か「4」が多いい。
「ほう、これはすばらしい。6を出すとは。この年としては極めて優秀だ」
と教官が褒めたのはシアーシャだった。
サビーナは「魔力量は多そうだったな」と思う。
「どうかしら?」
シアーシャはわざわざサビーナのそばに来て、高らかに笑って自慢する。
他の者も計測していくが、「5」はいても「6」は彼女ひとりだけ。
「最後! サビーナ!」
と試験官が呼ぶ。
「ああ、あの田舎者ね」
「かわいそうに」
サビーナを見る何人かの女子生徒が憐れみの視線を向ける。
(愚か者とは他者の力を測ることもできず、根拠があるわけでもなく己の優位性を疑わない者のことってルネスくんが言ってたもんなあ)
事実なのだろうなと思いながら水晶に触れて、遠慮なく魔力を注ぎ込む。
水晶はミシミシと軋みはじめて亀裂が生じ、「12」という数字が表れる。
「ウソ、でしょ!? 高級な【魔感水晶】にヒビが?! 宮廷魔導士でも壊れないのに!? この子の魔力はそれ以上なの!?」
目撃者となった試験官が、我を忘れて叫ぶ。
(こんなの脆いものも壊せないなんて、もしかして宮廷魔導士って大したことない?)
とサビーナは思ったが、さすがに口を慎む。
「英雄女学園で味方を増やす」というのがルネスの指示だから。
「そ、そんな……」
サビーナをバカにしていた女子たちの表情は真っ青になる。
魔力許容量が高いのはそれだけでステータスだ。
仮に他の技能が低くとも、魔力を動源にした希少価値の高いものを扱えるので、社会的地位と収入が保障される。
彼女たちからすればサビーナはいきなり勝ち組の座を得た存在だ。
彼女たちの動揺をサビーナは把握したが、特に何も感じない。
(ここで味方を増やすのがルネスくんの指示だしね。敵対されないならよしとしよう)
とサビーネは判断する。
彼女は自分が人望を集めるタイプだとは思わないからだ。
次に第二の試験で演算力を試され、ここでもサビーネはトップに立つ。
そして第三の試験になった。
「お前たちの魔法発現力を調べる試験だ。この金属に向けて最大の魔法を放ってもらう」
と教官が指示を出す。
(魔力容量と発現力は別物ってルネスくんが言ってたなあ)
とサビーネはなつかしくふり返る。
「魔法の威力は発現力で決まるもの。魔力許容量が高くても、それだけじゃね」
と誰かがひそひそと話す。
その誰かが言うようにどれだけ魔力を持っていても、発現力が低ければ魔法使いとしては落ちこぼれになってしまう。
サビーネまで高ければ別なので、やっかみが含まれているのだろう。
順番に教官が提示する壁に貼られた黒い金属に魔法が放たれるが、びくともしない。
それでも発現力をチェックできているようで、何人かが書類にペンで書きこんでいる。
「かった。何あれ。魔力絶縁体かしら?」
と生徒たちがつぶやく。
(魔力を通さず、魔法の影響も極端に受けづらい素材、だっけ?)
サビーネは「魔力絶縁体」もルネスから教わっている。
英雄女学園の受験生だけあって、中堅と言われる三節呪文を唱える者がほとんだ。
それでも金属に傷ひとつつかないのは生半可な強度じゃない。
「次、サビーナ」
名前を呼ばれたので前に出る。
「あの子だわ」
「発現力はどれくらいなのかしら」
「宝の持ち腐れの可能性だってあるわよ」
畏怖、敬意以外にも非好意的な発言は出た。
だが、サビーナは驚かない。
英雄女学園の受験生になるなら、「魔力許容量と発現力は別物」という知識を持っているのは当然。
常に「じゃあこっちは?」と問われる関係は悪くない。
「では発現させろ」
「【
サビーナは遠慮なく魔力を練り上げ、自分が使える最強の四節呪文を唱えて、激しい雷撃を金属に叩きつける。
派手な音ともに金属に多数のヒビが生じた。
「壊せなかった。私の実力じゃあこんなものかぁ……」
ルネスくんなら余裕で破壊しただろうな、とサビーナはつぶやく。
「ば、バカな!? 絶縁金属なのよ!? 学生の攻撃で壊れるなんて!?」
教官が半狂乱になっている。
(絶縁金属? あの程度で……?)
サビーナは疑問を抱く。
ルネスの話だと絶縁金属は魔法攻撃をろくに通さない、魔法使いの天敵のはず。
「あなた、いったい何者? 誰に師事していたの? 『
畏怖がこもった視線と問いかけを、ひとりの女子生徒がする。
「いえ、ルネスという同郷の男の子よ。ルネスくんは私とは比較にならないくらいすごい魔法使いなの」
サビーナは否定して事実を告げた。
場はシンと静まり返る。
誰もが彼女の言葉を理解できない、という表情をしていた。
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