第5話「英雄女学園の入学試験」
英雄女学園は大陸の中央、聖教国の首都ガリシアに存在している。
聖教国は中立を公言しているため、戦争の火種を避けやすい、と創設者であるプリら・ルーファンスが判断したという。
そんな場所へローズ、サビーナ、ドルシラ、アガタの四人がやってきた。
『湖の剣』は約束を守って彼女たちを推薦してくれたのである。
もっとも、試験に合格しなければ入学できないのだが。
「ここが英雄女学園か」
とローズがつぶやく。
研究棟、実戦エリアなどを持つせいか、英雄女学園の敷地は広い。
彼女たちは故郷の村がいくつ入るのだろうと思いながら、案内書に書いてあるように校門をくぐって中庭へ移動する。
「ここで私たちが有名になって影響力を持つ、というのがルネスの計画なんだよね」
とサビーネが言う。
「ローズさんとサビーネさんはともかく、わたしは大丈夫でしょうか?」
不安そうな顔をしたのはドルシラだ。
「……一番ドロシーがいけそうだけど。やばいのはあたしじゃない?」
と言ったのはアガタである。
「四人がかりならいけるでしょ」
ローズが前向きな発言をしてまとめた。
「どこの田舎者かしら?」
「いやねえ。選ばれし者しか入れないはずなのに」
そんな四人を見て他の受験生らしき女子たちがくすくす笑う。
「注目を集めてるね」
サビーナがいやそうに顔をしかめた。
「まあどう見ても田舎者だしね。アタシたち」
ローズはまったく気にせず平然と言葉にする。
『湖の剣』が間に入ってくれたおかげでアーマーベアーの死骸を売れたのだが、多くは村のために残した。
彼女たちなりに親孝行をしたかったからである。
結果として彼らはせいぜいありふれた町娘程度という服装だ。
「思ったよりいいところの家の出身が多そうだね」
とアガタが言う。
「英雄を輩出することを目的とした実力至上主義の学園。出自は不問」と『湖の剣』が言っていたので、もっと貧しい子もいると思っていたのだ。
「そりゃそうでしょう」
と近くにいた青髪の身なりのいい女子が彼女に話しかける。
「才能は同じだとしても、環境がいいほうが発見されやすく、磨かれやすいもの。才能は平等だとしても、ほかは違うのよ」
「なるほど。もっともだね」
とローズは彼女の意見にうなずいた。
「わたしたちが恵まれている、という点に関しては異論がないですね」
「たしかに」
「言えてる」
ドルシラ、サビーナ、アガタの順にだが、全員が賛成する。
ルネスがそばにいて指導を受けられるのがどれだけありがたいか、彼女たちは本能で感じているのだった。
「まあ、バカな子はあなたたちを田舎者だと思って見下してるけど、全員がそうじゃないわ」
と青髪女子は好意半分、好奇心半分という表情で四人を見る。
「不利な環境をねじ伏せてチャンスを掴むナニカを持ってるから、あなたたちはこの場所にいる。そうでしょ?」
「否定する意味はなさそうだね。少なくともあんた相手には」
とローズがみんなを代表して答えた。
「ふふ。少しは評価されたのかしら。わたしはエヴリンよ。よろしく」
「よろしく。アタシはローズ」
ローズが代表してエヴリンに名乗り、仲間たちも紹介する。
「故郷が同じなの? いいわね。わたしはひとりで来たから」
エヴリンの声は明るく屈託がない。
本当にローズたちのことを羨ましがってるようだ。
そこに緑色の制服を着た二十代後半と思しき若い女性が姿を見せる。
「受験生諸君、よく来た。わたしはクラリスという」
中世的な美貌を持つ女性、クラリスは中世的な声だった。
受験生全員が黙って彼女の言葉に耳をかたむける。
「今より入学試験をおこなう。言っておくが、合格枠というものはこの試験に存在しない。合格とみなした者は何人でも採用する」
という彼女の言葉にざわつく者と、知っていたという反応をする者に分かれた。
ローズたちは後者である。
「もしかしたら」
とルネスが言っていたので、「またルネスの予想が当たった」という認識を抱く。
「逆に言えば基準を満たす者がいないなら、合格者もなしだ。英雄女学園が求めるのは選ばれし素質を持つ者のみ! 凡人は凡人の道を進むがいい!」
クラリスの厳しい声にピリピリと緊張した空気が受験生たちに広がる。
「では希望コースに沿って実技試験を開始する! 担当する試験官の指示に従って動くように!」
という説明のあと、複数の女性たちが二人一組となって、離れた場所に立つ。
片方が「武器戦闘」「魔法戦闘」「神職」「魔工学」と書かれたボードを持っている。
「一度お別れみたいだね」
とサビーナが言うと、
「誰が総合トップとれるか競争してみない?」
ローズが提案した。
「友達同士で争うのですか?」
ドルシラは困惑を浮かべる。
「いいね! トップを取った人だけルネスにご褒美もらえるやつ!」
アガタはもろ手をあげて賛成し、その発言にドルシラとサビーナがピクッと肩を震わせた。
「そういうなら私もやろうかな」
とサビーナは言う。
「ルネスさまのご褒美ならやります」
ドルシラがひかえめに、それでいて目に闘志を燃やしながら応じる。
「あら、なかなか言ってくれるじゃない? わたくしたちは眼中にないのかしら?」
と美しい金髪をロールにした女子が話しかけてきた。
「仲間内の話に入ってこないでくれないかな?」
ローズが気の強いまなざしをぶつける。
「なら挑発的な言動は、もっとこそこそしてくださる?」
金髪ロールは負けじと睨み返す。
「お前たち! 喧嘩はあとでやれ! 仲良く試験に落ちる可能性もあるのだぞ?」
クラリスが彼女たちをまとめて叱責する。
「たしかに大口を叩いて無様をさらす輩は多いものね」
金髪ロールはふんと鼻を鳴らす。
「わたくしはシアーシャよ。覚えておきなさい」
と言ってロールを揺らしながら去っていく。
「何か意図せず知り合いが増えたね」
「クラリス教官が言うように、落ちたら意味がないけどね」
四人は笑い合って散った。
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